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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第十四章 群青キャンディー
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5

「それでは、二次試験の結果を発表する! 第1位、セルフ・ネメシア! 」

試験官から発表を聞いて、セルフは声には出さなかったが心の中で「よしっ! 」とガッツポーズを決めた。

一先ず二次試験は突破できた。

1時はどうなることかと思ったが、とりあえず一安心といったところか。

「第2位は、スイセン……」

「ちょっと待ってください! 」

試験官の言葉を遮って、スイセンが口を開く。

「彼はビーズを使いました。ビーズは養成所で最も凶暴な馬と言われています。レース中も、がむしゃらに走り回っていて、近づける状態じゃありませんでした」

何らかの文句がくることは予想していたが、これはあまりにも無理矢理すぎやしないだろうか。

「はっ! 未来の騎士様が馬に怯えて近づけなかっただ、聞いて呆れるな」

言い返すと、スイセンはぐっと唇を噛み締めた。

その反応からするに、自分でも無理を言っていることは承知らしい。

「で、でもセルフ・ネメシアは……」

「スイセン」

試験官が、強い口調でスイセンを呼ぶ。

「なんでしょうか? 」

「勝ちは勝ち、負けは負けだ。セルフだって、不正も何もしていない。これ以上の反論は、格好が悪いことも、おまえなら十分分かるだろう? 」

スイセンは黙ったまま、燃えたぎる瞳をセルフに向けた。

そんなに睨まれても、セルフは悪くないのだからどうしようもない。

「おい、正々堂々戦おうとは思わないのか? 」

「うるさいです。僕は僕のやり方でこの試験に合格します」

うるさいって、どっちがだ。

スイセンには構わずに、走ってくれたビーズに向き直ることにした。

「ビーズ、ありがとな」

お礼を言うと、ビーズは嬉しそうに顔を擦り寄せてきた。

「ブルルルル」

「ははっ! 撫でてほしいのか? 」

「いや、これは餌が欲しい時の鳴き声だな」

試験官のまさかの答えに、がっくりと肩を落とす。

撫でてほしいわけではなく、単純にお腹が空いていたらしい。

「ほらビーズ、あっちで人参でもやろう」

「ブルルルル」

「じゃあな、ビーズ」

試験官に連れられて去っていくビーズを名残惜しく見つめていると、観覧席の方から声が聞こえてきた。

「セルフ様ー! おめでとうございまーす! 」

大きな声で祝福してくれる明るい声の主は、何回も聞いてきたメリアからのものだった。

こちらに大きく手を振って存在をアピールするメリアに、セルフも手を振り返す。

隣にはヤナギもいて、ヤナギも小さく手を振っていた。

メリアと違い声は聞こえなかったが、口の形が「おめでとうございます」と動いている。

それがなんだか可愛らしくて、つい笑みが溢れる。

次の試験も頑張ろう、そう思えた。

「それでは、不合格だった者はすみやかに退場願う! 残った合格者は暫しの間待つように! 」

試験官が言うやいなや、メリア達が観覧席から立ち上がり消えて行く。

そして、数分もかからないうちに、すぐこちらへ来てくれた。

「おめでとうございますセルフ様! 乗馬レース、凄かったです! 」

「ありがとなメリア。ただ、あんなでかい声で名前を呼ぶな。恥ずかしいだろ……」

「えー? でもセルフ様、嬉しそうじゃありませんでした? 」

シードがニヤニヤしながら言ってくるので、「別に」と素っ気なく返す。

「でも、顔赤いですよ? 」

「そんなことない」

自分でも、頬に熱が集まってくるのは分かっていたのに、嘘をついた。

誰かに応援されるなんて、初めてだったから。

恥ずかしくて、どういう反応をすれば良いのか分からず俯くと、目の前で揺れた赤髪に、心臓が一瞬ドキリとした。

「セルフ」

「な、なんですか、アイビー様」

「さっきのレースのことなんだが……」

ああ、やっぱり。勘づかれていたらしい。

「1試合目の時はまさかと思ったんだが……ああも続くとなると……」

「やはり、分かってたんですね……」

スイセン達がセルフに嫌がらせをしてきていたことを、アイビーはちゃんと見抜いていた。

「どうする? 俺の方から試験官に言っておこうか? 」

いや、アイビーだけではない。カルミアも、気がついていたらしい。

もしカルミアやアイビーから試験官に伝えれば、スイセン達はすぐさま不合格、とまではいかなくとも、事情確認をされたり、目をつけられたりはするだろう。

だが、これはセルフとスイセンの問題だ。

アイビーやカルミアに頼っていいことではない。

「いえ、お心遣いだけ受け取っておきます。今のところ試験は無事突破できていますし。それに、怪我をさせられたりはしていないので」

1試合目のゴールにて、吹っ飛ばされはしたが。

「……そうか。だが、何かあれば言ってくれ。力になる」

「俺も。お前が頑張ってるのは、よく知ってるからな」

「ありがとうございます、アイビー様、カルミア様」

