第三件 四条と佐古
午後五時、捜査一専用室……
「時間になったからもう帰って良いよ」
そう言ったのは右内だった。するとそれを聞いた須川は「まだ五時ですけど、もう帰っていいんですか?」と聞いた
「良いよ。ただし明日には警察から例の結果が送られてくるから、その結果によっては忙しくなるよ」
右内がそう言うと小向が「あ~、どうにか外れててくれないかなぁ~」と言った。するとそれに対して右内は「一応言っておくけど、送った資料とゾンビが一致しなくても、この件についての仕事はあるからね」と言った
「え? マジ? 何すんの?」
小向がそう聞くと、右内は「ゾンビが何処から来たのかの捜査よ」と言った。すると小向は「その捜査って来栖さんと須川がやったんじゃないの?」と言ってきた
「その事なんだけど調べても分からなくて……」
来栖が申し訳なさそうにそう言った。すると小向は「調べても分からない? ちゃんと捜査したの?」と聞いた。するとその問いに対して須川が「もちろん検査液を辺りに吹き付けたり、近隣住民に聞いてまわったよ。だけど情報がこれっぽっちも落ちなくてさ」と言った
「だとするとかなり面倒な捜査になりそう……」
小向は嫌そうな顔をしてそう言った。するとそれに対して右内が「因みに捜査権がこっちになったら佐古班が手伝ってくれるらしいよ」と言った
「なら面倒なやつは全て押し付ければ良いじゃん。なんとか資料の人物とゾンビが一致しますように!」
小向はそう言うと二回手を叩いた。するとそんな小向に右内は「押し付けるもなにも、貴女は普段から大したことしないでしょ」と言った
「まぁ確かに……てか今日も言うほど仕事していない気が……」
小向は一日を振り返るとそう言った。しかしすぐに「まぁどうでも良いや。それじゃあ皆また明日!」と言うと部屋から飛び出していった
「須川君ももう帰るでしょ?」
小向がいなくなると来栖がそう聞いてきた。なので須川は「はい。特にする事もありませんので……」と言った
「なら途中まで一緒にどう? といっても私は新宿で乗り換えだからすぐだけど」
来栖がそう言ったときだった。突然誰かが「ダーメ」と言ってきた。なので須川はその声のする方向を見ると、そこには四条がいた
「須川君は私とデートがあるからダメ!」
四条はそう言うと三班専用スペースに入った。するとそんな四条に対して来栖は「デートって休みの日じゃないの?」と言った。なので四条は「デートっていってもアレよ。飯食うだけの。良ければ来る?」と聞いた
「いや大丈夫。それじゃあ私は帰るね」
来栖は二人にそう言うと右内に「お先に失礼します」と言い部屋から出ていった
「それでは右内さん。自分も……」
須川はそう言いながら右内を見ると、右内は棚を漁っていた。なので須川は「探し物でしたら手伝いましょうか?」た聞いた。すると右内は「いや大丈夫。緊急じゃないから」と手伝いを断った
「ですが……」
「大丈夫。貴方も帰って良いから。それじゃあ」
須川はそう言われると右内に三班専用スペースから追い出されてしまった。すると四条が「それじゃあ行こうか」と言い、須川の腕を掴んで部屋から出ていった
「そういえば何処で話をするんですか?」
エレベーターホールにつくと須川がそう聞いた
「え? 適当にどっかの店で食べながらだけど」
「大切な話なのに、他の人に聞かれそうな場所で大丈夫なんですか?」
須川がそう指摘すると四条は「確かにそうね……ならあそこにしましょう」と言い、エレベーターに乗った
「あそこというのは?」
須川がそう聞くと四条は「あそこはあそこよ。東京本部で一番人が来ないであろう場所よ」と言い、地下一階のボタンを押した
『地下一階って何があったっけな?』
須川はそれを見るとそう思った。けれど、まだ本部の何階に何があるというのを覚えきれていないため、地下一階に何があるのか分からなかった
二人の乗るエレベーターは時々止まりながらも地下一階に到着した。なので須川は四条に続いてエレベーターから下りた
