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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第八章 悪役令嬢パーティー
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5

夜更かしはお肌の大敵だ、なんてよく言うけれど、その日はそんなこと関係なしに遅くまで語り尽くした。

イザリアの恋愛事情について深堀りしたり、持っている宝石やアクセサリー等を自慢したり、ちょっとした言い合いになってしまったり……。

気がつくと時計の針が3時を示しており、欠伸が出てきたところでこの小さなパーティーはお開きとなった。

隣のベッドではイザリアを真ん中にしたリンとミアがスヤスヤと寝息をたてている。

ヤナギの左隣でも、テリナが気持ちよさそうに寝ていた。

誕生日パーティーもあって疲れていたのか、皆ぐっすりと眠っている様子。

カチコチと、時計の秒針を刻む音だけが室内に響く。

「ヤナギ様、まだ起きてらっしゃいますか? 」

と、秒針の音に被せてきたのは、ヤナギの右隣で横になっているヨナだった。

身体はヤナギから背を向けたままの状態で、小声で言葉だけ寄越してくる。

「起きています」

ヤナギも、身体は仰向けにしたまま言葉だけを投げかける。

「……そうですか」

それだけだった。

ただ、起きているかの確認をしてきただけ。

ヨナはそれ以上何か言おうとはしなかった。

さすがに不審に思ったので、「何かご用でしょうか? 」とだけ言っておく。

これで何も言わないのであればもう話しかけないでおこう。

そう思ったのだが。

「……私、ヤナギ様のことが嫌いですわ」

返ってきたのは、用があるという返事でも、別に何もないという返事でもなかった。

いきなりの、嫌い宣言。

だが、ヤナギは別に何も思わなかった。

ヨナはヤナギのことが嫌い。それは前から知っていたことなのだから。

「この間も、そう仰っていましたね」

夏休み前、メリアとヨナが何やら喧嘩をしていた時。

「学園に入った当初は、淑女としてのマナーや勉強……それら全ては、私が1番でしたのに、なのに、ヤナギ様が、急にそれを、私の前で奪っていった……」

嫌いとする理由も、あの時と同じだ。

「親に自慢の娘だって誇られて、先生には優秀だって褒められて、それが私の強さだった。優しい、綺麗だ、気品がある。それらがあるから私は在る。なのに……急にヤナギ様が現れた。成績も、私より順位が上になった。私だって、女性の中でしたらトップでしたのに。淑女のレッスンだって、私よりずっと出来ていた。それが、凄く悔しかった」

ヨナはそこで、「御無礼をお許しください」と一言付け加えた。

「私は、ヤナギ様が嫌いです」

もう一度、ハッキリとヨナはそう言った。

「怖かった……。嫌いだなんて、私より身分の高いヤナギ様になんて、とてもじゃないけど言えませんでしたわ。でも、あの子に、メリアさんに、怖がりと言われて……その時、私凄く腹が立って……。その、上手く言えないのですが……陰で言うくらいなら、直接言ってやろうと思いましたの。ヤナギ様のことが、嫌いで、大嫌いだから、この気持ちを言ってやろうと思いましたの」

