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「あ〜せっかく授業終わったのに、造花作りなんて嫌だ〜女の子と遊びたい〜」
言いながらチラリと窓の外を覗き見ると、遠くの方で男女が仲良さげに歩いているのが見えた。
何となしに見ていると、急に男性が女性を抱き寄せ顔を近づけていく。
「あ! 今キスしましたよあの二人! うわ、しかも結構長めの! 絶対あれ濃厚な方の……」
「ほら、喋ってないで手を動かせ」
そう言ってシードの頭をガッと掴み元いた位置、造花の前へと戻す水色の長い髪の青年。
シードは彼を恨めしそうに見ながらも、造花へと再度手を伸ばした。
「ブレイブ様はあれですよね。騎士にしか興味ないから結婚できなさそうですよね」
「それなら俺だけじゃないぞ。セルフだって、なかなかの剣馬鹿だからな。なあ? 」
「……何かいったか? ブレイブ」
どうやら造花作りに集中力していて話を聞いていなかったらしいセルフは、造花から顔を上げてこちらを怪訝そうに見てきた。
ブレイブがそれに「いや、何でもない」と答えると、「はあ? 気になるだろ。教えろよ」とセルフがブレイブの肩を揺すった。
何故、こんなところにブレイブとセルフがいるのか。
「サリファナ王国騎士団から派遣されてきた、ブレイブ・ダリアだ」
「その養成所から派遣されてきました、セルフ・ネメシアです。よろしくお願いしまーす」
そう言っていきなり生徒会室に乱入してきたのは、騎士団と養成所から文化祭の手伝いに来てくれた男子2名だった。
その内の1名でも女の子が混じっていたのであればシードの心も浮き足立ったのだが……。
「あ、ブレイブ様とセルフ様! 2人とも、どうしたんですか? 」
メリアは2人を知っているらしくそう声をかける。
「手伝いに来たんだ。造花、作ってるんだろ? 」
「確かに作ってますけど……。何でわざわざ造花の方に来たんですか? もっと他にもいろいろ……」
「ジャンケンで負けたから」
「右に同じく」
ブレイブの言葉にセルフが頷くと、メリアは苦笑いを浮かべた。
「2人もですか……実は、私もジャンケンで負けてしまって……」
1年の仕事は主に2つ。
1つはこの造花作り、そしてもう1つは書類等の整理、管理だ。
造花作りは量が多いため人数も多い方が良い。
そのため1年生10人中6名は造花の方へ行かなければならない。
そうなると、書類整理の枠は4人しかない。
地味で時間のかかる造花よりも、書類整理の方がはるかにマシだ。
誰が行くかでちょっとした口論になった結果、ジャンケンで決めることになった。
すると無事にメリアとシード、ヤナギは負け、造花作りの方にいくこととなったのだった。
「俺たちの所も、似たようなものだ。ジャンケンで勝った奴から順番に、好きなところに手伝いに行けるんだがな……俺は負けっぱなしになってしまって……」
「養成所も似たようなもんだよ。くじ引きだったし」
「え、2人とも運悪……」
「「おまえもだろ」」
そう言って盛り上がるメリアとその他2名を脇目に黙々と造花を作っていると、ブレイブが視線を寄越してきた。
「えーと……君、名前は? 」
それに若干不貞腐れ気味に顔を向け、挨拶をしておく。
「……1年の、シード・スカシユリです。よろしくお願いしまーす」
「? なんでそんな不貞腐れてるんだ」
「だって、せっかくこんな地味な作業を手伝ってくれる人が来るっていうからどんな人かとわくわくしてたのに、男2人って……。女の子が良かったー。女の子ー! 女の子が良いー! 」
「おい、なんだこいつは」
「あ……こういう人なんです」
困ったように笑うメリアにかまわず、シードは「女の子ー……」と声を上げた。
というのが、今からおよそ20分程前のことだ。
思い出して「はぁ」とため息を吐くと、生徒会室の扉がキィと開いて誰かが入ってきた。
「はっ! もしかして女の子……」
「俺の方でやることは終わったから、こっち手伝いに来たぞー」
「お、男……」
赤い髪を揺らしながら入ってきたアイビーを見てガックリと項垂れる。