「それで四条さんのいう場所はどこに?」
須川がそう聞くと四条は「ここだけど」と言った。その場所は地下一階のエレベーターホールだった。なので須川は「あの、ここエレベーターホールですけど」と言った。すると四条は「大丈夫。ここにはあまり人来ないから」と言った
「何でですか?」
須川がそう聞くと四条はエレベーターホールにある案内表示版に移動し、それを須川に見せながら「だってここ資料庫しかないもん」と言った
「え?この階全てが資料庫ですか?」
須川がそう聞くと四条は頷き「そうよ。地下一階には第一資料庫っていう東京本部で一番収容数の多い資料庫があるのよ」と言った
「一番大きい資料庫なら人来ません?」
「それは大丈夫。一部例外はあるけど第一資料庫なんてクソ古い資料しか入ってないから誰も使わないのよ」
四条はそう言うと第一資料庫へ入るための扉を見た。
地下は全て第一資料庫になっているため廊下は無く、エレベーターホールの前には第一資料庫へ入る扉があった
「ここが大丈夫なのは分かりました。では来栖さんの事について、話して頂けますか?」
須川は四条にそう頼んだ
「あ~。そういえば来栖の事を話すために来たんだっけ」
「あの……」
「大丈夫。ちゃんと話すから」
四条はそう言うとコホンッ!と咳をした。そして昼の続きを話し始めた
「保護された小向を来栖が対応してたの。そんな時に運悪く無線から『人質になっていた夫婦は亡くなっていた。しかもかなり酷い……』っていう報告が流れてきたの」
「ちょっと待ってください」
須川は突然話を止めた。なので四条は「なに?」と聞いた
「確認のために聞きますが、小向さんは自宅で保護されたんじゃないんですか?」
須川は自分の知っている情報と四条の話すことが合わないためそう聞いた。すると四条は「待って、貴方四鷹出身よね? なら私よりこの事件に詳しいんじゃないの?」と言ってきた。なので須川は「自分はこの事件に全く関わっていないもので……なので話で聞いた程度にしか……」と言った
「そこから説明しないとダメなやつか〜」
四条はそう言うと頭を押さえて壁に寄りかかった。なので須川は「あの、四条さん?」と言った
「分かった。こうなったらこの事件について私の知る全てを教えてあげるわ」
四条は顔をあげると須川にそう言った。そして三年前に布地市で起きた立て籠り事件について語り始めた
「捜査一に応援要請が来たのはお昼頃、つまり事件発生から三時間後よ。その頃には立てこもり事件の事も伝わってたし、応援要請がくるだろうと予想できたから当時の佐古班と右内班は作戦を練りながら待機してたの。けれど現場に行ったらその考えてた作戦が出来ない状態だと分かってね。何でだと思う?」
四条が突然そう聞いてきた。なので須川は「すみません。分かりません」と正直に答えた
すると四条は「簡単よ。私達が考えた作戦ってのは犯人を狙撃することだったの。けれど現場になっている家は全てのカーテンが閉められ、犯人が何処の部屋で人質と籠ってるのか分からなかったの」と説明した
「ではどうしたんですか?」
須川がそう聞くと、四条は「何も出来なかったよ」と答えた
「え?それはつまり……」
「そのまま。私達はあくまで現場の捜査しかしてきてないから、立て籠り事件の対処法なんて知らない。だから犯人と交渉することにしたの。けれど交渉は成立せず、仕方なく特殊部が家に突入したの」
四条はそう言った
特殊部の突入が事件発生から十二時間後に行われたのは須川も知っていた。なので四条の話と照らし合わせると、犯人との交渉に六時間以上費やしていることになる
その事に気づいた須川は『交渉にそんなに費やしたのか……』と思った
「本来であれば特殊部の突入で全て終わるはずだった。だけど犯人を素早く制圧できなくて、人質二人が銃で撃たれ、残り一人の頭に銃を突き付けて外に出てきたの。そして犯人は『車を用意しろ』と要求してきた」
