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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第四章 セルフ・ネメシア
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7

「これより、最終試験に移行する! 」

教官が声を張り上げて言うと、残った10名の試験生は審査員に見えるように一歩前に進みでて、順番に名前を呼ばれる。

「ジャン・ルミス! 」

「はい! 」

次々と名前が呼ばれていくなか、セルフは一人ぼーっとそれらを聞いていた。

「セルフ・ネメシア! ……セルフ・ネメシア! 」

「あ、はい! 」

呼ばれていたことに気づき慌てて返事をすると、教官や審査員達に軽く睨まれる。

これでイメージが悪くなってしまったかとセルフは心配したが、反省は後だ。

今は、目の前の試験に集中しなけれぱいけない。

四次試験の内容は、ずばり決闘。

一対一で行って、相手を戦闘不能に陥らせた方の勝利となる。

戦闘不能に陥らせる状況は多数あるが、最も多い方法は相手の木刀を奪ってしまうことだ。

そうなってしまえば、相手はまず戦うことができないのだから、無理矢理という形ではあるが戦闘不能状態にならない他ない。

ブレイブも確か、この方法を使って去年の入団試験は突破していたはずだ。

だが、この決闘、負けてしまっても入団試験に不合格になってしまう、というわけでもない。

というのも、騎士団に入るにはそれ相応の体力や、勝ち抜くための戦法を考える知力が必要とされる。

この決闘では、勝ち負けなんて正直あまり関係はない。

審査員に、自分の強さをどれだけアピールできるかが問題なのである。

例え相手から木刀を奪われてしまったとしても、木刀を奪われるまでの過程で自分が圧倒的に相手を押していたりすれば、強さを見込まれて合格できる。

元々この試験は何十人中何人が合格できるとかいうものではなく、見込みがあればある数だけ合格することが可能なのだ。

もちろん、この試験で10人中10人が合格することだってあるし、10人全員が落ちることだってある。

それほど騎士団という存在は、強く誇り高い場所ということだろう。

「まさか、俺とセルフが残れるなんてよぉ〜。この歳で騎士団に入れるなんて、かっこよすぎるよな」

ジャンが緊張したようにセルフにそう言う。

その手はガクガクと震えており、今にも木刀を落としてしまいそうだ。

「……前の練習中では、この歳合格なんてできるわけないとか言ってたくせに」

「あん時は本当にそう思ってたんだけどよ……。俺だって、騎士団に入りたくて一生懸命練習してたからよ、ここまで来たら、後はもう合格してやろうぜ! 」

ジャンの力強い言葉に深く頷き、セルフは大きく深呼吸をする。

深く息を吸って、吐く。

それを何度か繰り返していると、早速一試合目が行われた。

「うわ。あの人確か去年もいたよな? あん時は落ちて、今年こそはって意気込んでたような……」

「あっちはテストの成績トップの奴だよな? すご……。勉強だけじゃなくて、剣の腕まで……」

「まぁ、騎士目指してっからな。当然っちゃあ当然だけど……」

先輩方の試合に見入っていると、ついに自分の番が来た。

「セルフ・ネメシアVSミヤマ・コニー! 」

ミヤマ、と呼ばれた男性は、大柄な身体にしっかりと筋肉のついた屈強な見た目で、持っている木刀が小さく見える。

互いに木刀を構え、合図を待つ。

「3、2、1……始め! 」

合図と同時に、ミヤマはセルフに向かって全力疾走を決めてきた。

あまりにも速かったため反応が一瞬遅れてしまい、ドンッと身体が後方に飛ばされてしまう。

セルフは瞬時に体制を立て直し、自身もミヤマに突撃するべく木刀を持って走り出す。

狙うのは脇腹だ。

木刀のため当てても血が出たりすることはないが、痛いのに変わりはない。

あの筋肉だらけの脇腹に当てたところでダメージになるかは甚だ疑問だが、とりあえずどこかには当てておかないとこちらとしても勝機が見えてこない。

勝つには、まず相手の情報が必要だ。

特にこういう相手の場合、弱点を知る必要がある。

セルフは若干身体を斜めに傾けて走り、ミヤマの脇腹に木刀を押し当てるようにして突いた。

「うっ……! 」

どうやらビンゴだったらしく、ミヤマは脇腹を手で抑えながら悶える様子を見せた。

