第六件 聞き取り捜査
午前九時半、ゾンビ対策専門社……
「ここがゾンビなんちゃら社か……。案外ちっこいのね」
小向は車から降り、ゾンビ対策専門社の建物を見るとそう言った。なので須川は「よりにもよって会社の目の前でそれを言うな。社員に聞かれたらどうするんだ」と注意した。するとそんな二人に誰かが話しかけてきた
「それでも小さいってところは否定しないんですね。須川さん」
そう言われると須川はすぐに声のした方向を見た。するとそこには一人の男性が立っていた
「お久しぶりです二間さん」
須川はそう言った。すると二間は「今日も何かの聞き取りでここに?」と聞いてきた。なので須川は「ええ、昨日の件について聞き取りをしに来ました」と答えた
「そうでしたか。おそらく父は中にいると思いますので案内しますよ」
二間にそう言われると須川は「感謝します」と言った。そして二間に案内されてください建物の中に入った……
「須川、誰この人」
建物の中に入ると小向がそう聞いてきた。なので須川は「ゾンビハンターの二間さんだよ」と答えた。するとそれを聞いた二間は足を止め、小向を見て「はじめまして、ゾンビハンターの二間雷斗です。宜しく」と自己紹介をした
「小向よ」
小向は適当にそう言った。すると須川がすぐに「すみません二間さん。ちょっとコイツ、色々ありまして」とフォローした
「いえいえ大丈夫ですよ。それより須川さんにも部下ができたんですね」
二間にそう言われたので須川は「ええ、これでも階級的には中間ですので」と言った。すると二間は「ということは、もう前村さんと来ることはないんですね。いい感じのペアだったのでなんか残念です」と言った
「そういえば前村って人だれよ。車の中でも言ってたけど」
小向が突然そう聞いてきた
「四鷹の頃の上司だよ」
須川はそう答えた。するとそれに対して二間が「四鷹の頃……ってことは今は違うんですか?」と聞いてきた。なので須川は「ええ、今年度から本部へ異動になったんですよ」と答えた
「須川さんが本部ですか……。須川さんは四鷹のイメージがあったのでなんか不思議な感じですね」
「はは、そうですか。それはそうと話は変わりますが、二間さんの方は最近どうです? 何かあったりしました?」
須川は話を変えようとそう聞いた。すると二間はすぐにこう言った
「勿論ありましたよ。昨日、社員が亡くなったんですから。それ以降、こっちは色々と大変なことになってますよ」
「確かにこの事件は警察も調べてますし、そちらから見れば大変ですよね」
「えぇ本当に……、っと着きましたここです」
二間はそう言うと扉の前で止まった。そして二人に「少し待っていてください」と言うと扉を開けて中に入ってしまった
「須川、ここって何があるの?」
小向がそう聞いてきた。なので須川は「社長室だよ」と答えた
ガチャッ!
