第四件 捜査会議
次の日、午前七時
東京本部捜査一専用室前……
『早すぎたな……』
須川はスマートフォンで時間を確認するとそう思った。けれど今さら引き返せるはずもなく扉を開けた
『やっぱりいないよな……』
扉の近くにある班の席を見るとそう思った
東京本部捜査部はゾンビと戦う対策部、警備部などと違い、重要性が低いため夜の間は最低限の人員しか配備されていなかった。そのため須川の見れる位置からでは誰も見えなかった
なので須川はどうやって時間を潰そうかと考えながら三班専用スペースへと向かった
『え?』
須川は三班専用スペースを見ると心の中でそう言ってしまった。こんな時間にも関わらず右内が居り、何かを読んでいた。すると人気を感じたのか右内が此方を見てきた。なので須川は「おはようございます」と挨拶をし、自分の席に移動した
「おはよう。まだ六時半だけどいつもこんな時間に来てるの?」
右内は手を止めるとそう聞いてきた。なので須川は「いえ、余裕をもって行こうと思ったら早すぎただけです。それより右内さんはこんな時間から何を?」と言い、右内の持っている資料を見ようとした。すると右内は持っている資料を閉じた
「立てこもり事件についての資料よ。ほら」
右内はそう言うと机の上に置いてある茶封筒を須川に見せた。その茶封筒には『布地市立てこもり事件 特殊部』と書かれていた
「良ければ読む? まだ時間あるから暇潰しにはなるよ」
右内がそう言ってきた。なので須川は「でもそれは右内さんが読んでいたものでは……」と言った。すると右内は「大丈夫。私はもう読んだから」と言って資料を須川に渡してきた。なので須川は「ではお借りします」と言い、受け取った
「読み終わったら私の机に置いておいてね」
右内はそう言うと立ち上がり、机の上に置いてあったもう一つの茶封筒を持って何処かへ行こうとした。なので須川は「何かあるなら手伝いましょうか?」と聞いた
「いや大丈夫。一人で出来るから」
右内はそう言うと三班専用スペースから出ていってしまった。なので須川は『右内さんが持って行った資料ってなんだ?』と思いながらも、右内から借りた資料を読み始めた……
しかしその資料に書いてある事はほとんど佐古さんから借りた資料と同じで、しいて違う点をあげるとしたら、この資料は特殊部目線で事件が書かれているということくらいだった
『新しい情報は無さそうかなぁ~』
須川はそう思いながら次の資料を見た。そこには立てこもり事件に参加した対策官の所属が書かれていた
『えっと、東京本部特殊部、捜査部、航空部、四鷹ゾンビ対策基地捜査部……え? 航空部!?』
須川はそれを読むと驚いた。ゾンビ殲滅局は警察や消防と同じようにヘリコプターを持っていた。それらを扱うのがゾンビ殲滅局航空部なのだが、主な仕事は空からの監視、追跡だった。そのため須川は『何故航空部が?』と思った
しかしすぐに佐古から借りた資料に書いてあることを思い出した
『いや。犯人は車で逃走したんだ。なら関わってて当然だ』
須川はそう思い次の資料を見た。その資料には写真がついており、それはヘリコプターから撮られた犯人が逃走している写真だった
「これが当時の……これは」
写真と一緒に何かが書いてあった。なのでそれを見てみると、そこには『特殊部員がヘリコプターから狙撃』と書いてあった
「これ、よく狙撃できたよね。私には絶対無理だわ」
突然後ろから誰かがそう言ってきた。なので後ろを向くとそこには四条がいた
「四条さん!? なんでここに?」
須川は四条を見るとそう聞いた
「捜査官なんだから捜査部の部屋にいて当然でしょ」
「いや、確かにそうですけど……」
須川がそう言ったときだった。今度は須川の斜め前から「そうじゃなくて『何で三班専用スペースに貴女がいるの?』って意味でしょ」と来栖の声がした。なので須川は来栖を見ると、来栖は席に着き仕事の用意をしていた
「あー、そゆことね」
四条はそう言うと、須川に「理由は簡単。須川君に重要な話があるから来たのよ」と言った。なので「重要な話ですか?」と聞いた。すると四条は手を合わせると「マジごめん! 例の話、ゲロっちゃった」と謝ってきた
