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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第九章 アトラクトソング
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1

ふわりと涼しい風が、草木を揺らす。

それと同時に干していた洗濯物達も小さく舞い踊る。

「これで全部ね」

空っぽになった洗濯カゴを見てふぅとため息を吐いていると、家の中に見知らぬ男が侵入してきた。

「これ、お手紙です」

男は郵便配達員だったらしく、ぺこりと頭を下げて手紙を渡してきた。

手紙なんて珍しい。

男が帰って行くのを見届けた後で差出人の名前を見てみると、そこには「ヤナギ・ハラン」と綴られていた。

宛先は、「メリア・アルストロ」。

「メリアー。お手紙よー」

家の中に向かってそう呼びかけると、弟と遊んでいたメリアがパッと顔を上げた。

「お手紙? 私に? 」

「ええ。ヤナギ・ハランって子なんだけど――」

「えぇ!? ヤナギちゃんが!? 」

大層驚いた様子のメリアは、持っていた色鉛筆をほっぽり出して一目散に庭へ出てきた。

「お母さん! ヤナギちゃんからの手紙って、本当!? 」

「本当よ。お友達? 」

「うん! 」

元気よく返事をして早速手紙を開封するメリアを、穏やかな瞳で見つめる。

そうか。あの子にも友達ができたのか。

急に貴族ばかりが集う学園に入りたいと言い出した時はいろいろと不安だったものだ。

勉強にはついていけるのか。

人様に迷惑はかけたりしないか。

友達ができるかどうか――。

昔から、明るく人に好かれやすい性格ではあったが、環境が変わるとどうなるかは分からない。

もしかしたら、平民であるからと虐められたりするのではないか。そんな不安も抱えていた。

でも、今目の前にいるメリアは、嬉しそうに笑っている。

友達からの手紙を読んで、実に楽しそうにしている――

「えぇ!? 」

楽しそうにしていた表情から一転、メリアは険しい表情に変わっていった。

手紙を持つ手はプルプルと震え、息も少々乱れている。

「メリア? 」

不思議に思って声をかけると、メリアはバッと手紙から顔を上げて、突如、村中に響き渡る程の大声を発した。

「ええええええええええええええええ!? 」





夏休みの終わった学園は、いつも以上に沢山の人で賑わっていた。

そこにはこの学園の生徒や先生達だけでなく、小さな子供からお年寄りまで幅広い年齢の人達がわいわいと楽しそうに歩いていた。

「ヤナギちゃーん! 」

そんななか、人混みをかき分けてこちらにやって来たのはメリアだ。

「凄い賑わいだねー。お客さんも皆楽しんでくれてるみたいだし、頑張って準備したかいがあったよ」

夏休みを早く切り上げて学園にやってきた文化祭委員は、校内の飾り付けやお店、展示物のお手伝いなどなど、文化祭のために沢山のことを準備してきたのだった。

初めは夏休みがもう少し欲しいとボヤいていたシードとメリアも、文化祭準備が完成に近づいていくと共に気力も湧いてきていた。

そして迎えた今日、文化祭当日には、メリア達の頑張りのおかげで多くの賑わいを見せていた。

「食べ物系は全部回りたいんだけど……。この人混みじゃ難しいかなー? とりあえず、人気の所から順番に行って……あ、生徒会が舞台で何かするって言ってたから、見に行かないとね。生徒会ってことは、アイビー様も出るだろうし」

するとメリアは、ヤナギの手をギュッと握って笑顔を見せた。

「ねぇヤナギちゃん! 一緒に回ろうよ! 」

「え……」

唐突な申し出に、瞬時には答えることができなかった。

キミイロびより! の小説でも、文化祭のシーンがある。

そこでは確か、メリアと回っていたのはブレイブだったはずだ。

「あの、私でも宜しいのですか……? 」

心配になってそう聞くと、メリアは一瞬キョトンとした後、直ぐにまた笑いかけた。

「ヤナギちゃんが良いんだよ! ていうか、今日は一緒に回るの! 」

今日のメリアは珍しくちょっと強引だ。

「何故、私と? 」

すると、メリアはリスのようにプクッと頬を膨らませてヤナギを見た。

「だって、手紙に……」

「手紙? 」

夏休みに送ったものだろうか。

メリアの手紙に返事をしようと送った物だが、それがどうしたというのだろう。

「夏休み中、お泊まりしたって……」

お泊まり。そういえば、そんな内容を書いた気がする。

夏休み中にイザリアの誕生日パーティーに行って、そのままお泊まりをした時のことだ。

楽しいと感じたから、その気持ちを書いただけなのだが……。

「私はまだ、ヤナギちゃんと遊んだことないのに……」

何やらブツブツ言っているようだが、何せ人が多いせいでよく聞き取れない。

「すみません。よく聞こえないのですが……」

「ううん! なんでもない! ほら、行こっ」

手を繋いで、廊下を進む。

壁にはヤナギ達が作った造花が飾られており、傍にいた小さな女の子が「わぁ、綺麗! 」と指をさしていた。

「そういえば、造花の勝負が決まるの今日だね」

メリアが薔薇の造花を見ながら感慨深そうに言った。

ヤナギが文化祭の準備として行った造花作りでメリアに勝負を挑んだのは、小説のヤナギの行動通りに実行したものだ。

小説のヤナギは、アイビー目的で文化祭委員を希望するも、同じくそこにいたメリアに酷く激怒する。

そこで、どちらの方がアイビーの役に立てるか証明するため、造花作りで勝負を挑むのだ。

勝負の内容はいたってシンプルなもので、それぞれが作った造花の売れ高が大きい方の勝利とする。

「負けないよ、ヤナギちゃん! 」

「私も、負けません」

「ヤナギちゃん、さっきから気になってたけど、敬語」

「あ……」

そういえば、メリア相手に敬語は禁止だったことを思い出す。

敬語以外で話すのなんて久しぶりで、つい忘れてしまうのだ。

いつ以来だろう。前世の学校のクラスメイトぶりだろうか。

「すみませ……ごめんなさい、メリア」

言い直すと、メリアはにこーっと笑った。

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