それは、その時のメリアの行動からの影響もあるのだろう。

あの時メリアは、今まで思っていた悪口等に対する自分の意見を、身分なんて関係なく全て吐き出していた。

泣き叫びながらも、懸命に伝えようとしていた。

あんなふうに、自分の思っていること、感じていることをそのまま口に出して言うことは、そんなに簡単なことではない。

誰しも、相手の気持ちを考えて、言う言わないを決めている。

だが、あの時のメリアは違っていた。

自分1人だけがモヤモヤしているのは、悩んでいるのは嫌だった。その気持ちに、ヨナも少し共感してしまったのだろう。

「ヤナギ様を前にしてこんなこと……申し訳ございません。ヤナギ様は、こんな私を罰しますか? 」

それは、一種の賭けだったのかもしれない。

ヤナギになら、本音を言っても大丈夫なのではないか。そう思ったから、本当のことを話してくれたのではないだろうか。

でも、言うなら言うで少しはリスクを払わなければいけない。

この世界は前世の日本とは違う。

高位貴族に無礼な口をきけばすぐに殺されてもおかしくないのだ。

「罰しません」

ただっ広い天井に、ヤナギはそう言った。

その時、ヨナが初めてこちらを向いた。

酷く驚いた顔をしている。

「私がヤナギ様を嫌いと言っても、ヤナギ様は怒らないのですか? 」

「人が人を嫌うのは、当たり前のことです。それの何が悪いのでしょうか? 」

「ヤナギ様……」

そこでヤナギも、初めてヨナの方を向いた。

部屋が暗いせいで、いつもは澄んだような青い瞳には陰りができている。

「ヨナ様は、メリアが嫌いなのですか? 」

つい思ったことを口にすると、ヨナはまたヤナギに背中を向けてしまった。

「嫌いですわ……。私と違って品なんて無くて、勉強だってできない。見ていてイライラするくらいに、嫌いです。だから、あの子を騙してやろうと思ったんですの」

「騙す? 」

「……あの子と友達になったフリをして、それを利用して、ヤナギ様のことを悪く言ったと、嘘を流したんです。それで、貶めてやろうと……」

ヨナの言葉に、嘘はないのだろう。

ヨナがメリアを騙したのは事実なのだろうが、少しだけ胸にひっかかるものがあった。

「それならば、貶めるなら何故、わざわざメリア様とお友達になったのですか? 」

すると、ヨナの肩がピクリと小さく動いた。

「メリアを貶めるだけなのであれば、友達にならずとも、ヨナ様が噂を流せば信じる人はいたと思いますが」

友達の立場を利用せずとも、ヨナ1人の力でメリアを貶めることはできたはずだ。

「……出来心、ですわ」

気まずそうに、ヨナが言った。

「ある日、ミア様と出会って……。同じくメリアの事が嫌いだと言うから、協力しようと思って……。ただ貶めるだけじゃつまらないから、せっかくなら騙してやろうと……。意味なんて、ありません。完全な憂さ晴らしなんですから」

理由なんてない。それが真実だった。

「騙されているメリアさんを見て、面白がって……。そしたら、あんなことになってしまって……」

「あんなこと? 」

「……アイビー様に、こっぴどく叱られてしまいましたわ。今回は厳重注意でしたけど、今度やったら許さない、と」

ヨナが、ベッドのシーツをぎゅっと握りしめる。

「分かっていますわ。嫌いだからと言って、あんなことをしてはいけないと。分かってはいたのですけれど、自分の思い通りにいっていなくて、イライラしていて……」

アイビーに怒られたせいか、ヨナは随分と素直にそう白状した。

ヤナギは、ただそれを聞くだけ。

「それでも私は、あんなことがあってもまだ、メリアさんと、ヤナギ様のことが嫌いなんですの」

苛立ったように、ヨナは言った。

それは、ヨナが自分自身に怒っているようにも聞こえた。

「私は、イザリア様のように平民を認めることもできなければ、リン様やテリナ様のように、人の嫌な部分を、心の底から受け止めてあげることができない……。反省なんてしたくない、自分が間違ってるなんて信じたくない、自分が正しいと思いたい。そんな、小さな人間なんです」

