2
「いよいよだなー入団試験」
「だなー。ま、俺らまだ16だから、合格はしないと思うけど」
「ははっ! だよなー」
ランニング中、後ろで行われている会話に耳を傾ける。
「でも、ブレイブ様は確か15で入ったんだろ? それで一年もたたないうちに、団長にまで上り詰めたって聞いたけど」
「ブレイブが超人すぎるんだって。ほら、あの人は天才だから。凡人の俺たちとは違うのさ」
その言葉にピクリと耳が反応し、堪らずセルフは少しペースを落として後ろの会話に参加した。
「天才天才って言われてっけど、ブレイブは結構努力してんだぞ? 人間、努力もなしに才能だけであそこまでいけるわけがない」
「なんだセルフか」
「なんだとはなんだ」
「あー、いや。ブレイブと幼馴染なんだよな? ぶっちゃけどうよ? 」
「あ? 」
そう話すのは茶髪でくるくるの毛先が特徴的なジャンだった。
「やっぱり天才って、周りと違ってたりするのか? 考え方とか、性格とか」
こいつは、先程のセルフの言葉を聞いていなかったのだろうか。
「だーかーら、ブレイブは天才っちゃあ天才だけど、それでもちゃんと努力してきて今のブレイブになったって、言っただろ!? ブレイブだって人間だよ。俺たちと何ら変わらない」
「ふーん。俺はそうは思わないけどねー? やっぱ、世の中天才が日向に出てってるんだって。才能ある奴がこの世界に偉業を残してるんだよ。普通の人間なんて、いるとは思わないな俺は」
「……じゃあ、才能ない奴はどうなるんだよ? 」
「さぁ? あ、けど、才能がない人間なんていないって、この前読んだ本に書いてあったぞ」
「本? おまえ、本なんて読むのか? 」
普段おちゃらけている印象しかないジャンが本を読んでいるなんて、少し驚きだ。
「いや、先輩に無理やり読まされたやつだよ。おまえは成績悪いんだから、せめて本でも読んどけって」
なるほど。まぁそんなことだろうとは思っていたが。
「で、話を戻すけどよ。才能がない奴はいない。人は皆、何かしらの才能を持ってる。だから、日向に出られなかった人間は、また別の日向を探すんだよ。自分の才能がある世界に」
「……その才能がある世界が、自分のやりたいことじゃなかったらどうするんだよ? 」
「そんなの、そこで生きるしかないだろ。それともおまえは、誰にも見てもらえない辛い世界で生きてくっていうのかよ? 」
「……それは」
言いかけたところで、ちょうどランニングが終わった。
走り終わった生徒達は皆、次の訓練に移ろうと別の場所へ移動する。
セルフも一旦話を中断して歩き出そうとすると、教官の声が響いた。
「全員、俺の前に集合! 」
声を聞き、生徒が一斉に教官の前に集まった。
すると、
そこにいたのはいつもの教官一人だけではなく、男性がもう一人いた。
黒髪で、優しそうなたれ目が特徴的な、30代くらいの男性。
セルフは、この男の名を知っていた。
「ネイラ先生! 」
「セルフ、私語は慎め」
「あ、はい。すんません……」
名を呼ぶと教官に怒られてしまったため大人しくし直すと、その様子を見たネイラはクスクスと笑っていた。
反応を見るに、ネイラもセルフを覚えているらしい。
ネイラは昔、ブレイブに剣を教えていた先生だ。
ブレイブの家にやってきては剣を教えており、セルフも少しだが稽古をつけてもらったことがあった。
「こちらは今日から一週間、入団試験までの間に君たちに特別指導をしてくれることとなった、ネイラ・ショルダー先生だ。皆、従うように」
「はい! 」
大きな声で返事を返す生徒達を一度見回してから、ネイラはぺこりと一礼して挨拶をした。
「ネイラ・ショルダーと申します。どうぞ宜しくお願いします」
ネイラは最後にセルフの方を見た。
