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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第八章 悪役令嬢パーティー
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3

午後11時。

パーティーが終了したため、門の前には沢山の馬車と人々で埋まっていた。

握手をしてまた会う約束を交わし合う人やハグで別れを告げる人、そして、それらをお城の窓から何とも言えない表情で眺める人達。

「……良いなぁ」

隣でボソリと呟かれた言葉は、テリナのものだった。

窓に手をついて帰路に着く人達を羨ましそうに見ているテリナに、ヤナギ同様呟きが聞こえていたのであろうリンが小さくため息を吐いた。

ノーマス家にお泊まりするという急展開に、イザリアはわなわなと震える手をぎゅうっとキツく握りしめた。

「なんで、なんでこんなことになったのよ! 」

「私に言われましても」

「リンだけに言ってるわけじゃないの! 私は皆に言ってるの! 」

「あーもうっ! 」と頭をガシガシ掻くイザリアは、明らかに怒っている様子だった。

が、暫くすると頭を掻くのを止め、1人スタスタと会場から出ていってしまう。

「ちょ、ちょっと、どこに行くんですの? 」

ミアが引き止めるようにイザリアを追うと、イザリアは振り返らずに「お風呂よ」と答えた。

「お、お風呂? 」

「ええ。今日はとても疲れたから」

「な、なら私も行きます! 」

イザリアについて行くことを決めたリンが、イザリアの隣に並ぶ。

するとヨナとテリナも「私も行きますわ」と横並びになった。

「ほら、ヤナギ様も行きましょう? 」

「ええ」

ミアに連れられてヤナギもイザリアの後を追うと、イザリアは苦々しい顔でこちらを振り返った。

「何故、私があなた達とお風呂を共にしなければならないのですか! 」

「しょうがないでしょう一緒に泊まることになったのですから! 一人一人お風呂に入っていたら、時間がかかってしまうでしょう!? 今夜はもう遅いのですから、ここは一緒に入るしか……」

「冗談じゃありませんわ! 着いてこないでくださいまし! 」

ギャーギャーとイザリアとリンが騒ぐなか、ミアはヤナギの手を引いてさっさとお風呂へと向かって行った。

「あ! お待ちなさい! こら! 」

その動向を見つけたイザリアは、自分も慌ててお風呂を目指そうと駆け足になる。

残された3人も、やれやれと呆れながらその後を追った。


「ったく、何故私が貴方達なんかと……」

「ぶつくさ文句ばかり言ってないで、早く脱ぎなさい。でないと、先に入ってしまいますわよ? 」

「ちょ、ちょっと待ってくださいな! リン、そんなに急かさないで……」

「ヨナ様、私より胸が大き……。一体何を食べたらそんなふうになりますの? 」

「あら、テリナ様だって十分大きいじゃないですか」

「はっ! テリナ様のお胸なんて、精々脂肪がほとんどでしょう? 」

「っ……! 1人だけ貧乳のイザリア様には言われたくありません! 」

「なっ、なんですってぇ!? 」

「それじゃあ、行きますわよ〜」

「ちょっと待ちなさいリン! まずは私が先に……」

風呂の扉を開け始めたリンを見て、イザリアは急いでドレスを脱ごうと手元をもたつかせる。

「それでは、いっちばーん」

「あっ、ちょっと! 」

イザリアの制止の声も聞かず、リンはさっさと風呂の扉を開けてしまう。

目の前に湯気が立ち込めたかと思いきや、晴れてきた視界の中に映ったのは、広く豪華な浴室と薔薇の花びらが散ったジャグジーだった。

「まぁ、素敵ですわ〜! 」

ヨナが感嘆の声をあげると、イザリアはふふんと自慢気に笑った。

「ノーマス家自慢の浴室なのですから、このぐらい当然ですわ。ご覧になって? 窓から映る景色とこの……って、お聞きなさい! 」

話を聞いていないリンとテリナは、薔薇の花びらを手で掬って匂いを嗅いでいた。

「薔薇の香りがしますわね。良い香り……」

「本当。食べたくなっちゃいますわね」

「え……? 」

テリナの発言にリンが目を丸くしていると、ヨナが早速ジャグジーに入った。

「あら。丁度良い温度ですのね……。それにリン様の仰る通り香りも……」

「ずるい! 私も入りますわ! 」

「私も! 」

「なっ! まずは私から〜! 」

リン、テリナ、イザリアがジャグジーに入るのを

横目に、ミアとヤナギは隣同士で頭を洗っていた。

シャンプーで頭を洗い流し、次はトリートメントのボトルを触る。

プッシュしてぬるぬるした液体を掌に乗せると、ふんわりと薔薇の香りがした。

さっき使ったボデイーソープにも薔薇の香りがついていたから、この浴室は全て薔薇の香りで統一されているのだろう。

トリートメントを髪につけて洗い流すと、先に終わっていたミアが待っててくれていた。

「さ、一緒に入りましょう。ヤナギ様」

手をひかれて、一緒にちゃぽんと湯に浸かる。

ジャグジーをよく見てみると、マーライオンのようなものまで付いていた。

暫く堪能していると、テリナが不意に口を開いた。

「……あの、ヤナギ様。アイビー様のことなのですけれど……」

アイビーの名を聞いたヨナとミアの顔が、一瞬凍りついたように見えた。

「アイビー様が、どうかしましたか? 」

「えぇっと、同じ学園ですよね? その、お好きな方とか、いらっしゃるのかなぁって……」

もじもじと恥ずかしそうなテリナは、それでもまっすぐな瞳をヤナギに向けた。

だが、生憎恋愛事はよく分からないヤナギは、この手の話題に答えることはできない。

「申し訳ありませんが、存じ上げません」

首を横に振ると、テリナは「そうですか……」と少し悲しそうな、けれどどこかほっとしたような顔をした。

「アイビー様のこと、まだ諦めていないのですね」

「リン様こそ、まだ婚約を結んでいないということは、まだ諦めていないのではなくて? 」

「……分かりませんわ」

「分からない? 」

少しだけ目を伏せたリンの横顔は、近くで見るとより美人だった。

「アイビー様に断られた時、思いましたの。私、本当にアイビー様のこと好きだったのかなって。もしかしたら、身分や見た目だけで勝手に好きと思い込んでしまっていたのではないか、と」