「須川さんどうぞ」
二人がそんな会話をしていると扉が開き、二間がそう言ってきた。なので須川は「ありがとうございます」とお礼を言った。そして小向に「行くよ」と言ってから部屋の中に入った
「お久し振りです須川捜査官」
部屋に入ると、椅子に座っている男性がそう言ってきた。なので須川は「本日は突然来てしまいすみません」と謝った。するとその男性は立ち上がると「いえいえ、これでもそちらの事情は分かっているつもりです。気になさらず……、こちらにどうぞ」と言い、二人をソファーに案内した
「お茶を用意していますので少々お待ちを」
男性は二人をソファーに座らせると、そう言いこの場を離れた。そしてすぐにお茶を持って戻ってきた
「どうぞどうぞ」
男性はそう言うと二人にお茶を出した。なので須川は「度々すみません」と言うと一口頂いた。すると男性は須川にこう言ってきた
「息子から軽く話は聞きましたが、須川捜査官にも部下ができたんですね」
「ええ、部下の小向です」
須川がそう紹介すると、小向は小声で「どうも……」と言った
「小向捜査官とは初ですし、自己紹介をしておきましょう」
男性はそう言うと咳払いをした。そして「はじめまして。ゾンビ対策専門社で社長をしている二間です。以後お見知りおきを」と自己紹介をした。するとそれを聞いた小向は「二間……、さっきの人も二間じゃ……」と言った
「あぁ、さっきのは息子の雷斗です。この会社はゾンビ対策官を定年退職した私の父が始めまして……、父が亡くなってからは私が社長をしています」
二間社長はそう説明した。するとそれに補足するように須川は「因みに二間社長も元ゾンビ対策官で、四鷹基地に勤めてたそう……」と言った
そんな彼、二間健一は今でこそゾンビ対策専門社の社長だが、元々は亡き父と同じようにゾンビ対策官として働いていた。そのためゾンビ対策官の苦労等も知っており、ゾンビ殲滅局に協力的な人物だった
「対策官として働いていたのは何十年も前の事です……」
二間社長はそう言うと壁に掛けてある時計を見た。そして「それではそろそろ本題に入りましょうか」と言った。なので須川は手帳を取り出すとこう聞いた
「すでにご存知かと思いますが、昨日ゾンビハンターの坂下恵斗さんがご遺体で見つかりました。そこで二間社長には坂下さんについてお聞きしたいのですが……」
須川が質問すると二間社長は手を口に当て、考え始めた。そして「坂下君はゾンビ愛護団体の元構成員……っていうのはもう知ってるかな?」と聞いてきた。なので須川は「すみません。坂下さんの構成員時代ついては他の部署の者が細かく記録していまして……、二間社長にはゾンビハンターになってからの話をして頂きたく思いまして」と言った
「ゾンビハンターになってからかぁ……」
二間社長はそう言うと、また手を口に当て考え始めた。そして少しすると「すまない。彼とは話すことはあっても、そこまで踏み込んだ話はした事がないんだ。だから彼のことは私にも分からないんだ」と言った
『やっぱり社長だとあまり関わりとかないだろうし、分からないよなぁ……』
二間社長の話を聞き、須川はそう思った。なので須川は「では、坂下さんについて詳しい人……というのはいませんか?」と聞いた。すると二間社長はすぐに「それなら保志君がよく知ってるよ」と答えた
「では、その保志さんに聞き取りを行いたいのですが、今どちらにいらっしゃいますか?」
須川は少しでも坂下についての情報を聞き出すために、保志から話を聞くことにした。けれど二間社長は「たぶん待機場にいるはずだ。ただ……」と言った
「保志さんがどうかされたのですか?」
須川はすぐにそう聞いた。すると二間社長は「彼女は坂下君が亡くなった報告を聞いて、ちょっとアレなことになってるんだ。だから坂下君について話せるかどうかは……」と言った
「社長! それなら心配ご無用! 私が何とかして見せます!」
二間社長の話を聞いた小向がいつものテンションでそう言った。なので須川は慌てて「すみません二間社長。少々小向には複雑かつ深刻な問題がありまして……」と、小向をソファーの端に押しやりながらそう言った
「複雑かつ深刻な問題って何よ! それに変な事なんて言ってないでしょ!」