「我々はその要求に従い、車を用意した。だが勿論逃がすはずもなく、先回りしていた特殊部の狙撃手が運転中の犯人を狙撃。その後は色々あったものの、その人質は助かった……そんな話だよ」
突然四条に代わり、誰かがそう説明した。それに驚いた四条は「誰だ!」と言い、声のした方向を見た
「え? 何でここに佐古さんが?」
そこには四条の所属する一班の班長である佐古がいた
「何をって資料を探しに来ただけだよ」
佐古はそう言うと二人に茶封筒を見せた。そして「それより、二人は何でこんな所でその事件について話してるんだ?」と質問してきた
なので四条はその問に対して「須川君に突然来栖の性格が変わったと相談されたので、その原因について話してただけです」と言った。けれど佐古にはこの二つの関係性が分からなかったためか「理由は分かったが、何でその話に三年前の立て籠り事件が出てくるんだ?」と聞いてきた
「来栖が豹変した理由に小向が関係してると分かったので、だとしたらアレしかない!と思ったからです」
「成る程、そう言うことね。ならこれ見る?」
佐古はそう言うと須川に持っている茶封筒を見せた。その茶封筒には管理番号と『布地市立てこもり事件、捜査1』と書かれていた。それを見た須川は「事件の報告書ですか?」と聞いた
「そう。まさに今、二人が話していた事件の報告書だよ」
佐古がそう言うと四条は「何でそんな古い資料引っ張り出してきたんですか?」と聞いた。すると佐古は「明日、状況によっては右内班を手伝うって話はしただろ?」と四条に確認をした
「確かにその話は聞きましたが……」
「だからその事件について、現段階で分かることを右内に聞いたんだよ。そしたら聞き覚えのある名前が出てきたから、これから確認しようと思ってね」
佐古がそう言うと、四条はすぐに「聞き覚えのある名前って何ですか?」と聞いた。すると佐古はこう言った
「八幡翔と坂下恵斗」
四条はそれを聞くと「成る程、ちょっとそれ貸してくれませんか?」と言った。なので佐古は「答え合わせか?」と聞き、茶封筒を渡した。四条は封筒を受け取ると、中から資料を取り出した。そして一枚の紙を見るとこう言った
「どちらも正解です」
「やはりか。どちらも合ってるなら、今回の事件は確実にこっちだな」
二人はそんな会話をしていた。けれど須川には会話の内容がほとんど分からず、会話についていけなかった。するとそれに気がついた四条が「あれ? 須川君どうかした?」と聞いてきた
「いえ、ただ話についていけなかっただけです」
須川がそう言うと、佐古が「右内からその辺の話、聞いてないの?」と聞いてきた。なので須川は「全く、しかし坂下という男性がゾンビハンターで有名なのは警察の方から聞きました」と言った
すると佐古と四条は顔を見合わせた。それを見た須川は『あれ? 何かおかしな事でも言ったかな?』と思った
「須川、確かに坂下は今でこそゾンビハンターだ。だけど三年前はゾンビ愛護団体のメンバーで立てこもり事件にも関与していると捜査部内でも言われてた奴だ」
「ついでに言うと、八幡翔ってのは立てこもり事件の犯人よ」
佐古に続き、四条もそう言った
「つまり……」
突然大量の新しい情報を言われたため、須川は言葉に詰まってしまった。すると四条が「ようは明日から忙しくなるってことよ」と言った
「まぁそういう訳だし俺はもう行くよ。良ければこれ読む?」
佐古は四条が持っている茶封筒を指差してそう言った
「それは佐古さんが使う資料では……」
「大丈夫。今その確認は済ませたから」
佐古はそう言った。すると四条が「せっかくだし借りましょ。返すのは私がやるから」と言った
「ん? まだ二人とも事件について話すのか?」
佐古は二人にそう聞いた。すると四条は「えぇ、誰かに邪魔されたせいで肝心の部分を話せていないので」と嫌みったらしく言った
「それは悪かったな。まぁ何にせよ二人とも早く帰れる日は早く帰りな。明日からどうなるか分からないからな」
