エピローグ
「魔王よ、貴様もこれで終わりだ」
目の前で膝をついている魔王ーーマクロス・シフォニスに剣を向けた。
「勇者よ、お前との戦い楽しかったぞ」
魔王も自分の死を悟り抵抗をしていなかった。
魔法を使って幻影を見せている様子もなかった。
「さらばだ」
剣を高く上げ魔王の首に向かって振り下ろした。
「止めてぇぇ!!」
寸前、剣を振るうのを止めた。
少女が一人銀色の髪の長い髪を揺らしながらこちらに向かってくる。
魔法を使ってくる気配はないが警戒は怠らなかった。
そして、少女は両手を広げ魔王を守るようにして俺の前に立ちはだかった。
少女の青い瞳はこちらを強く睨みつけてきた。
俺も同じように睨みつけた。
大概の者は尻込みをするがその様子は無く、怯えている様子もなかった。
「ルル……」
魔王がそう呟く。
「何者だ
俺の前に立つということはそれ相応の覚悟を持っているのだろうな?」
そう脅してみたが少女は動じる気配はなかった。
「私はルル・シフォニス
魔王の娘よ」
魔王に娘がいるということは知らなかった。
しかし、どんなものであろうと俺の邪魔をするものなら変わらない。
「そうか、魔王の娘よ
何故俺の前に立ちはだかる」
剣をルルの喉元に突き立てる。
「お父さんを守るためよ!」
「守る、か
魔王は俺と命と命の取り合いをした
そうして勝った俺はこいつを殺す権利がある」
「何故お父さんを殺すの?
もうお父さんは抵抗してないじゃない」
「相手の命を断つのは戦いに勝った者の権利だ
そして、魔王の命を断てば永き戦争は終わりを告げる
魔王撃破を掲げ果たせなかった歴代の勇者たちも死んで逝った者も報われるだろう」
「いいえ、お父さんを倒しても戦争は終わらないわ
私達魔族とてあなた達人間と変わらないわ
勇者が受け継がれてきたように、魔王も受け継がれるわ
そして、また無駄に死んで逝く人達が増えるだけ」
「それもそうだな」
俺は剣を鞘に納めた。
「えっ……」
どうやら俺の行動が予想外だったようで驚いていた。
「どうした?
お前が言っていた通り戦いを辞めたぞ」
「え、えぇ、そうね
でもどうして?」
「俺もこの戦争は馬鹿げていると思ったからな
お前の意見に納得した
俺は戦うのを辞める」
「そんなあっさりと……?」
どうやら油断している間に殺すのではないかと警戒しているようだった。
「別に油断して殺すわけではない
お前くらいならこのような手段を使わずともすぐ殺れる」
「………わかったわ」
ルルは警戒を解いた。
「あなたはこれからどうするの?」
「そうだな……
俺は少しばかりここに残ろうと思う
お前が言ったように人も魔族も変わらないと言うのをこの目で確かめさせてもらおう」
「わ、わかったわ
なら魔族領では攻撃魔法を使わないと約束して
そしたら私があなたに魔族領を案内してあげるわ」
「わかった
契約を結ぼう」
自分の体の中にある契約の証である剣に魔力を流した。
契約内容は先程言ったこと。
「我ライ・アルミナは汝との契約を結ぼう
我は魔族領において一切の攻撃魔法を使わないことをここに誓おう」
言い終えると体が光りしばらくして治まった。
試しに炎魔法を使おうとしてみた。
「《煉獄》」
炎を広範囲に噴出させ複数を燃やす技。
いつもの容量で発動してみたが成功しなかった。
つまり、契約が成功しているということ。
「ほう
ではこちらは《完全回復》」
倒れている魔法に回復魔法をかける。
魔王の体は俺の魔力に包まれていく。
しばらくすると全ての傷が治っていた。
「お、お父さん……」
完全に意識を取り戻した魔王に抱きつき泣くルルの姿は先程のような絶対的強者に立ち向かうような強気なものは一切なく、父を思う娘のようだった。
「魔王よ
俺はその娘と契約を交わした」
「………どのようなものだ?」
完全に警戒している様子だった。
「なに、その様に硬くなるな
ただ俺は魔族領において一切の攻撃魔法を禁止とし、しばらくの間ここに残ることにしただけだ」
当然といえば当然だが、信じていない様子だった。
「お父さん、本当よ
ちゃんと契約の光を確認したし、《煉獄》を使おうとして失敗してたわ」
ルルに言われ信じたのか警戒を解いた様子だった。
「何故そのような契約を交わした
お前になんのメリットがある」
「メリットか、言うなればこの戦争は馬鹿らしいと思い
そして人と魔族が手を取り合えるのでないかと言われてな
俺もそう思っただけのこと」
「命をかけ死んで逝った者を愚弄しているのか?
