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「嫌ですわ嫌ですわ嫌ですわー! 」
今日何度目か分からない駄々をこねるイザリアの視線は、目の前の2つ置かれているベッドに向けられていた。
シングルベッドとはいえ、4人くらいは普通に寝れそうな広さを誇るベッドが2つ。
6人に対して、2つ。
それがどういう意味を指すのかは、安易に想像ができる。
「何故!? 6人分のベッドくらい、用意出来ますでしょう!? 」
「で、ですが、イザリア様のお部屋には物が沢山ありまして、これ以上はとてもベッドが置けないのです。ですので今回は、1つのベッドに3人入るという形でどうか1つ……」
イザリアの部屋はとても広い。
だが、その広さの大半が宝石やらアクセサリーやらドレスやらで埋め尽くされてしまっているため、とてもじゃないが6人分のベッドを置くスペースはない。
イザリアの執事らしきヨボヨボのお爺さんがそう言うと、イザリアはプクッと頬を膨らませて「もういいですわ! 出ていってください! 」と怒鳴って執事を追い出した。
「それでは、私はこのベッドを1人で使いますから。もう1つは皆様でご自由にどうぞ」
「はぁ!? 」
ベッドに入って眠りの体制につこうとしたイザリアを、リンがベッドから引き剥がす。
「何をするんですの!? 」
「何をするんですの!? ではありません! 何1人で1つのベッドを使おうとしているのですか! 」
「ここは私の家なのですから、好きにさせてくださいまし! それとも、3人で寝ろと仰るおつもり!? 」
「そう仰るおつもりです! 」
ベッドから落とされたイザリアは、ぐぬぬと顔を怒りで赤くした。
「そ、それではジャンケンで決めましょう! 」
「いいですわよ。その代わり、後で文句を言うのはナシですからね? 」
リンがじとりと睨み右手を出す。
それに合わせて、他の皆も片手を前に出した。
「わ、分かってますよ! 」
イザリアも右手を出したところで、それは始まった。
「最初はグー! ジャンケン……」
「そ、そんな……」
パーの手を震わせながら、イザリアの顔色が青色へと変化していく。
「嫌ですわこんなの! もう一度、もう一度やり直しましょう! 」
「イザリア様。文句を言うのはナシだと、先程申しましたよね? 」
「で、ですがリン! 何故私が貴方と、それと後ミアと共に一夜を過ごさなくてはいけないのですか! 」
「悪かったですわね……。私だって本当はヤナギ様と一緒に……」
「何か言いましたかミア? 」
「お姉様なんかと一緒にではなく、ヤナギ様と共にするのがよかったのです! 」
「はぁ!? 私のどこが不満だと言うのですか! 」
姉妹喧嘩を始めるミアとイザリアに、テリナとヨナが呆れた目を向ける。
リンはこの我儘に慣れているのか、いつものこと、といったふうに自分が寝るベッドを整えていた。
「だいたいリン様もあとテリナ様も、何故毎度毎度私の邪魔をするんですの!? 」
「えぇ!? 私もですか……? 」
テリナがまさかという顔でイザリアを見ると、イザリアはまるでライオンのようにガルルルルと唸った。
「昔っからずっとずっと! お茶会の時のこと、忘れたなんて言わせませんわよ? 」
「え……。お茶会っていつの……」
「私とテリナ様が初めて会った時の! 7歳の頃私の家で行ったティーパーティーです! 優しい男性と楽しく談笑していたら、私と男性の間に割って入ってきて、クッキーとマフィンを貪っていたあれのことです! 」
「む、貪っていたって……。これでもマナーはちゃんとしています! 私はちゃんと1つずつ、綺麗に食べていました! 」
「そこではありません! あの時は、せっかく上手くいきそうでしたのに……。リン様、貴方もですよ! 」
「はぁ? なんですの今度は」
「惚けても無駄ですわ! 同じくお茶会で、私が話していた男性の目を奪ったではありませんか! 私と話していましたのに」
「それ、テリナ様が貴方の邪魔をしようとしまいと、結局は私の美貌でその男性は貴方の元から離れていたのではありませんか。ま、それもこれも、私に魅力があって、イザリア様には無いだけのことでしょう? 」
「なんですってぇ〜。アイビー様の見合いの時も、何故かリン様とテリナ様もいて……」
「ふ、ふふっ」
言い争う3人を見て小さく笑ったのは、優雅にベッドに座っているヨナだった。
話を止めたイザリア達が不思議そうにヨナを見ると、ヨナは「ごめんなさいね」と一言断ってから言葉を続けた。
「あなた方3人は、とても仲が宜しいのですわね」
「「「はぁ!? 」」」
「だって、そんなに昔からずっと一緒にいるなんて、それはもう仲が良い証拠でしょう? 」
「それは違います! この人達が、勝手に付きまとってくるんですの! 」
