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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第二章 優しい棘
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1

アイビー・コレクト。

9月2日、午後3時24分22秒にサリファナ王国の王子として誕生したコレクト家の一人息子。

それはそれは愛されて育ったアイビーは、常に周囲には人がいた。

その中には平民から高位貴族まで、幅広い人々に好かれており、婚約の話はひっきりなしだった。

何故、アイビーという人間はこんなにも人から好かれるのか?

「あら、アイビー様よ」

「今日もお美しいわぁ……」

「アイビー様は本当にこの国の王子様に相応しいわね。この前も、仕事が無くなった平民の方に行商の仕事を紹介していらっしゃったんですって」

「まぁ! 一国の王子様がたった一人の平民のためにわざわざそこまで? さすがアイビー様。お優しいこと」

彼はとても優しい。

明るく誰にでも平等に接し、貴族とは思えないフランクな態度で話すため、親しみがもてる。

身分が低いからといって人を見下すことはなく、間違いを指摘されたら素直に受け取り直そうと努力する立派な姿勢は周囲の人々を関心させる。

母親に似た燃えるような赤い髪に、ルビーのように輝く赤い瞳は人を惹きつけて止まない。

剣術に長けており学問においても秀才。

そんな彼を慕う者は年が上がるにつれてだんだんと数が増していった。

まぁ、結婚どころか恋愛にもあまり興味のないアイビーは、その手の話題が来る度に曖昧に笑ってかわすのだが。

だが、そんな心優しいアイビーでも、人を嫌いになることはある。

自分の立場を利用して下の者を見下す者。

卑怯な手法を使って人を貶める者。

そんな人を見る度に、アイビーは心の中に苛立ちや悲しみが募っていった。

何故こんな人達がいるのだろう?

何故身分が違うだけでこんなことになってしまうのだろう?

そうした幼少期からの疑問は、アイビーが15歳でヒーストリア学園に入学しても解消されることはなかった。

「見てあの方」

「あら、確か男爵家の……」

「よくもまああんな下級貴族がこの学園に入学できたものね」

「本当にそうですわ。品がないのだから」

扇子をふりながら笑うその女性達を、アイビーは冷めた目で眺める。

一人は侯爵家の長女、ミア・ノーマス。

もう一人、最初に口を開いた女性は公爵家のご令嬢、ヤナギ・ハランだ。

「あらアイビー様! ごきげんよう」

すると、遠くで眺めていたアイビーの存在に気がついたヤナギがこちらにかけて来た。

アイビーはヤナギに少し苦手意識を持っていた。

公爵家の令嬢という高い地位をもって生きてきたヤナギは、自分の気に入らないことがあれば直ぐに癇癪を起こす我儘令嬢。

自分より下の者のことは徹底的に馬鹿にし、排除しようとすることまである。

入学式の時だってそうだ。

この学園には珍しい、平民の女の子が入学してきたのをヤナギは許さなかった。

すぐさま平民の少女、メリア・アルストロの所へとんでいったかと思いきや、挨拶もせずいきなり彼女に勢いよくぶつかった。それは誰がどう見てもヤナギがわざとやったように見える。

もちろん誰も見ていない時間帯を狙って、だ。

入学式が終わって直ぐに寮へと戻らなかったメリアは運悪く一人で教室にいるのをヤナギに見つかってしまったのだ。

そして、たまたま教室に戻ったアイビーがその光景を見つけてヤナギを撃退、メリアを救出することができた。

ヤナギの悪い噂は昔からよく聞いていた。

ハラン家の令嬢はとても気が強くやりたい放題の毎日を過ごしており、その娘に仕える多くのメイドはハラン家を辞めたとかなんとか。

大っぴらにではないが、まことしやかににそんなことを囁く者たちがいることを、アイビーもよく知っている。

「ああ。ごきげんよう、ハラン」

「うふふ。ハランなんて堅苦しい呼び方をなされなくても、ヤナギ、でいいんですのよ? 」

あの日、メリアにぶつかったヤナギを強い口調で責めたアイビーのことはすっかり忘れた様子のヤナギは、いつもと変わらない笑みでアイビーに接した。

「ハラン、俺に何か用か? 」

名前呼びの件をスルーして、ヤナギにそう聞くと、ヤナギは目をパチクリさせてこう言った。

「あら? アイビー様を見かけたから、そちらに伺ったまでですのよ? 私はただ、アイビー様とお話したかっただけですもの。それに、何か理由が必要ですか? 」

そう言われてしまうと、返す言葉が見つからない。

「そうか……。あ! 」

言葉に迷っていると、ヤナギの後方から歩いてくる人影が見えた。

見慣れたハーフアップの茶色い髪の、小柄な女の子。

「メリア……」

無意識に呼んだその名を聞いて、ヤナギの顔は瞬時に険しくなった。

しまった、そう思ったがもう遅く、ヤナギは後ろを振り返りメリアを思いっきり睨みつける。

それに気がついたメリアはといえば、状況を察して悲しそうな顔になった。

見ていられない。

「メリア、ちょっといいか? 」

「え? アイビー様……わぁ!? 」

メリアの右腕を掴み、ヤナギを置いて先に寮へ続く廊下へと連れて行く。

「アイビー様、何を……」

「いいから」

メリアを寮に送り届けようと、メリアを引っ張る。

ヤナギに目をつけられてから、周りの貴族達も同様、メリアに嫌がらせや陰口などをするようになった。

アイビーのいない時を狙って、だ。

もうこれ以上、メリアに関わってほしくない。

「……平民のくせに」

ボソッと聞こえたヤナギの声に気づかないフリをしながら、アイビーは更に進んで行った。

そしてそれが、あのヤナギの最後に聞いた言葉だった。

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