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ケセランパサラン

作者: 入江 涼子

 私の家には不思議な生き物が住み着いていた。


 白い毛玉か綿あめのようなふわふわした外見だが。それに似合わず、かなり大食漢だ。私がベビーパウダーを与えると凄い勢いで食べる。ガツガツとね。


「……ケセケセ!」


「あー。うまい、もっとくれ?わかったわよ。まだあったかな?」


 仕方ないので新しいベビーパウダーがないか探しにいく。目指すは脱衣場だが。……ないじゃんか。これは買ってくるしかないな。ため息をついた。

 あいつが住み着いてからはベビーパウダーやら白粉にかかる費用がかさむようになっている。見かけに反してだ。私は財布を探しに行ったのだった。


 30分程して近隣のドラッグストアに行く。今は夕暮れ時だ。午後5時くらいか。そんな事を思いながらテクテクと歩いた。確か、あいつは名前をケセランパサランとか言ったかな。小さなバッグ片手にヘックションとくしゃみをする。今は12月の下旬だ。ジャンパーにマフラー、ニット帽、手袋は欠かせない。北風も吹いて寒い中、早足で急いだのだった。


 ドラッグストアにて買い物カゴに三分の一くらいになるベビーパウダー、白粉、カラフルなチークを入れた。自分用にウェットティッシュ、お化粧水なども買う。レジに行き、お会計を手早くすませた。


「……合計で5050円になります」


「……はい。じゃあ」


 そう言ってバッグから財布を取り出す。いわれた分だけの金額を支払った。


「はい。丁度ですね。では。こちらがレシートになります」


 無言でレシートを受け取るとナイロン袋に詰めてもらった商品を両手で持つ。財布は既に仕舞っている。よいしょと提げた()


「ありがとうございました!」


 店員さんがにっこり笑顔で言ってくれる。私は軽く会釈をすると店を出た。


 はっきり言って大量に買ったベビーパウダーや白粉などがずっしりと重みを両手に訴える。うう。あいつさえいなければ。ここにはいないケセランパサランに悪態をつきながら家路を急いだ。


 ケセランパサランに早速買ってきたベビーパウダーの包装を破って蓋を開けて。四角いバットにそれを入れて奴の前に置いた。ゆっくりと近づいて小さな口(のような物)を開く。そして勢いよくがっついた。


「……ケセセッ!!」


「……」


 あっという間になくなった。こいつめ、高めのベビーパウダーなのに。一気に食べやがった!

 胸中に怒りやら悲しみが巻き起こる。何とか抑えこむ。我慢だ、我慢。私は仕方ないと怒りをおし殺しながらまたベビーパウダーをバッドに入れる。ケセランパサランはお腹が膨れるまでがっついたのだった。


 奴が満腹になったのを見届けてから私も食事の準備に取り掛かる。そうしたらスマートフォンが鳴った。まだ、冷蔵庫から野菜やらお肉を出したばかりだ。それでも急いで出た。


「……はい。もしもし!」


『……もしもし。夢月(むつき)?』


「あ。美世じゃない。久しぶりだね。どうしたの?」


 私が問うと10年来の友人である美世はフフと笑う。ちょっとハスキーボイスな声が色っぽい。


『いや。その。夢月、元気かなと思って』


「あー。元気にはしているよ。珍しいね。美世から電話してくるのは」


『まあね。あの。ケセランパサランはまだいるの?』


「……うん。いるよ。さっきもね、せっかく買ってきた高めのベビーパウダーにがっついててね。危うくマジギレしそうになったよ」


『……そうなんだ。実はさ、ケセランパサランってちゃんとお世話してるとね。願い事を叶えてくれるって聞いたよ』


 私は美世の話を聞いて確かにと頷く。


「あー。聞いた事ある。成程。ちょっと試してみようかな」


『そうしてみなよ。じゃあね!』


 プツッと電話が切れた。私は良い事を聞いたとルンルン気分になる。夕食の準備に再び取り掛かった。


 簡単に野菜炒めと中華風スープ、ご飯ですませる。私は全部を完食すると「ごちそうさま」と手を合わせた。ケセランパサランはふよふよと何故か空中を漂う。ふと奴に目を向けてみる。


(……確か。ちゃんとお世話をしていたら願い事を叶えてくれるんだったわね)


 私はそれを思い出すと両手を合掌のポーズで合わせた。


「……明日、晴れますよーに!」


 小声で願い事を言ってみる。しいんと部屋に静寂が訪れた。ケセランパサランは相変わらずふよふよしたままだ。なーんだ。何にも変わらないじゃないか。私は拍子抜けした。仕方ないのでお風呂の支度に取り掛かった。


 入浴をすませて。髪をドライヤーで乾かした。終わると寝室に向かう。ベッドに入り布団や毛布にくるまった。次第に眠気がやってくる。深い眠りについた。


 翌朝、日曜日だったが。私は午前6時頃に目が覚めた。ふわぁとあくびをしながらベッドから降りた。カーテンを開けに行く。シャッと音を立てて開ける。


「……あれ。めっちゃ良い天気だわ」


 窓ガラスの向こうに目を凝らしたら。雲ひとつないまだ明けていない夜空に西の方角に沈み行くお月様。冷気がガラス越しに肌に伝わるが。お日様が昇ったら晴天間違いなしっぽい。ふうむと思いながら寝室を出た。


 身支度をすませてから朝食の準備をした。不意にケセランパサランがふよふよとこちらにやってくる。もしかして。奴にお願いしたおかげなのかも。私は微笑むとケセランパサランを突付いた。奴はびっくりしたのか逃げてしまったが。


「……願い事を叶えてくれたんでしょ。ありがとう」


「……ケセ」


 お礼を言うと。決まり悪そうにしながらも返事をした。私はふふっと笑うともう一度奴に触れる。優しく撫でた。今度は逃げない。一通りしたら朝食の準備を再開した。


 ――終わり――


挿絵(By みてみん)


 ↑こちらはとある相互ユーザー様にいただいたFAになります。ケセランパサランを描いていただきました。




 

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