小向は須川にそう言い返した。なので須川は「その話し方に問題があるんだ」と言った。すると小向は「別にいつも通りよ」と返した
「そのいつも通りを外で出されるのが困るんだ」
須川がそう言うと、一連の会話を全て聞いていた二間社長が「う〜ん。やはり須川君と小向さんはペアとしてなかなか良さそうだね」と言った。なのでそれを嫌味だと受け取った須川は「すみません。二度と小向は連れてきません」と言った
「なんでよ! 何でもかんでも人のせいにしないで!」
そんな須川に小向がそう言った。するとそんな二人に二間社長は「もし対策官をクビにされたら是非うちに来てね。かならず雇うから」と言った
「私を雇いたいと……、そうなるとこちらしだいですな〜」
小向はそう言うと手で金のジェスチャーをした。するとそれを見た二間社長は笑いながら「ハハハッ! その時になったらちゃんと検討するよ」と言った
「ちょっと社長、冗談もそのへんにして下さい。小向も馬鹿なこと言うな」
須川はそう言うと小向の頭を軽く叩いた。そして二間社長に「社長、申し訳ありませんが、そろそろ聞き取りを行わないといけませんので、この辺で失礼します」と言い、立ち上がった
「確かに勤務中に雑談ばかりは宜しくないからね」
二間社長はそう言うと立ち上がり、部屋の扉を開けた。そして須川に「待機場は分かる?」と聞いた。なので須川は部屋から出ると「ええ、何回も行ってますので大丈夫です」と答えた
「そうか。それじゃあ案内はいらないね」
「はい。大丈夫です」
「これじゃあ捜査頑張って! それと保志君をいじめないでね。ゾンビハンターも対策官と同じで人手不足だから辞められると困るんだよ」
二間社長は二人にそう言った。なので須川は「ご心配なく。いつも通り仕事をするだけですので」と言い、この場を離れた。そして近くにある階段を登り始めた
「はぁ……なんとかなった……」
須川は階段を登りながらそう言った。するとそんな須川に小向は「まったく何してるんだか」と言った
「何してるもなにも小向が原因だ。事情を知ってる人相手ならまだしも……」
『あ、これは触れちゃダメなやつでは……』
須川はそう思い、そこで言うのをやめた。しかし小向は「まだしも?」と聞いてきたので、須川は敵等に誤魔化そうと「いや、何でもない」と言った
『危ない。あのまま話してたら小向の過去の話に繋がるところだった。今度からは発言に気を付けよう……』
須川は心の中でそう反省すると二階の階段に出た
『えっと、待機部屋は……』
須川はそう思いながら廊下を歩いた。するとそんな須川に、突然小向が「普通ならアウトだろ。それ」と言ってきた
『アウト……?』
突然そう言われたため須川は立ち止まった
『アウトって何が……、あ!?』
立ち止まってすぐに小向の言っている意味を須川は理解できた。しかし、小向になんと返して良いか分からず、そのまま固まってしまった
「まったく、須川って結構顔に出るとか言われない?」
小向は須川にそう言った
『……』
「それに嘘とかつけないタイプ、もっと言うなら思ったことをそのまま言っちゃうタイプね」
小向は須川より前に出るとそう言った。しかし須川から何の返答も無かったため、小向は振り返り須川を見た
「須川、何してるのよ!」
須川が固まったままのため小向はそう言った。なので須川は「お、おう。それじゃあ行こうか」とぎこちなく応えた
「あんた、そんなんで聞き取りできんの?」
小向がそう聞いていたため須川は「もちろん。それが仕事だからな」と答えた。しかし小向はそんな須川に「今はやめとけ。そんなんじゃ絶対にやらかす」と言った
「やらかすって何を?」
「今、私に対して言ったことみたいな?」
須川はそう言われると、心の中で『完全にアウトだこりゃあ……』と言った。すると小向は続けて「だからあんたはここで待ってな。聞き取りは私がやってやるからよ」と言った
「だがそれだと……」
「任せろって。聞き取りのやり方くらい教わってるわ。それよりも今はあんたが地雷を踏まないかの方が問題なのよ」
小向は須川にそう言うと歩き始めた。そして近くにある扉の前で立ち止まると「ここ? 待機場って」と聞いてきた
「そうだ。それより俺も……」
「しつこいわ。全て私に任せておけって!」