佐古はそう言うとエレベーターの上ボタンを押した
エレベーターは待つこと無くすぐに来て、扉が開いた。するとエレベーターから右内が降りてきた
「須川君、それに四条さん。こんな所で何を?」
右内がそう聞くと、佐古が「三年前の立て籠り事件について話してたよ」と言い、エレベーターに乗り込んだ。そして「てな訳でそれじゃあ」と言うとエレベーターの扉は閉まり行ってしまった
「立て籠り事件について四条さんに話を聞いていまして……」
須川がそう言うと右内は「その事件について私、詳しくは言わなかったもんね。それより須川君、四条さんのこと知ってたんだ」と言った
「来栖経由で知りまして……事件についてはしっかり教えておくのでご心配無く!」
四条は右内にそう言った。すると右内は「本当は私がしないといけない事なんだけど、せっかくだから任せるわ。お願いね」と頼んだ。なので四条は「えぇ、きっちり教えておきます」と言った
「それじゃあ私は用があるからこの辺で失礼するね」
右内はそう言うと第一資料庫に入っていった。すると四条は「あ~緊張したわ~」と言った
「右内さんと何かあったんですか?」
須川がそう聞くと四条は「いや、そういう訳じゃないんだけど、右内さんって何か他の人と違う気がしてさ」と言った
「違う?」
「何となくだよ。それより事件の続きだけど……」
四条がそう言ったときだった。突然スマートフォンが鳴ると、四条は「ちょっと待って」と言い、電話に出た。そして須川に背を向けた
『そういえば何で右内さんは第一資料庫に……』
四条から第一資料庫にある資料は古いものしかないと教えられていた。なので右内が何の資料が目的で第一資料庫に来たのか興味があった
『あとで聞いてみるか……』
須川がそう思ったときだった。四条がこっちを向き「本当にごめん!急用が入っちゃった」と謝ってきた
「そうですか。ではまたいつか……」
「とりあえずこれ託すから読んどいて。返却は私か佐古さんに!」
四条はそう言うと駆け足で階段へと向かった。けれど階段を下りる直前に「あっ!」と言い、須川のいるところに戻ってきた。そしてスマートフォンを取り出すと「悪いんだけど連絡先教えてもらえる?今後必要になりそうだし」と言ってきた
「分かりました」
須川はそう言うとスマートフォンを出し、四条と連絡先を交換した。すると四条は「ありがとう。それじゃあ明日には教えるから!ごめんよ」と言い、階段を駆け下りて行った
『仕方ない。今日はこれを読んでから帰るか』
須川は心の中でそう言うと、佐古から借りた資料を読み始めた
資料は茶封筒の中に入っており、全部で三十枚ほどの紙が入っていた。なのでそれら全てにじっくりと目を通していると時間が掛かりすぎてしまうため、須川は資料を軽く見始めた
すると一枚の資料に書いてあることに目が止まった
『これは……』
その資料には犯人が立てこもっていた民家の見取り図と遺体のあった場所が書き込まれていた。そしてその中でも須川の目にとまったのは、この紙の右下に書いてある「どちらも犯人が銃で殺害」という文字だった
『ゾンビ愛護団体が過激な団体だというのは知ってたけど、まさかここまでとは……』
ゾンビ愛護団体は主に東京二十三区で活動していた。そのため四鷹ゾンビ対策基地出身の須川にはその異常さが分かっていなかった
『明日にでもゾンビ愛護団体について調べておいた方が良いかもな……』
須川は心の中でそう言うと次の紙を見た。次の紙には上半分に地図があり、それを補足する形で紙の下半分に説明が書かれていた
『これは高速道路?市は……国中市か』
須川は上半分にある地図を見ると、今度は下半分にある説明を読み始めた。その資料の下半分にはこう書かれている
「高速道路を六王子方面へ逃走している犯人の車を、特殊部の狙撃手がタイヤを狙い狙撃。その結果犯人は人質を置いて、近くにあった国中バスストップから逃走」
それを読んだ須川は『成る程。このあと犯人を逃がしてしまったというわけか。とりあえず事件の流れは把握できた』と思い、残りの資料をパラッと捲った