「ゲロった? 誰にですか?」
須川が三年前の事件について調べていることを知っているのは四条、佐古、右内の三人だった。この三人は知られても何の問題ないのだが、来栖や小向には知られたくないと思っていた。けれどわざわざ謝ってくるくらいなので、その二人のどちらかに……おそらくは来栖に知られたのだと須川は思った
「昨日通話してたら勝手に話してくれたよ」
来栖は手を動かしたままそう言った。すると四条はもう一度「ごめん! つい口が……」と謝ってきた。なので須川は四条に「これ、大丈夫なやつですか?」と小声で聞いた
「さぁ……」
四条も分からずそう言った。すると来栖が「別に私は隠すつもりは毛頭もないわ。聞いてくれれば話したのに」と言ってきた
「いや、無理でしょ。小向に三年前の事を話せと言うくらい厳しいよ」
「そう? 私は別にトラウマとかじゃないけど」
「え? じゃあ一体……」
四条がそう聞くと来栖は「ただ二度と同じようなミスはしない。そう学んだだけよ」と答えた。すると四条は「あ、そう。なら良かったわ」と言った
「それで須川君は何処まで調べたの?」
来栖がそう聞いてきた。けれど本当に聞いていいのか分からず、須川は四条を見た。しかし四条もどうしたら良いか分からないらしく、わざとらしく目線を反らした。するとそれに気付いた来栖は「時間まで暇でしょ? 雑談がてら話すわよ」と言ってきた
「これは乗った方がいいわ。機嫌が悪くなる前にね」
四条が須川の耳元でそう言ってきた。けれどそれは来栖にも聞こえており「別にそんな事で機嫌を悪くするような人間じゃないわ」と言った。すると四条は須川の肩を軽く叩き「まぁそういうことだから、あとは頑張りな」と言い、逃げるように三班専用スペースから出ていった
『逃げた……』
四条を見るとそう思った。すると来栖が「まぁ話したくないならいいわ。無理に言うことでもないし」と言い、壁に掛けてある時計を見た。そして「それはそうとして、何か雑談でもしない?」と聞いてきた
「構いませんが、何かやることがあるから早く来たのではないんですか?」
須川はそう聞いた。すると来栖は「特にないよ。しいていうなら貴方に三年前の事を話そうと思って早く来ただけ。まぁ貴方の方が早く来てたのは予想外だったけど」と言った
『さっそく地雷踏んだ感が……』
返答を聞くと須川はそう思った。すると来栖が「その資料って三年前に関するやつ?」と聞いてきた。なので須川は『大丈夫かな』と思いながらも「右内さんからお借りしたもので……」と言い、その資料を来栖に渡した
「特殊部のやつね。これを読んだってことは事件についてそこそこ分かってるのね」
「はい。四条さんや佐古さんからも聞きましたので。なので今回の事件との関連性なんかも把握しているつもりです」
須川がそう言うと来栖は「なら私の口から事件について話すことは特にないかもね。その資料の方が細かく載ってるし」と言うと立ち上がった。そして後ろにある棚を開け、中から黄色のファイルを取り出した
「坂下恵斗って知ってる?」
来栖が突然そう聞いてきた。なので須川は「確か元ゾンビ愛護団体のメンバーだったかと」と答えた。すると来栖は「そこまで知ってるのね。てっきりゾンビハンターって答えると思ったわ。数日前には新聞にも載ってたし」と言った。そしてファイルを開き、須川に「坂下についての資料よ」と言い、それを渡した
なので須川はそれを受け取ると「坂下って今回の事件の被害者ですよね?」と聞いた
「警察からの報告を見ないと確定じゃないけど、私も右内三佐もそうだと思ってる」
来栖にそう言われると須川は資料に目を通した。その資料には坂下の顔写真と個人情報が書かれていた。なので須川は「危険人物だったんですか?」と聞いた
「別に危険人物でもなんでもないわ。むしろほっといても大丈夫なくらい」
来栖はそう答えた。すると須川は「なら何で個人情報まで載ってるんですか?顔写真は分かりますが」と聞いた
須川の働いていた四鷹ゾンビ対策基地の管轄にもゾンビを守ろうとする団体が存在した。けれど組織のリーダーといった危険人物以外は顔と名前しか割れていなかった。なので何でしたっぱの坂下がここまで調べられてるのか、須川には不思議でしかなかった
