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「ブレイブ! 剣を教えてくれよ! 」
小さい頃、暇さえあればブレイブにそう縋っていた。
右手には子供用の小さな木刀を持ち、左手はブレイブの服の裾を握っている。
「またか? 」
「だって、父様は会合で忙しいし、母様もお茶会へ呼ばれてて、メイド達は皆忙しそうだし、ブレイブしかいないんだよ! 」
「……ったく、しょうがないなぁ」
そう口では言いつつも、ブレイブの顔は何だか嬉しそうに見えた。
「いいの!? 」
「ああ。とは言っても、俺も先生から教わった知識しか知らないから、あんまり期待はするなよ? 」
「うん! 」
ぱあっと顔を輝かせて頷くと、ブレイブに「そこは嘘でも期待するって言え」と頭を小突かれた。
「じゃあ、今日も厳しくいくからな。セルフ」
「うん! よろしくお願いします、ブレイブ様! 」
セルフにとってブレイブは師匠で、憧れだ。
幼馴染であるブレイブが剣を振っている姿を見てから、セルフも真似をするように剣を始めた。
同じように剣の練習をしているセルフを見たブレイブが、剣についていろいろと教えてくれるようになってからは、セルフは更に剣術が好きになっていた。
「俺、騎士団に入ろうと思うんだ」
ある日、ブレイブがそう言った。
唐突だったが、前から決めていたことだったという。
そしてそれを聞いたセルフは、当たり前のようにこう言ったのだった。
「じゃあ、俺も騎士団に入る! ブレイブと一緒に、騎士になる! 」
ブレイブは驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んでくれた。
「じゃあ、一緒に騎士になるぞ! 」
「うん! 」
だが、それが叶うことはなかった。
「以上7名を、サリファナ騎士団の団員とする! 」
呼ばれなかった。
騎士団に入るための入団試験で、セルフの名前は呼ばれなかった。
「あいつまだ15歳なんだろ? 」
「すごいよな、さすが天才」
周りがブレイブを褒め称えるなか、セルフは一人、佇んでいた。
おいていかれた。
ずっと、一緒だったのに。
「一緒に騎士になるぞ! 」
そう、言ってくれたのに。
ブレイブとセルフの間には、実力が圧倒的に違っていた。
「セルフ、今回は残念だったな。だが、まだ15歳なんだから不合格で当然だ。ブレイブが異常者だっただけだ」
教師がそう言ってセルフの肩をポンと叩くが、セルフには全く響かなかった。
セルフとブレイブは違う。
何で違うんだ?
何でブレイブはあんなに出来て、セルフにはできないんだ?
その違いが、わからなかった。
「あ、セルフ……」
教師の呼び止める声も聞かずに、セルフはその場を飛び出した。
剣から目を背けるように。
それでもこうして剣を振っているセルフは、やっぱり剣が好きなのだと実感する。
ブレイブにおいていかれたセルフだが、まだ騎士になれるチャンスはある。
あの日からもう一年程立つのだ。
今年、またあの試験がやってくる。
今度こそは。
そう思いながら、セルフは剣を振った。
「セルフ。こんな時間から練習か? 」
「ブレイブ様! 」
養成所で一人練習をしていたところをブレイブが見つけ、セルフの元に駆け寄ってくる。
「朝の5時だぞ。早起きなんだな」
「そう言うブレイブだって、早いじゃないか」
「俺は団長だからな。誰よりも早く来て練習するのは当然だ。とは言っても、半分は怪我のせいで暫く練習には来られないんだが……」
三日前、サリファナ王国とシャトリック王国がグリュースで勝負をした時のことを思い出す。
セルフも授業の一環として養成所の生徒達と一緒に見に行っていたのだが、あれは惨いものだった。
必ず圧勝してくれるだろうと思っていたブレイブが、なんと相手国の団長ジャックによって闘技場の周りに囲まれている水の中に落とされたのだ。
それを見たセルフは直ぐにでもブレイブを助けに行こうとしたのだが隣にいた生徒に引き止められてしまった。
どうなるかとハラハラしたが、ブレイブはすぐにどこかの少女によって助けられていた。
そこからはブレイブがジャックを圧倒して何とかサリファナ王国の勝利へと導いたのだが、騎士団の団員半分以上が負傷した。
中には血まみれで倒れている者や、腕が二、三本折れた者もいたらしく、ブレイブも熱を出して暫く休んでいたのだ。
「お見舞いに行けなくてすまんな……。もう、平気なのか? 」
「ああ。お陰様でな、ぐっすり寝たらすぐ良くなったさ」
「そうか、なら良かった。あ、そういえば、水に落ちた時におまえを助けたあの女は誰だ? ドレスを着てたところを見るに、貴族だと思うが……いや、貴族は水に飛び込んだりしないし……」
セルフが考えていると、ブレイブがははっと笑った。
「それが、いるんだよ。水に飛び込む貴族令嬢が」
「え? 」
「しかも、公爵令嬢だ」
「えぇ? 」
あの女が貴族? 更には公爵令嬢?
ありえない、という顔でブレイブを見ると、何処か遠くを見つめるようなブレイブの横顔に、一瞬ドキリとしてしまった。
「本当に、面白い女だよ……」
あのブレイブが、女に興味をもっている。
今まで黄色い声に反応こそ示してはいたが、恋愛には全く興味を示さなかったブレイブが。
「……そんなに面白いのか? 」
「ああ。ヤナギ・ハランっていうんだが、知ってるか? 」
「いや……知らないな」
剣にしか興味の無いセルフは、ブレイブや教師など自分と繋がりのある人しか知らない。
公爵令嬢ということは有名なのだろうが、生憎とセルフは聞いたことがなかった。
「じゃあ、俺は稽古場に行く。またな」
「あ、ああ。またな」
去っていくブレイブを見ながら、さっきの横顔を思い出す。
目を細めて、楽しそうに微笑んでいたあの顔。
「あんなブレイブ、初めて見たな」
昔からずっと一緒にいた幼馴染の、初めての顔。
何故あんな顔をしたのか不思議に思いながら、セルフは再び練習を続けた。




