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「……トロ、……アルストロ、……メリア・アルストロ! 」
「ふぁ、ふぁいぃ!? 」
目の前で聞こえる大きな声で反射的にガバッと身を起こすと、まだぼやけている視界の中でも先生の怒っている顔は何故かハッキリと映った。
寝ているところを起こされたため欠伸を「ふあぁ」と漏らしてしまうと、先生の顔はますます厳しいものになった。
その視線に気がついて慌ててピシッと背筋を伸ばす。
「メリア・アルストロ。貴方は今、何をしていましたか? 」
「……寝ていました」
「何故、寝ていたのですか? 」
「今日は日差しがポカポカしてて暖かくて……。気づいたら寝ちゃってました……」
先生が「はぁ……」とため息を吐く。もはや怒りを通り越して呆れているようだった。
「メリア・アルストロ。貴方は、この学園に何をしに来ているのですか? 」
「……勉強ですね」
「ならもっとしっかりしなさい。罰として、貴方には多めに課題を出します」
「え……そんな……」
授業が終わったら文化祭の準備を手伝わなくてはいけないから、課題をしている暇なんて正直ない。
そう言おうとしたが、先生の目がキリリと鋭く光った。
「何か? 」
「い、いえっ! 何でもありません! 」
そう睨みつけられてしまったら、何もいうことはできない。
メリアは席に座り直してゆっくりと教科書のページを進んでいるところまで捲った。
「見ました? また怒られて……」
「みっともない。あんな平民がこんな素晴らしい学園にいるなんて、場違いにも程があるわね」
「本当。身分というものを弁えたらどうなのかしら」
クスクスクスと、笑いながら聞こえてくるそれに、いつもの様にメリアは耐える。
「全く。先生方の手を煩わせてばかりで……。早くいなくなればいいのに」
「そうよ。見ているだけで不快よね」
カリカリカリと、気づかないフリをしてペンを動かす。
授業では寝てしまうことが多くて、それが見つかって先生に注意されて、周りから笑われる。
これが、メリアの日常。
「見てあの子。今日は食堂にいるわよ」
「あら本当。1人であんな大きな席に座って。可哀想ね」
食堂で、空いている席がなくて仕方なく大きな席に座ったら、そんな声が聞こえた。
今日こそは、頑張って食堂に行ってみようと思ったのに……。
ガタンと席を立って食堂から出る。
寮に戻って予め用意しておいたサンドイッチを持って、いつも座っている中庭のベンチに腰掛ける。
これが、メリアの日常。
「それじゃあ、俺は生徒会室の方に行くから」
「はい。さようなら、アイビー様」
アイビーに手を振って別れると、刺すような目が向けられた。
「またアイビー様と一緒にいたわよ」
「アイビー様も大変よね。あんな子の面倒を見て」
「アイビー様はお優しいから、きっと無理をしてらっしゃるんだわ」
「いつもいつもアイビー様に甘えて……。調子にのってるんじゃないわよ」
これが、メリアの日常。
「いい加減にしなさいよ! 」
怒鳴られて、突き飛ばされた。
眉を寄せて、燃えるような瞳でメリアを睨みつけてくる。
「早く消えてくださらない!? 目障りなんですの! 」
「貴方、自分の立場を分かってらっしゃるのかしら!? 」
「可愛くもないくせに、アイビー様やカルミア様と一緒にいて……! 何様のおつもり!? 」
「そんな、私は……きゃっ! 」
ガっと高いヒールでメリアの服を踏みつける。
メリアが何か言うことを許さないとばかりに、彼女達はメリアを痛めつけた。
これが、メリアの日常。
授業中、先生に当てられて前に行ったら笑われる。
歩いていたら、わざと肩を当てられる。
休み時間は、いつも1人。
何もしていないのに、ただ普通にしているだけなのに、笑い声が聞こえて嫌な目で見られる。
これが、メリアの日常。
「あなた、平民だからって調子にのってるんじゃないわよ」
それは、いつも言われている台詞で、だけどいつもとは違うように聞こえた。
驚く程の無表情と、驚く程の棒読みで。
嫌だなと感じるより早く、頭に? マークが浮かんだ。
「あなたの薔薇よりも、私の薔薇の方がとても美しいわよ」
また、台詞こそ嫌らしい棒読みで彼女は言った。
それも、嫌だとは感じない。
「うぅ……。何で上手くできないんだろう……」
手に持ったしわしわの布を見てヘコんでいると、彼女はメリアの隣に座った。
「ここは、1度折り返して縫った方が良いです。そうです。そうやって……」
彼女は、そう丁寧に教えてくれた。
他の人達と同じくメリアを虐めている彼女は、この学園に来て唯一、メリアと話せる女の子だ。
指を重ねて、メリアの造花作りを手伝う。
虐められているのに、こうして助けてくれる。
どんな関係かと聞かれたら、説明するのは難しい。
友達でもないだろうし、虐められているとはいえ別に嫌な感じもしないので、悪いような関係でもない。
だが、メリアは彼女といるととても楽しい。
それだけは事実だ。
「あ! できましたよ、ハラン様! 」
綺麗にできた薔薇を彼女に見せると、「良かったですね」と言ってくれる。
美しく咲いた薔薇は、今まで作ってきた中で1番の出来を誇っていた。