「まぁゾンビ愛護団体だしね」
来栖がそう言うと須川は「ゾンビ愛護団体ってそんなに危険な組織なんですか?」と聞いた。すると来栖は驚いたように「え? 知らないの? ゾンビ愛護団体ってとんでもなく危険な組織だったのよ」と言った
「確かに四鷹にいた頃、ゾンビ愛護団体が色々やったのは聞きましたがそこまでとは……」
須川がそう言ったときだった。誰かが「知らなくても仕方ないよ。愛護団体は主に二十三区内で暴れてたんだから」と言ってきた。なのでその声のする方向を見ると、そこには右内がいた
「右内さん今日も早いですね」
来栖がそう言った。すると右内は「まぁ色々やることがあるからね」と言い、席についた。そして「それでなんの話をしてたの?」と聞いてきた
「あれ? 色々とやることがあるんじゃなかったのか?」
突然誰かがそう言ってきた。なのでまたしても声のする所を見ると、そこには佐古がいた。すると右内は「良いんです。あれは一人でやるので」と言った
「そうかそうか。まぁおふざけはさておき、本題に入るが資料が届いてたぞ」
佐古はそう言うと右内に茶封筒を見せた。すると何処からともかく四条がやってきて「資料って警察からのやつですか?」と聞いてきた
「そうだよ。右内の方に連絡来てないか?」
佐古にそう言われると右内はスマートフォンを取り出した。そして「小野塚さんからメールが……さっと目を通して電話してきます」と言い、佐古から茶封筒を受け取った
茶封筒の中に入った数枚の資料が入っていた。なので右内はその全てにザッと目を通すと「あー、そうきたか」と言った
「そうきた?」
四条がそう聞くと右内は「警察も捜査するみたい」と言った。すると佐古が「確かに警察目線からだと捨てきれない可能性があるから仕方ないな」と言った
「可能性ですか?」
須川がそう聞くと右内は手に持っている資料を机の上に広げた。そして「坂下の件よ」と言い、机に広げた資料の中から一枚の紙を抜き取って佐古に渡した
「先に言うけど被害者は坂下、ゾンビは八幡で合ってたわ」
「なら何で警察は捜査を譲らなかったんですかね?」
「八幡は良いとして、坂下が問題だったんだろう」
四条の問に佐古がそう答えた。すると右内が「今回の事件は発生原因が二つ考えられる。一つ目が坂下が八幡ゾンビに襲われたというもの。二つ目は坂下が何者かに殺され、後にゾンビが来たというもの。後者の可能性がある限り警察が捜査権を譲ることはない」と説明した
「確かに初期捜査のとき、小野塚さんが殺人事件の可能性があると言ってました。だから警察も捜査を……」
須川がそう言うと右内は資料を見ながら「小野塚さんそんな事言ってたんだ。確かにこれを見る限り殺人の可能性は消せないわね」と言った
「なんかいつもより大変な捜査になりそう……」
四条がボソッと言うと、佐古が「要するに俺達は事件の犯人がゾンビでないか、警察は人でないかを前提に捜査するだけだ。捜査内容はいつもと変わらないよ」と言った
「とりあえず小野塚さんと話してきます。色々と聞きたいこともあるので」
「分かったら教えてくれ」
「もちろんです」
右内はそう言うと立ち上がり、三班専用スペースから出ていった
「来栖さん」
須川がそう呼ぶと来栖は「何?」と返してきた。なので須川は「確か佐古班が捜査を手伝うのは、あくまで捜査権が丸々こっちに来た場合ですよね?だとすると今回はこの班だけでやるんですか?」と聞いた
「確かにそんな事話してたけど……どうなんですか?」
来栖は佐古を見てそう聞いた。すると佐古は「手伝うから安心しな。いま抱えてる案件もないし」と言った
「そゆことよ。パパッと解決しちゃいましょ!」
四条は須川の肩に手を置くとそう言った。なので須川は「パパッと解決出来れば良いですけどね」と返した
「何がともあれ八時には全員来るだろうし、そしたら話し合いだな。それじゃあまた後で」
佐古はそう言うと三班専用スペースから出ていった。すると四条が「さて、それじゃあどうやって時間を潰すかい?」と言い、小向の席に座った
「とりあえず警察からの資料に目を通して……」