感触としては硬かったが十分効果があったことが分かり、セルフは続けて2発、3発とさっきとは反対の右脇腹と左脚に突撃した。

左脚にはあまり効果がないのか痛がる様子は見せなかったが、右脇腹は左の時と同様、苦痛な表情を浮かべている。

「てめっ……よくも……! 」

さすがに負けてはいられないとミヤマも身体を何とか奮い立たせ、セルフに向けて木刀を振るも、ミヤマと違い身体の小さいセルフは難なくそれを避ける。

すると、勢いをつけすぎたミヤマは避けられたことによってバランスが崩れ、前に倒れてしまったところを、瞬時にセルフはミヤマの木刀を奪った。

「勝者、セルフ・ネメシア! 」

「そ、そんなぁ……」

戦闘不能状態となったミヤマが悔しそうに地面を叩く。

セルフは勝利した木刀を見た。

すると、木刀は硬い筋肉を思いっきり突いたせいか、若干剣先が折れかかっていた。

「あいつ、どんだけ硬いんだよ……」

一言漏らして剣先を触ってみると、すっかりボロボロになってしまっていた。

これは、後で修理が必要だ。

この木刀も、前から使っていた物なのでそう簡単に捨てたくはない。

とりあえず別の木刀で残りの試合に挑むべくその場を立ち去ろうとすると、ジャンに呼び止められた。

「どこ行くんだよ? 次俺の試合だぞ。見に来いって」

「ああ。じゃあこれ取り替えたらすぐ行くから」

「なんだぁ? そのボロボロの木刀。んなもんさっさと捨ててこいよ」

「捨てねぇよ。例え木刀でも、剣は決闘だ。大切な相棒に変わりはねぇよ。じゃあな」

「あっ、俺の試合ー! 」

不満そうな様子のジャンを放って、セルフはその場を後にした。


迎えた最終決戦。

ここまで順調に勝ち進んできたセルフは、対面する形でこちらをじっと見据えているジャンの方に視線をやる。

「恨みっこなしだからな……」

「もちろん。わかってるよ」

ジャンにそう言って、セルフは戦略を巡らせる。

ジャンの木刀は、つい先日まで勢いだけのものだった。

実際、ネイラと授業で勝負をしたのを見た時、ジャンは秒殺されていた。

そんなジャンがここまで勝ち抜いてこれた理由……そんなの、たった一つしかない。

「強くなったんだな、おまえ」

その言葉に、ジャンは気恥づかしそうに白い歯を見せて笑った。

ブレイブが養成所に来てからはセルフはずっと一人で練習していたためジャンの成長の過程を見ることはできなかったが、それでも先程の四次試験の決闘の様子を見ていたら、どれだけ強くなっていたかが嫌でもわかった。

ジャンは、あれからネイラに稽古をつけてもらって、確実に強くなっていた。

飲み込みが早いジャンは、きっと誰よりも早く剣術を自分の物にしていったのだろう。

まただ。

また、ジャンとあの人の姿が重なる。

セルフがなりたい、あの人の姿が。

「それでは、3、2、1……」

審判の合図に、セルフは木刀を持つ手に力を込める。

「始め! 」

開始と同時にジャンは猛スピードでセルフの横を駆け抜けた。

「はやっ……」

真横を過ぎ去ったと思ったら、すぐに背後に回られてしまう。

まずい。

そう思ってすぐに後ろを振り向き木刀を振るが、そこにジャンはいなかった。

ジャンがいたのは……

「よし! もらったー! 」

「っ……! 」

セルフが声のした方を振り向くと、セルフの真正面に、ジャンはいた。

反射的に木刀でジャンの剣術を受け止め、後ろに下がって距離をとる。

「あ、さすがセルフ。そう簡単にはいかないか」

残念そうに言うジャンを見て、ある違和感を覚えた。

「やっぱセルフから盗ってきた戦法だから、セルフに通用しないのも当たり前か」

その一言で、違和感の正体が明らかになった。

そうだ。その戦法は。

「俺が、ネイラ先生と授業で戦った時の……」

背後に回った、と思わせてからの更に背後に回る、裏の裏を突いた作戦。

ネイラが養成所に訪れた時、一人一人剣で勝負を行った時、セルフが使った戦法だ。

「あん時のセルフの作戦、良いなーと思って参考にさせてもらったんだけど、やっぱセルフにはきかねーか」

「当たり前だ。ていうか、参考じゃなくてほぼパクってんじゃねぇか。それに、全然動きがなってないぞ。動きは速いが、回る速度をもっと速くした方が俺は確実に負けていたな。それに、木刀の振り下ろし方も違う。今のおまえじゃあ、いくら俺の真似をしたって……」

俺のようにはなれない。

そこまで言いかけて、ハッとする。

今、自分は何を言っていた?

何を、言おうとしていた?

