神様ネット~破壊神様の場合~
ここは神界。
今日もまた、神様ネットにお便りが届く。
今回回答するのは破壊神。
ツンツン尖った金髪にぎらついた赤い目のゴリラ系マッチョ神である。
「ククク……我輩が直々に答えてやるのだ。さぞかし有意義なものなのだろうな……?」
ぎらついた目を輝かせながら、神様ネットの置かれた一室におわす破壊神様は、早速箱の中から一通目を取り出した。
「なになに……ペンネーム:生臭坊主(男性・38歳・司祭)か……ククッ、破壊の神を信奉するなら、少しくらいは型破りな破戒僧の方が――どれどれ?」
『はじめてお便りさせていただきます我らが主。私はとある大聖堂で司祭をやっている者です』
「大聖堂付の司祭が生臭なのか! これは傑作だ! どんな生臭をやっておるのだこやつは!」
『近年主の活躍を聞き、私もいくばくか主を見習って世界に対し行動を起こそうと思い至りまして』
「ほほう。ならばまずはデモから始めて慣れてきた辺りで暴動を扇動してゆくゆくは――」
『なので本日より私は魔王となる事にいたしました』
「ふぁっ?」
『早速近隣諸国の姫君を誘拐し、相手の城の目の前に魔王城を建ててやるつもりです』
「お姫様誘拐っておま――生臭ってレベルじゃねーぞ!? 第一歩で飛びすぎちゃってないか!?」
『万事つつがなく進みました際には、さらった姫君を利用し、主の来訪を御祈願させていただきます所存故、その旨どうぞ――』
「いや、いやいやいや! そりゃ頼まれればいくけどさ! いくけど……もうちょっとこう、段階っていうか! お姫様さらったら勇者とか出てきちゃうし! 討伐されちゃうぞお前! 大丈夫なのか?」
『尚、世界を動かす事に成功した際には、最終的には勇者に倒される予定です』
「潔いな!? 本気を感じるなお前! ある意味カッコいいぞ!!」
これには破壊神様もにっこりである。
「よーし、こいつに呼ばれたら顔出してやろう。勇者の一度や二度くらいは倒してやるぞ……予定入れとかないとな」
心意気を感じる者には男気も見せる破壊神様であった。
「次の奴は……と、ペンネーム:カレー食べたい(男・22歳・冒険者)……食えよ! 好きなだけ!」
『はじめまして破壊神様。僕は特に貴方の信奉者ではないのですが、たまたま戻った故郷の村で箱を見かけたので投書させていただきました』
「ふん、我輩は自由を愛する気質故、別に信者じゃなくとも話くらいは聞いてやるぞ。さあ寛大な我輩にどのような話を聞かせるつもりだ! 見てやろう!!」
破壊神は寛大であった。
それでいて尊大であり、そして雄大でもある。
破壊とは人々を恐れさせ、同時に人々に様々なものを与えうるもの。
それ故、彼は全てを拒まない。
『実は僕には恋人として付き合ってから5年になる幼馴染が居るのですが』
「ちっリア充かよ、死ねっ」
破壊神様は幸せに生きている人間が憎くて仕方なかった。
『僕が結婚資金を稼ぐために冒険に出ていた間に隣家の男に寝取られていたようで、先程彼女にフラれてしまいました』
「……強く生きろよ」
破壊神様は不幸な人間には同情的であった。
『僕はこんな世界が憎くて仕方ありません! 破壊神様、どうかこの世界を滅ぼしてください!!』
「いや、気持ちはわかるよ? すごく解るけどさ……流石にそう簡単には世界は滅ぼせねぇなあ……」
個人が願うにはいささか大きすぎる願いである。
世界を滅ぼす為に破壊神様にご出動願うには、数多の命を捧げるか、あるいは高貴な命を捧げなければならない。
『もし無理なら彼女を寝取った男に天罰を下してください』
「OK解った。寝取った男死ねぇ!」
ばち、と、破壊神様の左手から一筋の光が弾け――それが雷となり、ある村の一人の男へと降り注いだ。
「ふはははは! これで寝取り男は死んだはずだ! さあ次だ次!!」
その後も様々なお便りを読み続け、そろそろ一日も終わろうかというころ。
お便りが届く間隔も途切れ、「今日はもうこねぇかな」と破壊神様のテンションが落ちてきた辺りで一通、届く。
「タイミング的にこれが最後か? ペンネーム:何もかも失った女(女・19歳・雑貨店店主)。なんか名前だけでロクでもねぇ印象受けちゃうなあ……」
既に低かったテンションが駄々下がりになっていた。