小向はそう言うと部屋の中に入っていった
『アイツ大丈夫なのか……』
そんな小向を見ると須川はそう思った。しかしすぐに自分のやらかしを思い出し、相談すべく右内に電話をかけ始めた
「何かあった?」
右内は電話にすぐ出た。なので須川は車の中での事、そして今起きたことを右内に話した。すると、右内は考えているのか少しの間黙った
「正直なところ私もどうしたら良いか分からないわ。あとで来栖さんにも話してみるけど……、まぁ頑張って」
右内はそう言うと電話を切ってしまった
「やっぱり右内さんにも無理だよなぁ。ここまでやらかすと……」
須川は小声でそう言うとスマートフォンをしまった。そして待機場となっている部屋の扉を少し開け、その隙間から部屋の中を見た。部屋の中では小向が女性に聞き取りを行っており、順調そうに見えた
『大丈夫そうだな……』
そんな小向を見て須川はそう思い、この聞き取りを小向に任せることにした
『小向が聞き取りしてる間、俺は違う人に聞いてるか……』
須川はそう思い、扉を静かに閉めた。するとそんな須川に誰かが「須川捜査官……ですよね?」と言ってきた。なので須川は「そうですけど……」と言いながら後ろを見た
「何してるんですかこんな所で……」
扉を少しだけ開け、そこから中の様子を見ている須川を不審に思った男性はそう言ってきた。なので須川は「いや、色々ありまして……」と言い、誤魔化そうとした
「はぁ、そうですか……」
「それはそうと田村さん。いまお時間ありますか?」
「ええまぁ、少しだけなら」
田村はそう答えた。なので須川は事情を話し、坂下について聞こうとした。しかし田村は「坂下ですか……。申し訳ありませんがあまり絡みがないので……」と言った
「本当に何でも良いんです。坂下さんに関することなら」
須川はダメ元でそう言った。すると田村は「あっ!」と言った
「何か思い出しました?」
須川がそう聞くと田村は「そういえば事件があった日、仕事のことで不明な事があったため、坂下にメール送ったんですよ」と言うとスマートフォンを取り出し、操作し始めた。そして画面を須川に見せながら「そのメール、返事貰ってるんですよ」と言った
「すみません。ちょっと良いですか?」
須川はそう言い、詳しく見るために田村からスマートフォンを借りた。そしてその返信メールをじっくりと見た
『内容はこれといって……か。それで日時は……』
須川は心の中でそう言いながらメールの日時を確認した
『事件当日の午前七時ちょい……、ということはこの時間まで生きてたのか』
確認すると須川はそう思った。そして須川は田村に「すみません。この画面、スクリーンショットして送ってもらえませんか?」と頼んだ。すると田村は「構いませんが、ここから何か分かりました?」と聞いてきた。なので須川は「ええ、重要な証拠を見つけました」と答えた
「であれば良かったです。それでどちらに送りましょうか?」
田村はスクリーンショットを取り、メールに添付するとそう聞いてきた。なので須川は手帳に自分の仕事用メールアドレスを書いて「ここにお願いします」と頼んだ
「分かりました」
田村はそう答えるとメールアドレスを打ち込み送信した。なので須川に「送りました」と言った
「ありがとうございます。念の為に確認します」
須川はそう言うとスマートフォンを取り出し、田村からメールが着ている事を確認した。なので田村に「確認しました。本当にありがとうございます」とお礼を言った
「いえいえ、また何か協力出来る事がありましたら、いつでも協力します」
「ありがとうございます。それではまたその時、お願いします」
須川はそう言い、田村と別れた
『そういえば小向はまだかな』
小向の聞き取り作業はまだかと思い、須川は再び扉を透かし開けてそこから覗いた。そしてまだ聞き取り作業をしているのを見ると『まだ掛かりそうだな』と思いながら扉を閉めた
『このまま何もせず待ってるのもアレだし、誰かに話を聞くか……』
須川はそう思い、廊下に誰かいないか見た。しかし廊下には自分以外いなかった
「仕方ない。下に行けば誰かしらいるだろうし、下に行こう」
須川はそう思い、階段を降りていった。そして一階にいた人に話しかけた……