苦しそうに、ヨナは言った。

そうしてまた、暫く黙る。

次の言葉を待っていると、それまでで1番小さな声でヨナは言った。

「……ごめんなさい、と伝えておいてくださいませ」

本当に小さな声だったため危うく聴き逃しそうになってしまう。

「直接は、言わないのですか? 」

前世で昔、父が言っていた。

『ごめんなさいを、簡単に言ってはいけない』と。

人に謝る時は人の目を見て、心から謝罪の言葉を言いなさいと。

これはヤナギが守っていることなのでヨナに強要するわけではない。

ないが、それでも何となく、理不尽だと思ってしまった。

「許して、くださいまし……。臆病で、成長できない私には……」

懇願するように、ヨナは言う。

「私にはっ、これが精一杯なんですのっ」

声を震わせるヨナの後ろ姿は、泣いているように見えた。

いや、本当に泣いていたのかもしれない。

どんな顔をしていたのかは分からないが、そう感じた。

もう、メリアと顔を合わせたくない。

今のヨナには、メリアと話す資格なんてない。

いろいろ思うところはあるのかもしれないが、それらを聞くことはできなかった。

「ヨナ様? 」

名前を呼んでも、ヨナは答えてくれなかった。

もう寝てしまったのだろうか。

「おやすみなさい、ヨナ様」

そう言って、ヤナギも眠りにつく。

ヨナの頬から流れた雫が、シーツにシミをつくったことに気がつかないまま。





「ほらっ! さっさと起きてください! 」

大きな声で、リンはイザリアが掴んで離さない布団を無理矢理ひっぺがした。

「もう、少し……後5分だけ……」

「そう言ってもう20分も経っているではありませんか! 立派な淑女として、これ以上の睡眠は許しません! 」

「ん、んん……」

時刻は朝9時。

コンコンコンとノックをした執事が、「あの、ご朝食が冷めてしまわれますので……」と今朝何度目か分からない台詞を言いにやって来た。

「10時には私達はもう帰りますから。ほら、早く朝食を食べにいきますわよ。身だしなみを整えて、ほら、髪を梳かしなさい」

「ふぁぁい」

何とか立ち上がったイザリアは、メイド達の手によってあれよあれよと服を着替えさせられ顔にメイクを施されていく。

準備が整ったところで、皆で朝食の席に着いた。

テーブルにはパンやサラダ、お肉など、色とりどりの鮮やかな料理が並んでいる。

「……これは? 」

その中で1つ、見慣れない形をしたパンを見つけた。

真ん中に小さな穴が空いている、ドーナツにしては随分分厚いパン。

不思議そうに見つめていると、隣からヨナが教えてくれた。

「それはベーグルパンですわ。ほら、ここに切込みが入っているでしょう? ここにサラダやお肉等を挟んで、サンドイッチのようにして食べるんです」

ベーグルパンは、前世でも聞いたことがあった。

だが実際に見るのはこれが初めてだ。

ベーグルパンなんて、あまり馴染みがないせいで名前しか知らなかった。

確かに切れ込みが入っており、そこから何かを挟めるようになっている。

優しく教えてくれるヨナを見ると、ヨナはバツが悪そうに顔を逸らした。

「ヤナギ様のことは嫌いですが、夜のことがありますし……。あれだけ本音を言ったのですから、無視するわけにもいきませんわ。嫌いな者同士、変に気を遣う必要もないわけですし……」

「私は別に、ヨナ様のことは嫌いではありませんが……? 」

「え? 」

ヨナはヤナギのことが嫌いなのだろうが、ヤナギはそうではない。

そもそも、嫌いになる理由がなかった。

「……ヤナギ様は、私が思っていた人物像とは、やはり随分違うのですね」

「? どういう意味でしょうか? 」

いまいち理解できず聞き返すと、

「我儘でもなければ癇癪を起こすような方でもない。ちゃんとした淑女、ということですわ」

ふんっと髪をクルクルと指で巻くヨナは、ヤナギと同じくテーブルのベーグルパンに手を伸ばした。

「あら、ベーグルパンですか? 私も食べましょうっと」

テリナがベーグルパンを見て、同じように手に取った。

「あら、でしたら私も」

「なら私も」

リンとイザリアも、ベーグルパンを1つ手に取る。

「ヤナギ様が食べるなら私も」

ミアも、ベーグルパンを手にした。

「私はフルーツサンドにしますわ」

「あらテリナ様、朝からそんな甘いものを食べて大丈夫なんですの? 」

「リン様こそ、そんなヘルシーなものばかり挟んで、お腹が空きますわよ? 」

「あ、お姉様、そこのマドレーヌ取ってください」

「じゃあ、ミアはそこの生クリームをこちらにくださる? 後そこのブルーベリーも」

「あ、生クリームは今ヨナ様が使っているので少し待っててください」

「あ、大丈夫ですよミア様。もう終わりましたから」

わいわいと、皆楽しそうに食事をしている。

時に怒ったり、呆れたり、笑ったり……。

その光景は、昨日までずっと1人で食事をとっていたヤナギにとっては、想像できないものだった。

人の家でお泊まりをして、こんなふうに食事をしている。

「ヤナギ様? 」

目を丸くして固まっているヤナギを、ミアが不思議そうに覗き込んでくる。

ミアの声につられて、イザリアもリンも、テリナもヨナも一旦手を止めてヤナギの方に注目した。

「ヤナギ様、何をボケっとしていますの? 10時に出るのでしょう? 遅れてもしりませんわよ」

イザリアの言葉で、ヤナギはすぐに我に返った。

「申し訳ございません……。こんなふうに皆さんと過ごすことが、初めてで……」

正直にそう言うと、皆は一瞬ポカンとした顔をした後、盛大に笑いだした。

「確かに、珍しい組み合わせでしたわよね」

リンが笑いながらそう言った。

「本当。1生に1度あるかないかくらいですわよ、こんなの」

するとテリナも高い笑い声をあげながら言った。

「でも、テリナ様もこんなふうに誰かと過ごすこと、初めてだったのではなくて? 」

「それを言うならイザリア様もそうでしょう? 私と同じで、友達がいなかったのですから」

「なら、リン様だって」

「ミア様、私とまた、こんなふうにお泊まりしてもらえるかしら? 」

「勿論ですヨナ様! あ、その時はヤナギ様もぜひ一緒に! 」

和やかな空気が室内に流れる。

触れたことのない感覚に、ヤナギは心がまた温かくなるのを感じた。

楽しい、そう感じて、周りを見渡す。

皆、楽しそうに笑っている。

その笑みに囲まれながら、ヤナギは朝食を再開した。

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