落としたらダメ
転送魔法によってその空間のどこかに飛ばされた俺は、まず周囲を確認する。
「ここは……森か?」
俺が飛ばされたそこは薄暗く、木々がたくさん生えていて大量の落ち葉が地面を埋めている。
「ここであの宝石を探すんだよな。とりあえず適当にぶらついてみるか。どこに宝石がありそうとかもわかるかもしれないし」
そうして俺は地面の落ち葉を踏みつけながら1歩1歩歩き始める。
「こうして歩いていると、こんな空間が学校の敷地内にあるのかと衝撃を受けるな。前世じゃあこんなのありえなかった」
そんなふうにあたりを見回しながら歩いていると、俺の視界に一つの穴のようなものがうつる。
「これは……ほら穴? 意外とこういうところに宝石は入っているのかもな。まだ時間に余裕はあるし入ってみるか」
そうして俺はそのほら穴の中へと足を踏み入れる。中はかなり薄暗くジメジメとしていてどこか気味が悪い。
「このほら穴、どんどん下に下がっていくな。まるで洞窟だ」
俺はその穴を突き進む。進むにつれ俺の位置はどんどん地上から遠ざかってゆく。そのうち俺の視界にある足場はどんどん少なくなっていった。
「なんか……足場が少なくなって……まるでアスレチックだ。そろそろ普通に歩いてるだけじゃ進まなくなってきたぞ。実技ってこういうもんなのか? それにしても……これ。そろそろほんとにただのジャンプじゃキツくなってきた。俺、これでもちゃんと筋トレとかしてたんだけどなあ……。くそ、仕方ない。使うか」
ついに進むのにも苦戦してきた俺は、俺だけいくつもある特権のうちの一つを使用する。
『脚力を10倍に高める権利』
瞬間俺は脚に力をいれて……前方向に跳躍する!
「はあ!」
すると俺はいくつもの足場を飛び越えてゆき、一気に数十メートルほど進むことに成功する。
「よし、これを繰り返すだけで簡単にここの最奥に辿り着けるだろう。はあ!」
そうして俺はどんどんそのほら穴を突き進み、ついにそこの最奥へと辿り着くことに成功する。そしてさらに、俺はそこで目的のものを発見することに成功した。それは石の台座に飾られるように置いてある。
「これか、宝石は。これを終わりまでちゃんと持ってないといけないんだよな。落としたら終わりか……いや、そういえばちょうどいい特権があったな」
そうして俺はそんなことが起こるのを危惧して1つの特権を発動する。
『落とし物をしなくなる権利』
「ほんと、ちょうどいい特権を持ってて助かった。俺のことだし落としちゃう気がしてたからな」
そんなことを口にしながら俺はその宝石をしっかりと服のポケットにしまって、ほら穴の入り口へと戻るのだった。