リンが自分の身体を抱きしめて身を縮こまらせる。

若干紅潮した頬は、アイビーのことを想ったからなのではなく、単純にお風呂のせいなのだろう。

「……私も、同じことを考えていました」

「テリナ様……」

「アイビー様と結婚したいと、今でも思います。ですが、理由を聞かれると、答えられない……いいえ、リン様の言ったように、身分や見た目などの表面上のことしかでてきません。もしかしたら私も、それほどアイビー様のことを好きではないのかも……なんて」

困ったように笑うテリナを見て、リンの口元も緩んだ。

「イザリア様はどうなんですの? 」

リンがイザリアに声をかけると、夜景を眺めていたイザリアは顔だけをこちらに向けたが、目は泳いでいるようだった。

頬もただお風呂に入っているからなんてレベルでないほど赤くなっている。

少々間を空けたあと、イザリアは目線を湯に浮いている薔薇に止めて小さく言った。

「実は私、好きな人ができたん……ですの」

できた。好きな人が、できた。

その言い方は最近あった出来事を話す時のそれだった。

「「はぁ!? 」」

驚いているリンとテリナから、イザリアは顔を夜景へと戻した。

「あ、相手は誰なんですの!? 」

「どんな方なんですか!? もしかして、私の知っている方ですか!? 」

「こ、この間見合いをして……。そこで会ったのですけれど……。その、私の容姿を、褒めてくださって。その後一緒にお食事をして……。ま、また会いにきます、と……って、なんですのそのニヤニヤした顔は! 」

「いえいえ〜。あの強気なイザリア様がこんなに顔を赤くして弱弱しくしているお姿なんて、初めて拝見しましたもので〜」

「いいなぁ、私も早く結婚したいなぁ。もうこの際身分なんてどうでもいいですわ! いっそのこと平民でも! 」

「あら、いいじゃありませんの。平民でも」

「え? 」

テリナの言葉に賛成するようにイザリアはそう言った。

「平民でも良いんじゃありませんの? テリナ様、食べるのお好きですし。旦那様とご一緒に、畑でも作ったら良いではありませんか」

「えぇ? 」

「なんですの?」

「い、いやだって、イザリア様は平民と結婚するなんて、ありえないと言うと思って……」

さぞかし驚いたようにリンとテリナがイザリアを呆けた顔で見ると、イザリアはすました顔で言った。

「別に、結婚する理由なんて何でも宜しいでしょう。それこそ身分や見た目で選んだとしても、それもその人の魅力なわけですし。中身なんて後から知っていけば良いだけのこと。時間をかけないと、相手のことなんてよく分かりませんしね」

イザリアはそう言うと、ジャグジーから身体を上げた。

「イザリア様? もう出るのですか? 」

ヨナが立ち上がったイザリアを見て言うと、「少しのぼせましたわ」と言ってお風呂から出ていった。

「……私達も」

「でましょうか」

続いて、リンとテリナもジャグジーから上がっていく。

残ったのはヨナとミア、そしてヤナギだけとなった。

騒がしかった浴室が、一気に静かになる。

夜景を眺めながら堪能している様子のヨナは、まだ上がる気がないらしい。

ヤナギも何となく夜景を見ると、隣でミアが口を開いた。

「……ああいうところなんです」

その顔は、どこか苦しそうに見えた。

「平民であろうが王子であろうが、差別なんてしない。私と違って、ライバルが現れたら自分がもっと良くなれば良いだけ、そう考える人ですから」

「……ミア様は、違うのですか? 」

すると、ミアは困った顔で曖昧に笑った。

「私は、ライバルがいたらその子を落として、自分を優位に立たせる人間ですから。……だから、お姉様は嫌い。そして、あの子も……。自分が酷く、惨めになる……」

あの子、というのが誰のことを示すのか、ヤナギは何となく分かった。

今日も多分、家に手紙が届いていることだろう。

「時々、眩しく見える。……自分が嫌になってしまうほどに」

その笑みはどこか自嘲気味だった。

ミアはため息を吐いて、「私ももう上がりますね」と言ってジャグジーを出た。

まるで、嫌な自分から逃げるように……。

「私もそろそろ出ますわ」

すると、ミアの動きに合わせるようにもう1人ざばりと音を立てて立ち上がった。

始終ふわりとした笑みだったヨナが、ヤナギと2人きりになった途端笑みを消す。

早い動きでジャグジーを出ると、ペタペタと足音を響かせながら浴室を出た。

1人でいるわけにもいかないので、ヤナギも立ち上がって扉へと向かう。

浴室を出て着替えのパジャマを探すと、それらしいものがカゴに置かれていた。

急なお泊まりだったため、パジャマはイザリアから借してもらうことになっている。

カゴの中から1着の紫色のワンピース型になっているパジャマを手に取り着てみると、サイズは少しだけ大きかった。

「行きましょう、ヤナギ様」

振り返ると、そこには赤色のパジャマを来たミアが立っていた。

部屋まで案内してくれるらしく、ヤナギの手を優しく握った。

その横顔は、先程の苦しそうな顔なんて微塵も感じさせないほど、いつも通りだった。

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