「どうしたシード。不満そうな顔して」
「別に……。ていうか、仕事早すぎじゃないですか? 」
「ああ。俺は人手が足りないところに行って回ってるだけだからな。各担当の仕事を所々手伝ってて、今さっき2年生の方に行っていたところだ」
2年生は確か、書類の作成だっただろうか。
アイビーはソファに腰を下ろし、机の上に散らばっている薔薇の造花に手を伸ばした。
「へぇ、なかなか綺麗な物だな」
「それ、ハラン様が作ったんです」
メリアが言いながらヤナギの方に視線を移すと、ヤナギは軽く頭を下げて再び造花に目をやった。
先程から、えらい集中力である。
ヤナギは作るのが1番早く、しかも1番綺麗に作るので造花作りにはかかせない戦力となっていた。
「できました! 」
と、そう声を上げたのはメリアだ。
手にはヤナギが作った物と同じ、赤い薔薇が握られている。
「あ? 何だこれ」
セルフが険しい顔つきでメリアに問うと、メリアは自慢気に「えっへん」と薔薇を高々とかかげた。
「薔薇です! どこからどう見ても! 」
「いや、どこからどう見てもなんかクシャクシャに丸まった紙ゴミにしか見えんぞ」
セルフの言う通り、メリアの言う薔薇はヤナギのように綺麗な物ではなかった。
花びらの先端部分は丸まっていたり角が立っていたりとバラバラで、布を縫い合わせた時の糸目は丸見え。
確かに、薔薇とは言い難い代物。
「大丈夫だよメリアちゃん! 俺はちゃんと薔薇ってわかったから! 」
「シード様……! ほら! わかる人にはわかるんです! 」
「いや、それじゃ駄目だろ。誰が見ても薔薇って分からないと……」
「……じ、じゃあ! セルフ様が作ってみてくださいよ! 結構難しいんですよ、薔薇って! さっきからブレイブ様の作る花の布を切ってるだけじゃないですか! 」
「まぁ、なら作るけど……」
そう言ってセルフは黄色い布を取り出して作り始める。
すると、5分もかからない間にセルフは黄色い薔薇を1本仕上げていた。
手のひらサイズの小さい物だが、その見た目は美しくどこからどう見ても薔薇だった。
それを見たメリアが驚愕に目を見開く。
「酷いっ! 裏切り者! 」
「はぁ!? 俺がいつ裏切ったっていうんだよ!? 」
「だ、だってだって、セルフ様って、いかにも不器用って感じじゃないですか! 多分私だけじゃなくて皆思ってましたよ! 」
「あぁ!? なんで俺が不器用みたいになんだよ!? それに、こんなの誰でもできるっての。ブレイブだってできてるし、アイビー様もできますよね? ……アイビー様? 」
皆の視線がアイビーへと注がれるなか、アイビーは静かに視線を関係のない窓の方へと向けた。
机の上には、セルフが作っている間に挑戦しようとしたのであろう白い薔薇……のような、メリアの物とさほど出来が変わらない物が1つ。
「……裁縫って、難しいよな」
「アイビー様!? 」
アイビーは不器用らしい。
そのことに若干意外だなと思いながらシードも自身の手にしている造花を見た。
作っているのは、白い百合。
メリアとアイビー程ではないが、綺麗と言われる程の出来でもなかった。
作り直そうと糸を解いていると、メリアの隣で作業していたヤナギがふいに席を立った。
「あれ? ハラン様、どこか行くんですか? 」
それに気がついたメリアがヤナギに声をかけると、ヤナギは頷いて最後に作り終わった青い薔薇を机に置いた。
「はい。少し、図書室の方に。すぐ戻ってきますので」
「あ、読書発表会、来週ですもんね」
「はい。最終打ち合わせがあると、先生からの呼び出しで……。申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。気にしないで、行ってきてください」
「はい。それでは……」
「そういえば、読書発表会にはカルミア様もでるんだよな……」
「え、カルミア様も? 本当ですか? アイビー様」
「ああ。よく図書室に行ってるのを見かけるからな。どんな発表をするのか、結構楽しみにしてるんだ」
「そうなんですか……。あの、ハラン様」
