表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第六章 縁の下の力持ち
46/415

8

昼休み。1人で食堂に向かっていたカルミアを捕まえて生徒会室まで連行したシードは、暫く何も言わないまま沈黙していた。

カルミアも、急に連れてこられて何も言わないシードに、文句1つ言わずただ黙っている。

そのまま1分ほどが経過したころ、シードは意を決して口を開いた。

言うべきことを、言うために。

「こ、これ……」

ぐいっと押し出すようにそれを渡すと、カルミアは驚いたように目を丸くした。

「この大量の薔薇の造花……。もしかして……」

「この前、駄目にしちゃったから……その、謝罪の気持ちを込めて……。なんかその……ごめん」

薔薇の入った箱を受け取ったのを確認して、シードは小さな声で謝った。

本当に小さな声でボソリと言っただけだったし、目だって合わせていない。

「そうか……。これ、俺のための物だったんだな。ありがとう。俺の方こそ、何か、すまなかったな」

でも、想いは伝わったらしい。

無愛想に謝ったシードを怒ることなく、カルミアは受け入れてくれた。

「えーと……。そ、それで!? 読書発表会は、どうだったんですか? 楽しかったですか? 」

話題を変えたくて先日行われた読書発表会の話に移すと、カルミアは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに「ああ」と穏やかに笑った。

「思ったより楽しかったな。ほぼヤナギのおかげで成功したようなものだが、それでも参加して良かったと思う。感想も、貰ったりしたしな」

「それは、良かったですね……」

本当に嬉しそうに話すカルミアを見て、自然とシードも穏やかな顔つきになってくる。

いつも真面目な表情しか見たことがなかったから、こういう表情は珍しい。

「俺の発表を、楽しんで聞いてくれた人がいてな……。その人達が、感想を手紙でくれたりしたんだ」

「へー。なんて書いてあったんですか? 」

「ああ。読書発表会がとても素晴らしいもので、花にとても詳しくなれたと。今度、その知識を活かしてお花でも育ててみようと思います、と書いてあったな。あ、あと、植物図鑑もぜひ借りてみる、とのことだ」