目が合って、セルフは慌てて目を背ける。
「これからネイラ先生と、一人ずつ剣で勝負してもらう。ネイラ先生はとても強いから、全力を尽くして戦うように! 」
「はい! 」
こうして、ネイラと生徒達の特訓が始まった。
一戦目はジャンからだった。
「オラオラオラァ! 」
ジャンの攻撃は勢いが8割を占めている。
相手の背後をとるとか裏を突くとか、そういったことは一切考えておらず、真正面から次々と剣技を放ってくる。
勢いだけというのも結構怖いものがあって、隙間なく突いてくるため全てを避けきることは難しいのだ。
動きが物凄く早い人じゃないと対抗できないだろう。
だが、ネイラはその全てを、物凄く早いスピードで避けていた。
「な、なんで当たらないんだ……? 」
一度剣を止めて驚くジャンに、ネイラがふふっと笑ってみせる。
「君の攻撃してくる箇所が丸わかりです。右腕から左腕、右胸から左胸。ただ左右に剣を振っているだけ。それでは、全て避けることなんて容易ですよ」
「なっ……! それならこれで、どうだ! 」
ジャンが決めの一突きを繰り出す。
少し助走をつけてから首へと突き出されたそれを、ネイラはまたも軽く身を交わして避けた。
そして、すかさず剣の切っ先をジャンの顔に向けた。
勿論寸止めだ。
「まだ、やりますか? 」
「い、いえ! いえいえいえいえ! ギブです! ギブですから! 早くそれ引っ込めろ! 」
「じゃあ、ジャン君の負け、ということで」
ネイラが剣を引っ込めたところで、ジャンが安堵する。
「つ、強すぎる……」
「そうかぁ? おまえが弱いだけなんじゃねーの? 」
「あぁ!? じゃあ次おまえやってみろよ! ぜってー負けるから! 」
「おー。じゃ先生、次は俺で」
そう言って先生の前に出てきた生徒に、ネイラは一瞬で勝利した。
そして続けざまに、五人、十人と相手をし、その全員に勝っていた。
「次は、セルフ君ですか」
足を一歩、ネイラへと向けて進ませる。
養成所に入ったのが去年なので、約一年ぶりの再開となる。
「お久しぶりです、ネイラ先生」
「はい。お久しぶりです、セルフ君」
「覚えていてくれたんですね」
「勿論。ブレイブ君の幼馴染、ということもあって、君のことはよく覚えていますよ」
じゃあ、ブレイブの幼馴染じゃなかったら、忘れられていたということだろうか。
「それじゃあ、行きますよ」
深呼吸をしてから、いつでもかかって来いと言わんばかりに余裕をかましているネイラの不意を突くように、セルフは素早い動きでネイラの背後へと回った。
だが、ここで背後に回ったところでネイラにセルフの動きなんて見透かされているのは分かっている。
そこで、ネイラが後ろを振り返った時に、セルフは再び素早い動きでそのまた後ろに回り込んだ。
裏の裏を突いた作戦だ。
「オラッ! 」
声を上げながら、剣を振り下ろす。
「甘いですね」
も、ネイラはセルフの方を向いて、剣ごとセルフを弾き飛ばした。
尻もちをついてしまい、剣が地面に突き刺さった。
「まだ、勝負を続けますか? 」
「いえ……」
お手上げのポーズをとると、ネイラはまたクスクスと笑った。
そして、その様子にまた、不快感が募っていく。
「その戦法、ブレイブくんがやっていましたねぇ、昔」
「……」
眉間に皺が寄っていくのが自分でも分かる。
「昔から、ずっと言っていることですが……」
一歩、二歩と近づいてくるネイラと、セルフは目を合わそうとしなかった。
ネイラはセルフの前まで来ると、尻もちをついたまま動かないでいるセルフを見下ろした。
まるで、見下しているかのように。
「君は、ブレイブ君にはなれないよ」
ああ。またおまえは、そう言うんだ。