須川がそう言うと四条は「真面目かよ!」と突っ込んだ
「そう言われましても……」
「まだ業務時間前なのにもうお仕事? 四鷹の人は皆そんな感じなの?」
四条がそう言うと来栖は「貴女も捜査官なら目を通すくらいのことはしておいたら? 捜査官ならね」と言い、右内の席に置かれている資料を取った
「分かった分かった。ちゃんと読みますよ〜っと」
四条はそう言うと来栖はから資料を受け取った。そして「全く、こんなに働いてたら死んじゃうよ」と言った。するとそれに対して来栖が「公務員の中で一番ホワイトなのに死ぬわけないでしょ」と返した
ゾンビ殲滅局の職員。つまりゾンビ対策官は警察官や消防士などと比べると殉職者数が頭を抜いて多かった。そんな事もあり志願者数も少なく、何としても人材を確保する為に他の公務員よりも待遇が良くなっていた
「死ぬわけないって仮にもゾンビ対策官だということ忘れてない?」
四条はそう聞いた。すると来栖は「忘れてないよ。ただ捜査部で殉職なんて六年前の一件以降聞いたこともないわ」と言った
「確かに捜査部はゾンビと直接戦うわけじゃないので、殉職というのは聞きませんね」
須川もそう言った。すると四条は「あ〜分かった分かった。ちゃんと仕事するよ」と言い、来栖から貰った資料を見始めた……
「やぁ! って何でみんないるの?」
そう言って三班専用スペースに入ってきたのは小向だった
「例の事件について話してただけよ。よければ資料……」
四条はそう言いながら読んでいた資料を渡そうとした。すると来栖が四条の口を押さえて自分の方に倒した。そのため四条は椅子から落ちてしまった
「ちょっと何を……」
四条は口を押さえられながらもそう聞いた。けれど来栖はそれを無視して須川に「須川君、あとは頼んだ」と言い、四条を引きずって三班専用スペースから出ようとした
「待って、歩けるから待って」
四条がそう言うと来栖は引きずるのを止めた。そして四条が立ち上がるとそのまま三班専用スペースから出て行った
「何してんの? あの人達」
一連の流れを見た小向は須川にそう聞いた。けれど須川も何故、来栖があんな行動をしたのか分からなかったため「さぁ……」と答えた。するとそう言った直後に右内から言われた事を思い出した
それは昨日、古宮との一件があった後のこと。須川は右内に「今回の捜査、小向さんには雑用をさせるからその事について触れないでね」と言われていた
『まさかあの言葉って雑用には触れないでって意味じゃなくて、捜査にすら触れさせないようにしろって意味なのか? だとしたら来栖さんの行動も分かるけど……』
須川がそんな事を考えている時だった。突然小向が「何これ?」と言い、床から何かを拾い上げた。須川はそれを見るとすぐに四条が持っていた資料だと気付いた
『まずい、あれは警察からの資料……見られたらダメなやつじゃ……』
須川はそう思い、小向にその資料を渡すよう言おうとした。けれど須川が口を開くより早く、誰かが小向の手から資料を取り上げた
「あっ……」
小向は誰かに後ろから資料を取り上げられた。なので後ろを向くとそこには右内がいた
「これはダメ。私のやつだから」
右内はそう言うと自分の席に置いてある茶封筒に資料を入れた。すると小向は「それってなんの資料?」と聞いてきた。なので右内は「私が個人的に調べてるやつよ。だから貴方達は触らないでね」と言った
「いつも朝早く、夜は遅くまで調べてるやつか」
小向はそう言うと自分の席に座った。そして「それはそうとして、あの二人は何してたんだろ」と言った。なので須川は「さぁ……四条さんの事だし何かしたんじゃない?」と適当に返した
「まぁ四条って結構やらかしてるしそれだな」
小向がそう言うと須川は『四条さんって結構やらかすタイプなのか……あと四条さんも呼び捨てなのな』と思った
「すみません。戻りました」
そう言って三班専用スペースに入ってきたのは来栖だった。すると右内が「お疲れ」と言った
「四条はもう大丈夫です」
来栖はそう言った。すると右内は「分かった。ちょっと来栖さんと須川君来てくれる?」と言い、立ち上がった。なので須川は「構いませんが何ですか?」と聞いた
「それは向こうで」