そう言ったが、内心ではやはり頼んでおいてもらったら良かったのではないか? なんて思考が生まれてしまう。

この後の試験でも何かしてきたらどうしようか。

今度は怪我でもさせられるかもしれない。

そう考えると、少しだけ不安だった。

少しだけ、怖かった。

試験発表の時に向けられたあの目を、また思い出してしまう。

あの時は気にしないようにしていたが、やっぱり全然気にならないわけではない。

セルフだって人間。傷つく時は、傷つくのだ。

それでも、そんなことを思い出してはいけないと、強引に頭から切り離す。

大丈夫だ。今までやってきたことを信じて、精一杯頑張るだけなのだから。

今まで、頑張ってきたのだから。

「では、三次試験を行う! 合格者は集まれ! 」

話していると、すぐに試験官から呼び出しがかかった。

もう三次試験が始まるらしい。

「それじゃあ、行ってくる」

「はい。じゃあ私たちは、観覧席に戻りますね」

メリア達が引き返すのと同時に、セルフも動き出す。

「あ、セルフ様」

と、セルフを呼び止める声が聞こえたため、振り向くと、そこにはヤナギが立っていた。

そういえば、せっかく来てくれたのにヤナギとだけ話せていない。

「ヤナギも、ありがとうな。応援とか、してくれて」

「いえ。……あの、私は、セルフ様がいつもどのくらい頑張っていたか、知っています」

なんか、急に褒められた。

すごく急だったため、反応に困る。

「え? ああ、ありが……」

「セルフ様は、ご自分がどれほど頑張っているかは、ご存知ないかもしれませんが……、私は、頑張っていると思います」

「……なんで俺が、自分がどのくらい頑張ってるか分からない、ってことが分かったんだ? 」

別に、特段気にしているわけではない。

ただ、自分って頑張っているのか、頑張れているのかと、少し気にしていた程度のこと。

深く悩んでいるわけでもない、些細なことだ。

それでも、時々ふと考えてしまうような、小さなもやもや。

それをピンポイントで当ててきたヤナギに、セルフは更に動揺した。

「いつも、誰よりも遅くまで、訓練していらっしゃいますよね? 」

……そうだった。

「私は知っています。セルフ様が、どのくらい頑張っているのか。たった1人で、あの場所で訓練していて。私が来るのが遅くなって、もういないかと思っていても必ず残って、訓練している。日が落ちるまで、ずっと……」

この少女は、セルフを見てくれている子だった。

「そんなに頑張っているのは、まだ訓練が足りていないと、不十分だと思っているからではないのですか? 騎士になる為に、ずっとずっと努力して……」

「俺は、頑張ってる……努力、してるのか? 」

自分は、頑張っていると思っていた。そう思っていたかった。

自信をつけるために、自信をつけられるようになる為に、いつも頑張っているつもりだった。

だから、誰かからこんなふうに、頑張っているなんて言われるなんて……。

「はい。セルフ様は頑張っていたと、私の瞳には映っていました。セルフ様はそう思っていなくとも、私は頑張っていたと、そう思います」

誰か1人でも、自分を認めてくれる存在がいる。

それだけで、なんだか救われたような気になってしまうなんて、不思議な話だ。

今なら、何でもできそうな気がした。

スイセンの策略にも、その他の障害にも。全てに、打ち勝てそうな気がした。

思えば、去年の試験でもそうだった。

ブレイブの真似ばかりしている自分を、受け入れてくれた。

セルフはセルフなのだと、そう肯定してくれた。

あの日から、この少女に、支えられてきた。

「セルフ様は、1人ではございません。私がずっと、見てきましたから」

ずっと、隣で。

「隣にいて、くれるのか……? 」

そう聞くと、ヤナギは当然だというように、頷いた。

「セルフ様が仰ったのでしょう? また来い、と」

そうだった。一回目の試験で落ちた時、もう来なくなってしまうヤナギに、セルフは確かにそう言った。また来い、と。それにヤナギは頷いてくれたのだった。

「そう、だよな……」

全身から、何かが湧き上がってくるのを感じた。

彼女を、ヤナギを、愛おしいと、そう思った。

この時やっと、気づいたのだ。

本当は、去年の試験の時からずっと、想っていたくせに。

世界が真っ白に映った。

真っ白な世界に、セルフとヤナギの2人だけ。

そんな錯覚に陥ってしまう。

自分を呼んでくれる声も。

ひとつひとつの、仕草でさえも。

「セル……」

言いかけた唇を、自身のそれで塞いだ。

初めて触れる柔らかい感触に、一瞬思考が停止する。

唇を離すと、周りの喧騒が戻ってきた。

辺り一面に囲まれた観客席と、ライバルである養成所の生徒。

それらを見渡して、ポカンとしているヤナギの頭に手を乗せた。

「勝ってくる」

それだけ言って。


自分の場所に並ぶと、大きく深呼吸をした。

大丈夫。信じろ、自分を。

今までやってきたことを、やればいいだけなのだから。

何も、恐れることはない。

「それではこれより、三次試験を始める! 」

試験官の声と同時に、木剣を握りしめた。

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