学園へ向けて
「ごちそうさまでした」
切り分けたホールケーキを俺たち家族は1人3切れずつそれを食べ終えた。そうして俺は席を立ち、自分の部屋へと向かおうとする。と、突然母さんに呼び止められる。
「ねえ、テル」
「? どうしたの? 母さん」
珍しいな。母さんが食事の後に俺を呼びとめるだなんて。
「テルはこれからどうするのか決まってる?」
そんなことを、母さんは俺に問いかける。
これからどうするかか。それは多分、将来の話だろう。この世界で15歳というのは大きな人生の別れ目となる。俺たち人間は、15歳で特権が手に入る。だいたいの人たちはその特権を活かせる人生を送ろうとする。まれに特権とも関係ない人生を送る人もいるが。
まあそういう例外を除けば、特権を活かす人生を選ぶのが定石である。それだけ特権はこの世界の人にとって大きなものなのだ。
「どうするか、かあ。まだあんまり決まってないんだよね」
まあ最終目標みたいなのは確定しているわけだが。
「まあ、テルの特権だと決めづらいわよね」
俺の特権だと決めづらい? あぁ、そうか。確かに俺の特権はいくつもの道を作り出せるからなあ。
「うん。俺もなるべくいい道を選びたいんだけどさ。この特権を最大限に活かせる将来がわからないんだ」
俺の特権は、無限の可能性があるといえる。我ながらすごい特権を与えられたと思う。神様に感謝だなあ。
「いい道ね……。ねえ、テル。私の話を少し聞いてみてくれない?」
「分かった」
俺の返事を聞いた母さんは神妙な面持ちで俺に語り始める。
「テル、あなた『ミリア総合学園』に行くつもりはない?」
母の口からそのような名前が出る。
『ミリア総合学園』その学園は俺も知っている。それは、この世界の学園の中でもトップクラスの名門校。総合の名の通り、さまざまな分野を学べる学校である。なぜかこの村にもチラシのようなものが回ってきて、うちにもそれが届くため、知る機会がたくさんあった。
ミリア総合学園……確かにあそこなら俺の特権を全体的に底上げできて、俺の努力次第ではあるだろうけどさまざまな分野で『特別』になれるかもしれない。
「ミリア総合学園か。あそこは確かにいい学校かもしれない……」
「私、あそこならテルのその特権の力を引き伸ばしてくれるかもしれないと思って……。テル、どう?」
母さんは俺にそう問う。
これからどの道へ行こうか迷い続けてもスタートが遅れるだけ。ならこの提案に俺は……
「いいと思う。俺はあそこに行きたい」
俺がそう答えると母さんはぱあっと表情を明るくする。
「よしっ! あなたがこれからすることは定まったわ!」
「定まったって言うと……?」
「あなたも分かっていると思うけど、ミリア総合学園に入るには入学試験を合格する必要がある。そしてその入学試験の難易度はとても高い。だからあなたがするべきことは?」
母さんが俺に答えを求めてくる。
「受験対策……かあ」
受験か。嫌な言葉だな。前世での大学受験はわりと地獄に近しかった。今回はこの世界でトップクラスの学校に挑むわけだ。さらなる地獄を味わう羽目になるかもしれない。
そう考えると少しやる気が削がれてしまう。
「あそこの入学試験は学力と実技の二つをこなさなきゃ行けないってのは知っているわよね? テル」
「うん。さすがにそれくらいなら知ってるよ」
学力は歴史、言語、魔法歴史の3つの分野でテストをしなければならないらしい。まあひたすら勉強してどうにかするしかないな、これは。
次に実技。これは毎年大きく内容が変わるようで、正直対策のしようがないと思う。ただ特権や魔法、そして身体能力を使うということは一貫しているらしい。やれることといえば新しく特権を手に入れるくらいかな。
「なら良かった。とりあえず私、今日のうちに学力でやる3つの分野の参考書を買ってくるわね」
「本当? ありがとう。母さんが買ってくれるのか」
もともとは自分の小遣いで買おうと思っていたから母さんのお金で買ってくれるのは財布に優しくてありがたい。
「そうよ。だから頑張って。私からミリア総合学園を勧めたのだから、私も最大限サポートするし、あなたも行くと決めたのだから最大限努力してね」
「うん、わかったよ。俺も最大限の努力をする」
そうして、俺は『半年後』の入学試験に向けて勉強と特訓を開始するのだった。