読み進めるのも止まり「このままやめちゃおうか?」と迷ってしまったが、最終的には神としての矜持が勝り、渋々読み進める。
『初めまして破壊神様。貴方が全ての破壊を司る神なのだと聞き、どうしても叶えていただきたい願いがあって居てもたってもいられずお便りいたしました』
「ほうほう、その破壊を司る神様に何の用事なんだぁ?」
訝し気に、だが誰でもいい訳ではなくあくまで自分目当てという事で一応は読み進めてゆく。
どうせくだらない願いだろうと思いながら。
『実は先程、私の恋人が天からの雷によって亡くなったのですが』
「ほう、それはまた不憫だな」
聞き覚えのあるというか、見覚えのあるというか。
そんな印象を受けながらも、破壊神様は敢えてそれを口にはせず、女の話に目を通す。
『これは貴方のやった事ですよね? 今すぐ依頼した相手に雷を落としてください!! 私の幸せを返して!!』
「OK解った死ねぇ!!」
破壊神様は迷わず雷を放った。
今回雷が落ちた先は――
「おっといけねぇ、狙いがズレちまったぜ!」
――恋人を裏切って間男にうつつを抜かした馬鹿女である。
「テヘペロテヘペロ~いやあ変に悲劇ぶってるっていうか、自分を被害者みたいに考える馬鹿女ってマジで嫌になるよなあ……」
うっかりミスをおどけて誤魔化しながらも、破壊神様はかつての実体験を思い出し、ちょっと嫌な気分になった。
「ふん、これで終わりか? ならもう今夜は酒でも飲んで……うん?」
一応は箱の中を確認してから帰ろうと思った破壊神様だったが、日付が変わる寸前、一通箱の中に転移してきたのを見て「なんだこりゃ?」と首を傾げる。
ギリギリのタイミングで送られたお便り。
どうしたものかと、一思案し。
「……まあ、読むだけ読んでやるか」
見て見ぬふりをするという選択肢もあったが、先程の一件で目が汚れていたのもあり、目直しのつもりで手に取った。
「ペンネーム:変態皇帝ネロ(男・2521歳・皇帝)か……変人枠だろうか?」
変にドン引きなお便りだったらどうしようかとも思っていたが、どうやら面白おかしい人間の可能性が高そうだと、破壊神様は安堵する。
こんな時は、少しくらい変な奴を見て笑いたかったのだ。
そういう気分になる事が、神様にもあった。
『余はかつて世界を制した皇帝であったが、少し前に女になった』
「しょっぱなからフルスロットルかよ、久しぶり(千年くらいぶり)にここまでいかれてる奴を見たな……」
『だが最近、女であることにも飽いてしまったので』
「まあずっと女ってのも飽きるよな。俺たちもたまには性別変えるし」
『神になることにした』
「ふぁっ!?」
投稿者が突飛な事を言うのはよくあることとはいえ、最初に読んだ「魔王になります」並にぶっとんだ願望を口にする輩を見る事は破壊神様とてそうそうある事ではない。
まして同じ日に二人目である。なんたる偶然。なんたる奇跡。
だが、知識の神が豆鉄砲を喰らったかのような顔になりながら、彼はとがった髪をぽりぽり、「あのなあ」と深いため息をつく。
「神になるって、そりゃ言うだけならできるけどそう簡単には」
『無論人の身のままで神の力を得られるはずはないとは解っている』
「まあそりゃそうだよな。せいぜい人のまま神を標榜するとか、本気で信じ込むにしたって周りからは狂人扱いされるのが関の山って感じだぜ。人間じゃな」
『そこで余は近々魔王になる予定の男と接触し、そこで降臨させる予定の破壊神の器となる事にした』
「最初の奴の関係者かよ!?」
まさかの繋がりである。
基本的に投稿はワールドワイドだが、時としてこのような事もあるのかと破壊神様は驚きを禁じ得なかった。
『当人は無理だと言っていたが』
「おいおい生臭坊主困っちゃってるじゃねえかよやめてやれよ」
『余は神になると決めたので問題ない』
「問題大ありだろうが!? やめてやれよあいつ真面目にやってるんだからさ」
『さあ余に降り注ぐがよいぞ破壊神よ! 余はいつでも大歓迎だ!!』
「我輩にも選ぶ権利がある!!」
始終ハイテンションなまま自己中心的な内容でまとめられた投稿に、破壊神様も「なんて身勝手な奴だ」と人間の面倒くささを感じずにはいられない。
「……『生臭坊主』の召喚に応じるの、やめようかなあ」