『残りは捜査資料だな。なら読まなくても良いか』
須川はそう思い、資料を茶封筒にしまった。そしてエレベーターの上ボタンを押した
『だいぶ時間経ってるな』
スマートフォンで時間を確認するとそう思った
結局、四条から来栖の事を聞く予定だったのだが、話が逸れてしまい三年前の立て籠り事件について少し詳しくなった程度にしかプラスの事はなかった
『結局、何のためにここに来たのやら』
須川はそう思いながらエレベーターに乗り込んだ
『ただ、三年前の立てこもり事件と今回の事件が繋がったのは良かったかも……まぁ、どのみち明日話されると思うけど』
エレベーターは捜査一専用室のある階に止まった。なので須川は降りた
『とにかく今日は早く帰ろう。泊まりなんて四鷹時代に散々やったから御免だ』
須川はそう思うと捜査一専用室の扉を開け、部屋の中に入った。すると三班専用スペースに誰かいるのが見えた。なので須川は『右内さんは資料庫のはずだし、来栖さんか小向かな?』と思いながら三班専用スペースに入った
「ん?」
そこには名前は知らないが、顔は知っている捜査官がいた。その女性捜査官は三班の棚を漁っており、須川が来たことに気がつくと「あ、やべぇ」と言った
「何を……ってあんた昼に右内さんが探してた資料を俺に押し付けてきた人だよな?さては資料泥棒か」
須川はそう言うと女性捜査官に近寄った。するとその女性捜査官は「何の事かさっぱり分からないぞ!」と適当に返答してきた。なので須川は「すっとぼけても無駄だ。お前は何処所属の誰だ?」と聞いた
「ん?」
女性捜査官はそう言いながら首を傾げた
「こうなったら仕方がない。右内さんに報告してやる」
昼の件もあり、須川は若干怒りが混じりながらそう言った。すると突然右内が「報告って何を?」と聞いてきた。なので須川は声のした方向を見ると、そこには右内がいた
「右内さん!? 資料庫にいたはずでは……」
「もう調べ終わったわ。それで……まぁ大体言いたいことは分かったわ」
右内は女性捜査官が居るのを見るとそう言った。そして女性捜査官に「貴女また盗りに来たの?」と聞いた。すると女性捜査官は「ちょいとお借りに来ました」と言い、手に持っているファイルを見せた
「その資料、戸塚班にもあるはずだけど」
右内がそう指摘すると女性捜査官は「まぁ新人さんもいることですしお見逃しを!」と言い、この場から去っていった
「良かったんですか? 資料持っていかれましたけど」
須川は右内にそう聞いた。すると右内は「忘れた頃に来るんだよねぇ〜。一応注意はしてるんだけど」と言い、自分の席についた
「今の人、何班所属なんですか?」
須川がそう聞くと、右内は「五班の古宮よ。階級は貴方と同じで対士長のはず」と答えた
『古宮か。覚えておこ』
須川はそう思うと自分の席に移動して、荷物をまとめ始めた。するとそんな須川に右内がこう言った
「そういえば明日だけど、事件については九割方こちら持ちになるわ。だから覚悟しておいてね」
「覚悟ですか?」
普通の捜査では聞かない事を言われたため須川はそう聞き返した。すると右内は「通常の事件より面倒になりそうよ」と言った。なので須川は「それって三年前の立て籠り事件と関係ありますよね?」と聞いた
「あら、そこまで聞いたの。どのみち明日、来栖さんにも話すからその時詳しく言うわ」
須川は右内にそう言われると荷物を持ち「分かりました。それではお先に失礼します」と言い、この場を去ろうとした。するとそんな須川に右内はこう言ってきた
「今回の捜査、小向さんには雑用をさせるからその事について触れないでね」
「分かりました。それでは失礼します」
須川はそう言うと三班専用スペースから出た。そして捜査1専用室からも出ると『なんか大変な事になったなぁ~』と心の中で言った
『四鷹の頃が懐かしい……』
須川はそんな事を思いながらエレベーターホールへと向かって歩き始めた……