学力試験へ
それから半年が経った。あれからの日々は午前には身体能力向上のための筋トレと、魔法の練習。そして新たな特権取得のためにいろんなことへのチャレンジ。午後からはひたすら勉強に励んでいた。
正直いうと、実技のほうはあれからさらに増えた特権もあってだいぶ自信があるし、学力もかなりの自信がある。
自分の部屋でそんなことを考えていると、ドアがガチャっと音を立てて開き、母さんが部屋に入ってきた。
「明日でしょう、入試。まだ普段なら寝るには早いけれど……。明日は早朝の馬車に乗って行かないと行けないんだから早く寝ておきなさい」
優しい声で母さんは俺にそう言う。
「分かった。明日、俺が起きれなかったら起こしてね。母さん」
母さんは俺の言葉にやれやれといったふうにしながら俺に「冗談言ってないで早く寝なさい」と言って部屋を出て行った。
俺も母さんを見送ってから自分の部屋でまぶたを落とし、眠りにつくのだった。
翌日、俺は家を出て馬車に乗っていた。
馬車に乗ってると、前世バスに乗っていたのと同じような感覚になるな。
そんなことを思いながら俺がカバンから参考書を取り出そうとすると、久しぶりに聞く声で俺に話しかけてくるものがいた。
「ねえ、久しぶり! もしかしてテルも行くの? ミリアの受験に」
その声を聞いて俺が顔を上げると、その声の主は俺の想定通り、キュアナ・リヴェレカであった。
思い返せばここ半年はずっと入試対策をしていた日々だったから、確かにキュアナと出会うことはほとんどなかったな。俺が気づいてなかっただけですれ違ったりはしていたのかもしれないけど。
「久しぶり。俺に関してはキュアナの言う通りだ。それで、俺もってことはそっちも行くのか?」
「そうだよ。私もあそこに行こうと思うの。だからテルは……競合相手ってことだね」
「確かに。キュアナの言う通り俺らはそう言う関係になるのか。まあでもさ、お互い合格できたらいいよな」
おれのその言葉に彼女は笑顔でコクリと頷いて「そうだね」と、返す。
それから俺たちは、馬車の中でお互いに問題を出し合ったりして受験対策をしていた。そしてついに馬車はとまり、俺たちは馬車を降りる。
「ひゃー、これがかの有名なミリア総合学院かー……」
俺たちの前に聳え立つ大きなシルバーの門を前にしてキュアナはそう口にする。
前世にも大きな学校はいくつかあったが、ここまでのはなかったな。一つの小さな学校くらいの建物がいくつも並んでいる。
そして俺たちはその門を超えて、学校の敷地内へと入っていく。
「外からみてもすごかったけれど……実際に入って歩いていると、これはもう学園の規模じゃないね」
「ああ、正直これはもう街の規模だ」
柵に覆われた一つの街。それがおれのこれに対する第一印象だった。
それから40分くらい歩いて、ようやく俺たちは学力試験の会場へと辿り着いていた。
「ここに来るだけでわりと体力を使っちゃった気がするよ……」
彼女は猫背になりながらそんなことを言う。
「ああ、ここは俺の想像の何倍もデカかったよ。ちなみにこれは、門の外からここをみた時の想像よりもってことだ」
「うん……これだけ歩いてようやくここの敷地の半分ってすごいよね」
そうだ。彼女の言う通りここはこの学園の中心。ど真ん中だ。つまりここをまっすぐに端から端まで歩くだけで80分ほどかかる。入学後は移動が大変そうだ。
そして俺たちは試験の受付に来た。そこではなんか水晶のようなものに手をかざさせられる。なぜだかそこで受付のお姉さんがどこか引き攣ったような顔をしていたが気のせいだろう。そしてその後、簡単に手続きを終わらせた俺たちは会場へと案内を受ける。
「ここで学力試験を受けるのか」
俺はその広い、机と椅子がずらっと大量に並べられた空間をみてそう言葉を放つ。
「受験者は3000人ほどだっけ? そのうちの半分の人数が午前に、私たちと同じように学力試験を受ける……だいたい1500人がこの会場で一気に学力試験を受けるんだ……」
キュアナはこの大きな空間に、呆気に取られていた。
「にしても1500人が同じ会場で受ける必要なんてあるんだろうか? 別に会場を分けたっていいだろうに」
俺はそんな疑問を吐露する。むしろ前世ではそれが普通であったからこそ、かなり疑問に思ってしまう。がそんな俺の疑問に対する回答はキュアナがすぐに教えてくれた。
「えぇ……? テル、知らないの? 特権によるカンニング対策のためなんだよ、この体制は」
彼女は呆れたようにそう言う。
「特権によるカンニング対策? そりゃどういった対策をするためにこんな体制にしてるんだ?」
俺はその対策とやらがどんな内容かが気になったため、それを知っていそうなキュアナに聞く。すると期待通り彼女は答えてくれる。
「この学校には、一定の範囲の中で特権が発動したとき、それを感じ取れる特権を持ってる人がいるんだって。だからそのために一つの空間の中でやっているみたい。一つの空間ならその人がそれを感じ取った瞬間にすぐ他の人が駆けつけれるしね」
「ははあ、なるほどなあ」
「それじゃあそろそろ始まるみたいだからお互いの席に着こうか。無事に合格しようね! バイバイ!」
俺はそんなキュアナの言葉を聞き届け、自分の席に着くのだった。