「……あ。それって……」

「これって、俺の発表を楽しんで聞いてくれたってことだよな!? 」

「……え? 」

それは自分が書いたものだ。そう言おうとしていた口が止まり、代わりに未だかつて見たことのないカルミアの輝いた顔に、若干引き攣った顔になった。

「俺の発表を最初から真剣に聞いてくれていて、尚且つ花まで育ててみようと思ってくれている……。それだけのことなのに、こんなに嬉しいんだな! 」

「あ、えーと……。そうですね、はい……」

勿論だが、シードはカルミアの発表を真剣に聞いてなどいない。後半なんて欠伸していたくらいだ。

花だって、気が向けば育てようとは思うが……。いや、「気が向けば」なんて「やらない」とほぼ同義語だ。

「他にもいろいろ感想は貰ったが、花まで育ててみると言ってくれた人はこの人しかいなかったな! 」

「……」

「ぜひこの人にお礼を言いたいのだが、生憎名前が書いてなくってな……ってあれ? シード? 」

いたたまれなくなったシードは、その場から静かに消え去っていた。

気づかれないように生徒会室の扉をパタンと閉め、足音を立てないように素早く退散する。

「あいつ、どこに行ったんだ……? 」

生徒会室に、カルミアの声だけが響いた。



何処かに行く目的もなかったため、ブラブラ学園内をさ迷っていると中庭の噴水前に設置されているベンチに、1人の女性が座っているのが見えた。

せっかくなら女の子と遊ぼうと思いシードがそちらへ行くと、そこにいたのはヤナギだった。

サアッと涼しい風が吹いて、草木を小さく揺らす。

それと同じく、ヤナギの髪も風で靡いた。

「何してるんですか? 」

そう声をかけてみて初めて、シードは自分が今した行いに気づき、驚いた。

少し前の自分なら、相手がヤナギだと分かっていれば何があろうとも声なんてかけようとしなかっただろうに。

これも、文化祭の準備を通してヤナギのことをよく知ったからだろうか。

ヤナギはシードの方を振り向いて、手にしていた小さい紙を見せてきた。

「先日の、読書発表会の感想用紙です。私のところにも何枚か届いていまして、今読んでいるところです」

そこには「ハラン様の話にすっかり惹き込まれてしまいました! 」や「黒猫と魔法使い、借りてみます! 」といった内容が書かれていた。

「これらを読んでいると、何だか胸が……こう、温かくなるのです」

不思議そうに言ったヤナギは、胸に手を当てて小首を傾げていた。

その様子がおかしくて、シードは少しふふっと笑ってしまう。

「それは、嬉しいからじゃないんですか? 」

「嬉しい? 」

またも不思議そうなヤナギは、オウム返しにそう言った。

「そ。自分の発表を、面白い、楽しいって言ってくれる人がいる。それが、嬉しいんですよ。ハラン様は」

ヤナギは感想用紙に視線を移し、「嬉しい……」とまた呟いた。

立っているのも何なので、シードもベンチに腰掛ける。

2人して感想用紙を見ていると、あることを思い出した。

それは、言わなくてはいけない言葉。

「ハラン様、ありがとうございます」

「? 私、何かいたしましたか? 」

「しましたよ。カルミア様に渡す造花、作るの手伝ってくれたじゃないですか」

最後までシードに付き合ってくれたあの日のことを思い出して、また胸が熱くなっていく。

「想い、伝わりましたか? 」

シードは、青い空を見上げた。

今日は雲ひとつない快晴だ。

「はい。届きましたよ、無事」

「良かったですね」

「はい」

いろいろあったが、謝ることもできた。

カルミアとも少しだが、分かり合えたような気がした。

「僕、人から注目されたかったんです」

青い空を見ながらポツリ、シードは口にする。

「僕男爵家の人間だから、周りから馬鹿にされることが多くて……。だから、少しでもいろんな人から認めて貰いたかったんです。この文化祭委員を希望した動機だって、そうでした。僕が頑張れば、皆僕を褒めてくれる。僕はただ、注目されたかったんです」

だからあの時、手柄を横取りされた時、シードは怒ったのだろう。

自分が頑張ったのに、ガルマ達が注目されている。

本当は、あの場所にいるのは、シードのはずだったのに。

必死に弁明しようと抗ったが、そうすればするほど周りの人達はシードに冷めた目を向けてきた。

『注目されたいからって、そんなこと言ってんじゃねぇよ』

その時言われた1人の言葉が、脳裏に焼き付いている。

思い出してまた、シードは唇を噛んだ。

「注目されたいから手伝っている、なんて嫌がられて当然ですよね……」

もし、あの時ガルマ達の動向に何も言わないまま、シードはシードでもう一度頑張っていれば、状況は変わっていただろう。

シードが我慢していれば、あんな冷たい目を向けられなくてすんだのかもしれない。

あの時言い合いをしてしまった自分を思い返して、子供っぽいなと思ってしまった。

「そういう意味では、ハラン様の言った汚らわしいも、僕には似合ってる言葉なのかも……」

「私が? 」

「言ったじゃないですか。入学したての頃。男爵家で汚らわしいって」

そう言ってまた、しまったと思った。

あんな前のことを蒸し返して本人に当たるなんて、自分はまた何をしているのだろう。

「ま! 反省して次に活かすとしますか! 後ろ向いたままじゃ、駄目ですもんね! 注目されたいなんて邪な考え捨てて、もっと本気で皆のために頑張りますよ! 」

話題を逸らして明るくそう言ってみる。

「あはは」と笑ってみると、自然と大丈夫になれるような気がした。

だが、ヤナギからの反応はない。

怒ってしまったかと焦ったが、目を合わせることもできずに青空を見上げたままになってしまった。

そうして数秒程経過した頃、ヤナギがポツリと呟いた。

「……注目されたいと思うのは、悪いことなのでしょうか? 」

「……は? 」

思いがけない言葉に、素っ頓狂な声を出してしまう。

「い、いや。注目されたいからやってる奴なんて、見てて腹立つでしょ、普通。 誰がそんな奴……」

「ですが、注目されたいと、自分を見て欲しいと思う心理は、誰でも持っています」

「え、そうなんですか……? 」

「と、この間読んだ本に書いてありました」

「本かぁ……」

誰もが持っている、なんて信じられない。

アイビーやブレイブは、皆のために王子の仕事をしたり騎士として人々を守ったりしている。

セルフは騎士が好きだと聞くから、その一心で剣を振っているのだろうし、カルミアが勉強で1位をとるのは次期宰相として、自分のためにやっていることだ。

メリアなんて、見返りを求めずに誰にでも優しさを振りまいている。

誰一人、人から注目されたいからやっているなんて思っていない。

皆、誰かのために、あるいは自分自身のために精一杯努力しているのだ。

シードとは違って。

「僕は、誰かに見て欲しい……」

誰かに見てもらって、凄いと言ってもらって、認めてほしい。

おまえは役に立つ、いてほしい、そう言って貰いたい。

だが、そんな本音は悪だと、黒いものだと言われてしまうだろうか。

「シード様は、とても頑張って造花を製作していました。皆さんが帰られた後も、残っていました。私は知っています」

「ハラン様……」

だが、想像とは裏腹に、言われた言葉は随分違うものだった。

「注目されたいと思うのが駄目なことだとしても、シード様がその為に頑張っていることは事実です。想いはどうであれ、文化祭のために、人のために貢献しています。それでは、いけないのでしょうか? 」