『君は、ブレイブ君にはなれないよ』

ネイラの言葉が、脳内にフラッシュバックする。

「……あ」

ネイラの言ったことの意味が、ここでようやく理解される。

そうだ。自分は……。

「ははっ! やっぱそーだよな! じゃ、気を取り直して……行くぞ! 」

離れた距離を一気に詰めてくる。

そのままジャンは、木刀をセルフに向かって振り下ろした。

今度こそ、セルフの反応が遅れる。


「勝者、ジャン・ルミス! 」

気づいた時には、審判の声が辺りに響き渡っていて。

「っしゃあ! 」

「勝った! ジャンが勝ったぞー! 」

「あいつ、まだ16だろ? ブレイブに引き続き、やるよな」

ジャンの歓喜の声と、周りの人々の驚き、祝福の声がしていた。

負けたのだ、ジャンに。

「良い試合だったよ、セルフ」

ジャンが右手を差し出してくる。

セルフがその手を掴めずにいると、ジャンは無理矢理セルフの右手を握って座り込んでいたセルフを立ち上がらせた。

「それでは、全ての試験が終わった今、サリファナ騎士団入団試験の合格者を発表する! 」

落ち込む間もなく教官がそう言うと、セルフは暗かった瞳に僅かにだが輝きを取り戻した。

そうだ。まだ終わってはいない。

最後は負けてしまったが、セルフだって頑張ってきた。

僅かの希望に、セルフは全てを託す。

「合格者は全部で6名! それではまず、一人目、首席から発表する! ジャン・ルミス! 」

周りから歓声が上がった。

ジャン自身も、一瞬キョトンした後すぐに満面の笑みを浮かべた。

「すごいな、あいつ」

「ブレイブ様に続いて、今年もすごいわね」

「静かに! それでは二人目、ノルマー・ダッド! 三人目、リューゲン・トル! 四人目、ヒニア・ギルシア! 五人目、スミス・リー! 」

次々と名前が呼ばれていく中、残った五人は静かにその時を待っている。

自分の名前を呼ばれる時を。

大丈夫。まだ後一人の枠が残っている。

まだ、希望はある。

あれだけ練習してきたのだ。

ブレイブに追いつくために、一生懸命頑張ってきたのだ。

ここで呼ばれなければ、また━━━━━。

ギュッと目を瞑り、両手を強く握り合わせる。

息を吸って、教官は、最後の一人の名を口にした。

「六人目、ソナ・イーシャ! 以上六名を、サリファナ騎士団団員として迎え入れる! 」

わぁっと、一際大きな歓声が辺りを支配した。

その渦に取り残されたように、セルフは一人呆然とする。

「セルフ、あの……」

「よかったな」

ジャンが気まずそうに呼ぶのを遮って、セルフは背を向けたまま祝福の言葉を述べる。

「おまえ、まだ16なのに。すごいな、ほんと」

「あ、ああ。その、セルフ、おまえだって……」

「じゃあ、俺もう行くから……」

「あ、セルフ……」

呼び止めようとするも、追いかけてくる気配はなかった。

弾き出されたようにその場から抜け、セルフは全力で走る。

呼ばれなかった。

セルフ・ネメシア。その名は、あの中になかった。

審査員には、教官だけではなくブレイブも入っている。

ということは、ブレイブの目にも止まらなかったということで。

その事実がよけい悔しくて、セルフを苦しめた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

走り疲れて、足を止める。

目を上げると、自然といつもの場所に来てしまっていた。

ずっと、一人で練習してきた場所。

生い茂った雑草の上に、セルフは倒れるように座りこむ。

「セルフ様、どうかされたのですか? 」

すぐ横から聞こえた声に、弾かれたように顔を上げると、そこには見慣れた少女の姿があった。

「ヤナギ、どうして、ここに……。観覧席に、いたんじゃ……」

「さきほど、合格者名の発表がありまして、もう試験を見る必要はなくなりましたので、ブレイブ様を待つために、ここに来ました。ブレイブ様はまだこの後いろいろ仕事が残っているとのことだったので、いつものようにここで待たせてもらおうと思ったのですが、駄目、でしたか? 」

「いや、駄目じゃない、けど……」

流しそうになっていた悔し涙を慌てて引っ込めてそう言うと、ふいにヤナギの視線がセルフの上空に注がれる。

「……ブレイブ様。お仕事が、終わったのですか? 」

ブレイブ、という言葉に反応して、セルフはすぐさま後ろを振り返る。

「いや、まだ終わってない」

そこには、そう言うブレイブの姿があって。

「セルフくん。試験、お疲れ様でした」

その横には、ネイラの姿もあった。

後を追ってきたのだろう。

セルフは手近にあった草を片手で握りしめて、二人から視線を逸らすように下を向いた。

「セルフくん。君は――――」

「俺は、ブレイブじゃない」

ネイラが先に言う前に、セルフはそう、口にした。

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