1話【転生】
城に着くとライはすぐに王と謁見することになった。
「勇者よ
久しいな」
「はい、一月ぶりでございます」
「魔王を倒すと言って旅立ったこの一月お主はどこで何をしていた?」
魔王が死んでいない、しかし勇者が戻ってきた。
そのことについて問いたいのだろう。
過去の勇者は皆等しく魔王を倒すと言って魔王城に向かって帰ってきたものはただの1人もいなかったからだろう。
「魔王城にて、魔王と平和について話しておりました」
嘘ではない。
嘘であったなら王との契約によって激しい痛みが生じるからだ。
その痛みが生じていないということは嘘ではない。
王はその事を理解したのだ。
「そうか、そして結果はどうだった?」
「はい、人間も魔族も全ての種族が平和に手を取って暮らせる日がやってくるということを確信しました」
「ほう、それはなぜ?」
「魔族も人間の変わらないからです」
そう言うと王の周りの兵がざわついた。
ある人は声を上げて反発する者もいた。
「落ち着け」
王がそう言うとすぐに周りの兵士は黙った。
「確かにお主が不在だったこの1ヶ月の間魔物の進行はほとんどなかった
それはお主の成果なのだろう」
王はライの考えに納得したようだ。
しかしー
「だが、それは無理だ
いや、10年さらには100年その先の未来でならそれが可能かもしれない
人々の考えが変わるかもしれない
しかし、今戦争をやめようとしても魔族に家族や友人を殺された者が黙ってはいないだろう」
それは当然のこと、ライも理解していた。
「わかっています
だから、約束して欲しいのです
魔族が攻めて来ない限りこちらから手は出さないと」
それなら、魔族に大切なものを奪われた人も魔族はまたやってくると思って待つだろうから。
そして、ライは魔王と同じ約束をしたから。
2人が守れば戦いは永遠に起こらないから。
そしてその間にお互いを理解し合えるから。
それを信じてーーー。
「ふむ、しかしじゃ
わしらがそれを守るメリットはあるのか?」
これを言えば俺の人生は終わるだろう。
孤児で拾われた身。
そして、才能を見出され勇者となった。
戦いが終われば俺の存在など必要が無い。
それに、俺はもうほとんど戦えない。
「私は魔族領では攻撃魔法を使わないと契約をしました
だから、私が今後魔族領を攻めることは出来ません」
その効果は契約した相手が契約を破棄すると言うまで続く。
だから、二度と魔族領で戦うことは出来ない。
「そうか」
再び辺りがざわついた。
無理もないだろう。
歴代最強とまで言われた勇者が魔族領を攻め落とすことが出来ないのだから。
自分達の領地を守ることしか出来ない。
しかし、それは他に戦う兵士達に動揺を生むことになるのだから。
「勇者よ
今からお前の処分を言い渡す」
どんな処分だろうと受け入れることは出来ていた。
この1ヶ月それだけの思いができたのだから。
「お主をこれから転生させる
それもこの時代より遥か先の時代に
しかし、お主が先程言った約束は守ろう
お主はそれほどの活躍をした」
死刑ではなく、転生なのは王の優しさ故にだろう。
転生とは今の生を捨て新たな生へと変わること。
そのことにより俺の力がよわまる可能性や記憶を失うなど無数の可能性がある。
事実死刑のようなものだ。
だから、この刑を選んだのだろう。
「仰せのままに」
次にどんな姿になろうと悔いはなかった。
「転生までの猶予はどのくらい欲しいか言ってみよ」
「いりません」
もうこの世に未練などありはしないのだから。
◇◆◇◆◇◆
転生の儀はすぐに執り行われた。
城のある一角で20人あまりが涼介を囲んでいた。
ライはその20人が描いた魔法陣の中心にたっていた。
「勇者……いや、ライよ
さらばだ
お主とは友人として語り合いたいと思っていたが残念だ」
王はそう言った。
その瞬間魔法陣は輝きを増した。
転生の魔法が発動したのだ。
そして、城にライの肉体だけが残った。
◇◆◇◆◇◆
真っ白な空間、ライはそこを魂だけで進んでいた。
ほう、転生とはこのようなものなのか。
転生自体初めてのため全てが未知のことだった。
少し進むと真っ白な空間の終わりが見えてきた。
迷わずその先に進んだ。
完全に真っ白な空間が無くなると辺りは燃えていた。
今度は魂だけの感覚ではない。
肉体があった。
「どこだここは」
見渡せば家の中におりそしてその家が燃えているようだった。
「《大滝》」
右手を掲げ広範囲の水魔法を使用して炎を消した。
しかし、既に手遅れであったのか、死体が2つあった。
それを見ていると悲しみが湧き出てきた。
魔法には命を未来へ繋ぐ転生という魔法があっても命を蘇らせる魔法はなかった。
だからこの2つの死体は蘇らない。
◇◆◇◆◇◆
死体を埋めるとライは状況の生理をしていた。
周りには燃えた家の残骸と少々焼けているところもあるが一面森だった。
俺が今使っているこの体は……。
元々のライの体ではない。
元々の体よりも身長が低く若い。
「よし、《探索》」
自分の体の魔力の跡を《探索》によって調べようと思ったのだ。
「ふむ、そういう事か」
元々のこの体の持ち主は15歳の少年で学校の入学が決まり家族でお祝いをしていた時に誤ってロウソクを倒してしまい火事になったということがわかった。
そして、先程の死体はこの体の少年の親……。
少年は燃える家を見て、止める方法はないかと足掻いた結果転生しこの体に宿り眠っていたライを目覚めさせたのだ。
「すまんな、少年
両親を助けられなくて
そして、見えているかわからないが見ていてくれ
俺がお前の望みを叶えよう」
この少年が最後に願ったこと。
それは入学した国立エルメール魔法高校の卒業。
受かったことすら奇跡だと両親と共に喜んだ学校の卒業。
そんな些細なことがこの少年の願いだった。
しかし、元勇者であるライは助けてもらった恩を返さないわけにはいかない。
だからこそ叶えるのだ。
「どうやら世界は平和になったのだな」
《探索》で分かったもう1つのことがそれだ。
「見に行くとするか」
森を抜けるために魔法の風を体に纏わせて空を飛んだ。
風の初級の技で魔法ですらない。
ライは空を飛び森を抜けていった。