図書室に行こうとしたヤナギを、メリアが呼び止める。
「何でしょうか? 」
「読書発表会って、カルミアも出るんですよね? 」
「はい」
「なら――」
「なんで俺がこんなことをしなくてはいけないんだ」
暫くして、ヤナギと共にやってきたカルミアはぶつくさ文句を言いながらも手早く、そして綺麗に次々と花を完成させていった。
「いやぁー、手伝いに来てくれて助かりました! カルミア様! この調子じゃ、終わりそうになくって」
「まさかメリアまでいるとは……」
「で? こいつは誰なんだよ」
セルフがカルミアに指を指して言うと、カルミアはムッとしたようにセルフを見た。
「知らないか? 成績学年トップの、カルミア・ロジックだ」
「あれ? でもこの前の期末テストでは、ハラン様が1位だったような……」
「……成績2位の、カルミア・ロジックだ」
メリアの一言ですぐに言い直したカルミアだが、セルフはピンときていない様子で首を傾げた。
「悪いが、俺騎士の養成所の方行ってるから、そっちのことはわからないんだ。因みに俺はセルフ・ネメシア。よろしくな」
「セルフ? どこかで聞いたような……」
「この間私が紹介した、騎士の入団試験に落ちた人です」
「ああ。入団試験に落ちた奴か」
「落ちた落ちた言うな! 後、どんな紹介してんだ! 」
ヤナギとカルミアのやり取りに、セルフの手にしていた薔薇の造花がクシャッと音を立てる。
せっかく綺麗にできた物だったのに、勿体ない。
「セルフ様、それ作り直してくださいね」
シードが言うと、セルフは手元のくしゃくしゃになった薔薇を見て「おまえらのせいで……」と言いながら新しい物を作り始めた。
「できました! 」
すると、メリアがまた声を上げて何やらピンクの花を手にしていた。
「何だこれは」
「ピンクの薔薇です! 」
「見えねぇ……」
セルフが目を細めてコスモスを見るが、それもコスモスとは言い難い代物となっていた。
「できました」
同じく、ヤナギもピンクの薔薇を机に置く。
「おお。こっちはちゃんと薔薇だな」
「なっ……! ど、どうしよう。このままじゃ負けちゃう……」
「負ける? 」
「うぅ……。今ハラン様とどっちが多く造花を作れるのか勝負してるんです」
「ふーん。残念だったな、メリア」
「ちょっ、まだ負けって確定してませんから! 」
「いや、もう確定してるだろ」
ヤナギが勝負を仕掛けてきたのは昨日のことだ。
棒読みでライバルキャラのような台詞を口にしたヤナギをポカンとした顔で見るシードの隣で、自信あり気に「はい! 負けませんからね! 」とメリアは答えていた。
ヤナギの一方的な勝負仕掛けにメリアが嫌がる様子を見せるのなら、シードが間に入って止めようと思っていたのだが、何やらやる気を見せるメリアにシードはまた驚く羽目になった。
「負けませんわ」
「お! やる気ですね? 私も負けませんから! 」
棒読みで負けない宣言をするヤナギとそれに笑顔で答えるメリア。
もう、何がなんだかわからなかった。
ボロボロの薔薇を両手に「うぅ……」と呻くメリアを横に見ながら、シードはため息を吐いた。
「どうしたんだ? ため息なんか吐いて」
アイビーが薔薇を作りながらシードの隣に来ると、ブレイブも赤色の布を取りながらシードの顔を伺った。
さすが王子と騎士団団長。周りをよく見ている。
「いえ。ただ、ハラン様とメリアの関係? みたいなのがよく分からなくて……。メリアはてっきりハラン様みたいな高貴族は苦手かと思ってたのに、何か仲良さげにしてるし……。ハラン様もハラン様で、思ってた人と随分違うっていうか……その、よく分からなくて……。今回の勝負仕掛ける時だって、ハラン様、なんかすごい棒読みだったし……」
そう言うと、アイビーとブレイブは顔を見合わせた後、シードの肩に手を置いて、2人同時にこう言った。
「「大丈夫だ。誰もが通る道だから」」
「え、なんですかその笑顔。なんか気持ち悪いんですけど」
にっこりと笑うアイビーとブレイブから顔を背けながら、シードは造花作りを再開した。