「……貢献、してる……」

「シード様は、影で頑張っておられました」

「で、でも僕、造花作るの下手だし……」

「ですが、作る分の布をハサミで切ったり、できることはしていたと思います。皆さんのことを支えていたと思います」

「支えてた……? 僕が? 」

「私は、シード様を見ていました」

その言葉にハッとして、目を大きく見開く。

頑張っていたと、認めてくれた人がいる。

注目されたいと思うことが、悪いのはことではないと教えてくれた。

「……申し訳ありません」

「え? 」

「男爵家だから汚らわしいと言ったこと……。嫌だったのなら、もし、傷ついてしまったのでしたら、謝ります」

その瞬間、ヤナギは、シードを見てくれていることを肌で感じた。

こんなふうに謝ってもらえたのは、初めてだったから。

「……いいですよ、別に。それと、ありがとうございます。ヤナギ様のおかげで僕、何だか吹っ切れました」

ヤナギのことを、勘違いしていた。

我儘で派手な令嬢なんかじゃない。

まっすぐで純粋で、綺麗で。

シードのことを肯定してくれる人間。

文化祭委員になって、分かったことが3つある。

1つは、ヤナギが思っていたイメージと随分違っていたこと。

そしてもう1つは、皆ヤナギといる時は楽しそうだということだ。

最後の1つは、皆がヤナギを好いていること。

何故、皆ヤナギのことが好きなのか。

その理由が今、分かった気がした。

「ありがとうございます! ヤナギ様! 」

広い広い青空の下、シードはもう一度、お礼を言った。




「こんにちはー……って、ヤナギ様は? 」

生徒会室の扉を開けると、目的の人物はいなかった。

造花でも作りながら一緒にお話しようと思ったのに。

「ちょっと待てシード。いつからヤナギのことを名前呼びに……」

「ヤナギなら図書室に行くって言ってたぞ。あと、カルミア様も」

ブレイブの言葉を遮る形でアイビーが居場所を教えてくれる。

「そうですか。じゃあ僕もちょっと行ってきますねー」

軽く手を振って、生徒会室を出た。


図書室なんて初めて行くが、普段学園を散歩しているおかげで場所は知っていた。

図書室の扉を開けて中に入ると、沢山の生徒がいた。

場所が場所なので話し声などはあまり聞こえないが、それでも各々楽しそうに本を選んでいる様子。

シードは特に本を見るでもなく、棚を一つ一つ確認していった。

本棚にはいないらしい。

読書スペースへと移動すると、ヤナギはいた。

静かに本を読んでいて、隣にはカルミアも一緒だ。

まっすぐ歩いて近づき、2人の間に顔をニュっと入れる。

「あ! ヤナギ様とカルミア様じゃないですか〜! 何の本読んでるんですか? あ! 僕もここ座っていいですか? 」

シードが指さしたのは、丁度今カルミアが座っているところだった。

「はぁ? おまえ、そこは今俺が……」

「良いじゃないですか〜。僕ヤナギ様の隣がいいんです。カルミア様はちょっとズレてください」

「隣が良いのなら、もう1つ空いているだろう。ヤナギの左隣が……」

「いや〜カルミア様とヤナギ様に挟まれたい気分かなって」

「どんな気分だそれは」

「あの、図書室ではお静かに……」

そのままカルミアとシードは、司書に鋭く睨まれるまでわぁわぁと口論を続けていた。

「じゃ、僕はここで〜」

「あ、おい! 」

無理やりカルミアを押しのけてヤナギの隣に座り、ニコリと笑顔を向けた。

それにヤナギはいつもの無表情で、けどどこか不思議そうな顔をして首をこてんと傾げた。

それが可愛くて、クスクスと笑ってしまう。

シードを肯定してくれる人。

沢山の人に注目されたいと思っていたのに、今ではヤナギさえ見ていてくれればそれで良い。

「そういえば、生徒会室に行かなくてはいけませんね……。借りるだけのつもりだったのに、気がつけば読書スペースにいました」

「そういえば俺も……。いつもの足取りで、つい来てしまったな」

「まぁまぁ良いじゃないですか〜。メリアちゃん以外の人達なんて、しょっちゅう遅れてきますし。メリアちゃんも今日はゴマに餌あげてから来るって言ってましたし。もう少しだけいましょうよ! ね? ヤナギ様」

「……そういえばおまえ、いつから名前呼びになった? 」

「んー? いつからでしたっけー? 」

惚けて言って見せると、カルミアの眉間に皺が寄った。

散々女の子と遊んできたシードだから、このくらいわかる。

カルミアも、そしてこの場にいないブレイブもヤナギのことが好きなのだろう。

それは勿論、友達とかそういう意味じゃない方の好き。

そしてシードも、今の自分の気持ちくらい分かる。

「まさかとは思ったけど……」

「? 何か仰いましたか? 」

「んーん。何でも」

本からこちらを覗くようにして伺うその仕草に、ドキリと胸が鳴った。


この少女のことを、たまらなく愛しく思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