お前に命を託し死んだ仲間を弔いをしなくて良いのか?」
つまり、魔王を殺さないのかと言いたいのだろう。
「生憎俺には仲間など不要でな」
元来人も魔族も全ての種族において、戦闘の時に役割がある。
役割がある理由は個々の使える魔法には限界があるからだ。
攻撃に特化した者や攻撃は出来ないが、回復や結界などの防御に長けたものなどそれぞれだ。
だから、役割を分担し、個々の欠点を補うためだ。
しかし、俺は全ての分野の上級魔法以上の威力の魔法を使える。
だから、パーティーを組む必要がないのだ。
逆に如何なる者も足でまといになってしまう。
「孤独の勇者か」
魔王がそう呟いた。
孤独の勇者ーーそれが俺についた名前だった。
「お主の考えはわかった
我もお主に危害を加えないと誓おう」
「そうか」
◇◆◇◆◇◆
それから俺は暗黒騎士という立場で名目上ルルの騎士として魔族領を見て回った。
そこでは魔族同士が手を取り合い生きていた。
それは人と変わらなかった。
なんなら、魔族は弱い者でもそこそこの魔力を持っており、それを使って火を起こし、田んぼに水をやりとそれぞれできることを分担していた。
そこには争いもなく、平和そのものだった。
「ライは魔族領を見てどう思った?」
隣にいたルルがそう聞いてきた。
「想像と違った
自分さえ良ければと思っている集団だと思った」
戦争ではそうだった。
強い魔族は皆同様に我が強く自分と配下の利益のために魔族どうしでも争う光景も珍しくなかった。
「だからこうして手を取っているのは意外だった」
魔族の子供たちが元気に走り回っている姿を見た。
その子供たちは戦争のことなど分からない。
純粋な目をしていた。
「アイツらもこれを守るために戦っていたのだな」
自分達の領地の平和を願い少しでも戦果をもたらしより豊かにしようとしていたのだろう。
この1ヶ月で魔族も本当は平和を願っているということを理解した。
「人間村もこんな感じなの?」
「わからない」
「どうして?」
「俺は捨て子だった
とある教会に拾われ、魔法の才能があるとわかった時すぐに王国へ引き渡された
そのあとは魔法を学び、戦争に身を置いた
だから、わからない」
「そう……」
ルルは悲しそうな顔をしていた。
きっと同情しているのだろう。
「ライも座ったらどう?」
「いや、立場上俺はお前専属の護衛だ
そんなことは出来ない」
「なら、命令よ
私の隣に座ってちょうだい」
「仰せのままに」
言われた通り隣に座ると、ルルはライの肩に頭を預けた。
「あなたはもう独りじゃないわ」
この1ヶ月色々な体験をした。
魔族の優しさを知り、温かさも知った。
それは戦争に身を置いていたら決して知りはしないこと。
「そうか」
しばらくして、ルルは眠りについた。
◇◆◇◆◇◆
眠っているルルを抱えた状態で魔王城に帰った。
やって来たのは魔王の祭壇と言われるライと魔王が激戦を繰り広げた場所。
そして、ライとルルが出会った場所。
「勇者よ、行くのか?」
「あぁ、この1ヶ月悪くない日々だった」
「そうか、我もお前と語り合えた日々は忘れないだろう
いつかまた語り合おう」
「それも悪くないな」
ルルを魔王に渡すと、転移門を潜った。
向かうのは、王都。
ぼちぼち頑張ります