右内がそう言うと小向は「さっきの件のお説教じゃない? どうせ」と言った
「別に何もしてないんだけど……」
須川がそう言うと小向は「まぁ頑張りな〜」とニヤつきながら言ってきた。なので須川は苦笑いしながら三班専用スペースから出た。そしてそのまま右内について捜査一専用室から出た
「あの右内さん。何かよく分かりませんがすみませんでした」
須川は廊下に出るとすぐにそう謝った。すると右内は「え? 何かしたの?」と驚き、聞いてきた、なので須川は「先程の件で呼んだのでは……」と言った
「四条さんの事?」
右内がそう聞いてきたので須川は「そうです」と答えた。すると右内は「それなら大丈夫。事情は大体想像できるし。それより今はもっと大切なのがあるから」と言うと歩き始めた。そして捜査一専用室から少し離れたところにある部屋の扉を開けた
『ここは……』
須川はそう思いながらも右内に続いて部屋に入った
「そっち側の席に座って」
右内はそう指示を出した。なので須川はその通り席についた。すると来栖が「大切な話でもあるんですか?」と聞いた
「佐古班も全員揃ったからこれから捜査会議をするよ」
右内は扉付近に立ったままそう答えた
「なるほど、だから小向さんを置いてきたのですね」
来栖がそう言うと右内は「まあね。既に言ったと思うけど、今回の捜査に小向さんは関わらせたくない。だからこうするしかなかったのよね」と言った
「そういえば少し前からから思っていたのですが、何でこの事件の担当がこの班になったんですか?小向さんの事情を上に話せば担当を変えてくれると思うのですが……」
須川は右内にそう質問した
東京本部捜査一には十五の班とそれらをまとめる捜査長の計六十一人がいた。なので須川は四鷹ゾンビ対策基地での経験と本部の人員の多さから、捜査長に事情を説明すれば担当を変えてくれると思いそう言った
「確かに名和捜査長なら事情も知ってますし、話せば……」
来栖が須川に続いてそう言うと、右内は「話したよ。けど無理だった」と答えた
「何でですか? これくらいの変更なら四鷹でも出来るのに……」
須川がそういった時だった。突然部屋の扉が開き、部屋の中に女性捜査官が入ってきた。するとその女性捜査官は須川に「今はどこも手が空いてないんだ。悪いけど我慢して」と言った。なので須川は「あ、はい」と答えた
「それで右内、佐古はまだか?」
女性捜査官は右内にそう聞いた。なので右内は「声はかけました。なのでもう来るかと」と言った。すると女性捜査官は「じゃあ座って待とうか」と言い、部屋の奥にある席に座った
「来栖さん。あの方は……」
須川は女性捜査官に聞こえないように小声でそう聞いた。すると来栖は須川に近寄り「名和捜査長よ」と答えた
「捜査長!? つまり捜査1のトップですか?」
「そうよ。班長じゃないとあまり関わりはないと思うけど、名前と顔くらいは覚えておくといいよ」
須川は来栖にそう言われると『あの人が捜査1のトップか……四鷹と違って怖そうだな』と思った
トントントンッ!
扉が叩かれると部屋の中に佐古と四条を含めた三人の部下が入ってきた
「名和さんもう来てましたか」
佐古がそう言うと名和は「まぁ私は貴方達と違ってそこまでハードスケジュールじゃないからね」と言った。するとそれに対して佐古は「朝早くから強制捜査に加わってた人がいうセリフじゃありませんよ」と軽く笑いながら言った
「強制捜査? どの班がやったんですか?」
その会話を聞いていた右内がそう聞いた。すると名和は「水門、斎木班だよ」と答えた
「右内知らなかったのか?どっちも右内班の隣なのに」
佐古がそう聞くと右内は「全く。雑談はしても仕事内容までは話しませんから」と答えた。すると名和が「何がともあれ強制捜査は無事終わったよ。ただこの捜査のため一睡も出来てないけどね」と言った
「じゃあ名和さんの為にも早く始めようか。右内、大丈夫か?」
佐古は右内にそう聞いた。なので右内は「大丈夫です」と言い、部屋の奥に置いてあるホワイトボードを前に移動させ始めた
『本部に来てから始めての捜査会議か……』
須川はそう思うと大きく深呼吸をした。そして心の中で『ヨシッ!』と言った……