「はぁ? 私だって、イザリア様と一緒にいたいわけではございませんわ」
「わ、私もです! 変な勘違いは止めてください」
ヨナの仲が良い発言に全力で否定する3人は、とても息が合っていた。
口々に否定するその姿が、逆に仲が良いのだなぁと実感させる。
ヨナもそれが分かっているのか、クスクスと可笑しそうに笑っていた。
「……全く。学園でも両隣の席になりますし。本当、どういうことですの? 」
イザリアがため息を吐いて言った言葉に、ヤナギは小さな疑問が生まれた。
「イザリア様とリン様とテリナ様は、通われている学園が違うのですか? 」
ヤナギが通う学園では、イザリアとリン、テリナは見かけたことはない。
すると、その疑問に答えてくれたのはテリナだった。
「はい。私達はヒーストリア学園の隣の学園に通っております。そちらには敵いませんが、とても立派な学園なんですのよ? 」
「ふんっ! 貴方達と同じ学園なんて、良い迷惑ですわ」
「どっちがよ」
再びイザリアとリンの小競り合いが始まる。
今度はテリナが、それをいつものことだというように眺めていた。
「あんな意地悪な性格ですけれど、学園ではいつも1人だった私に、声をかけてくださるんです」
テリナがイザリアとリンを見る目は、とても穏やかだ。
「本人には、全くその気はない……ただ、普通に話しかけてくれているのでしょうけれど、私にとっては、凄く嬉しいことなんですの」
「……何故、嬉しいと思いますの? 」
ここで初めて、ヨナがヤナギ以外の前でも真顔になった。
どこか真剣味を帯びたその瞳には気づかずに、テリナは苦笑して言った。
「1人でいることは、別に苦ではないのです。……ただ、1人でいることが、1人でいるのを周りに見られるのが、嫌なんです。可哀想な奴だって、そう思われたくなくて……。あ、決してイザリア様とリン様と一緒にいる理由は自分を守るためとか、そういうのではありませんわよ!? 初めは同じ学園だったことに戸惑ったり、1人でいる私を見てどんなふうに思うのかとか、心配したりはしましたけれど……。でも、イザリア様もリン様も、私のことを可哀想な目で見ないんです。それが凄く嬉しくて……。気がつけば、相手のことをよく知れば知るほど、一緒にいる時間が、とても楽しいものになっていましたの」
テリナの顔は、とても大人びて見えた。
同時に、どんなにイザリアとリンのことを大切に思っているのかが、よく伝わってくる。
「お見合いの時、私とイザリア様が喧嘩をした時のこと、覚えています? 」
「はい。確か、ハンカチが木に引っかかってしまわれて……」
カラスが持っていったハンカチが木に引っかかってしまい、イザリアがそれをテリナのせいにした時のことだ。
あの時は取っ組み合いの喧嘩にまで発展したので、よく覚えている。
「あの後、私謝ったんです。さすがに手を出したのは不味いと思って。正直許してもらえるかどうか不安でしたが、案外あっさり許してくださって。それに、私も手を出してごめんなさいと、ぶっきらぼうにでしたが、あちらからも言ってもらえて」
「それは、良かったですね」
「はい。リン様にも、あの時止めようとしてくださっていたのにごめんなさいと、きちんと謝っておきましたわ」
テリナの晴れやかな顔とは対照的に、ヨナの表情には陰りがさしていく。
下唇を強く噛んで、何かに堪えるようにテリナの言葉を待っていた。
「仲が良いかどうかは分かりませんが……少なくとも、私はイザリア様とリン様のことを、大切に想っているんです。なんて、あの2人には絶対に、内緒ですけどね」
人差し指を口に当てて、テリナはふふっと小さく笑った。
少し離れた所では、まだ言い争いは続いている。
「お黙りなさいこの悪役! 」
「はぁ!? 誰が悪役よ! 」
「この間読んだ物語に出てくる悪役キャラに、イザリア様はとても似ていますわ! その我儘な性格、直した方が宜しいのではなくて!? 」
「余計なお世話よ! 」
「テリナ様も、この我儘娘に何か言ってやってくださいまし! 」
リンがテリナの元まで来て手を握る。
「はーい」
しょうがないなぁ、というようにテリナがリンの手を握り返した。
「……少なくとも、ではありませんわよ」
「え? 」
足を止めて、リンがテリナの方を振り返った。
「大切じゃなかったら、何年も一緒になんていませんわ。私、すぐ飽きてしまうタイプなので」
「リン様……」
さっきの会話を聞かれていたと、テリナの顔が恥ずかしさで赤く染まる。
それを見たリンは、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「ほら、行くわよ」
テリナの手をひいて、リンは駆け出した。
今夜もあの、我儘令嬢に付き合うために――。




