エピローグ、闇の中で
健とミシェラの逃亡の果てに、世界は均衡を崩し、崩壊した。
二人の帰還は叶わなくなり、世界に闇が訪れた。
光がなくなったのである。
これにより、起床という動作の概念が失われ、ずっと夢の世界でも生活していけるようになった。
これも研究の成果だろうか。
健の貢献のおかげだ。
後の人々が調査を進めていく段階で、明らかになっていたものがある。
増幅装置の存在である。
今も応用されている。
そして、そのオリジナルが今、私の手元にある。
何故か?
あの時。
あの瞬間に。
2人に会う前に。
ひと芝居打っておいたからである。
母さんが死んだと聞かされて、動揺したように見せる芝居。
我ながら、滑稽だと思った。
こんなもので騙されてくれるのか。
相手は馬鹿だった。
簡単に引っかかってくれた。
殺気を放って、2人を追いかけるふりをした。
すぐに2人は遠ざかる。
誰もいなくなったその場所で。
おもむろに、増幅装置を被り、起動。
元々、不安定だった世界が、私の中でのみ、収束する。
こうして、まんまと帰還した訳である。
**********
目の前に2人の人間が横たわっている。
その頭に、これをつければ完了だ。
2人は、闇の世界から帰ってくる。
かぶせて、電源起動。
2人が目を覚ます。
そして。
目を見開き、こちらを見ている。
顔色は分からない。
混乱しているのだろうか。
それもそうか。
急に明るい場所に出てきたわけだから。
でも、もう大丈夫。
やっと3人で暮らせる。
「おかえり、2人とも。」
その言葉で2人が笑顔になるのが、分かった。
予め、記憶には細工を施しておいた。
母さんの脳内は、整理され、自分が一度死んだとは露ほども思ってはいないだろう。
健の脳内は、完全に大部分の記憶を書き換えた。
彼が、夢の中で関わった人々。
そのあらゆる事柄。
全て。
それを消去した。
今の健は、ごく普通のどこにでもいるような高校生に過ぎない。
「あら、貴方、もう帰ってたの?」
「父さん、おかえり。」
ありふれた会話。
家族の会話。
その中に、ミシェラという女の影はない。
今も闇の中である。
「あら、いけないわ。もうこんな時間じゃない。夕ご飯作らないと。二人ともちょっと待っててね。」
優しい母の声。
それに返す。
「ああ、健と二人で待っているよ。急がなくていいから。ほら健、こっちに。」
手招きする。
「父さん、俺ものすごく壮大な夢を見てたみたいなんだ。こことは違うもう一つの世界があって、俺はそこで王様なんて呼ばれてた。普段、喋らないから色んな人と会話できたし、楽しかった。あんな時間は他になかったよ。それに、、、その何て言うのかな、、、女の子?とも仲良くなった。恥ずかしいけど、彼女って言っていいのかな。その子の名前はね、、、。」
そこで口が止まる。
続きが出てこない。
彼女は。
彼女の名前は。
思い出せない。
何故。
何でそんな大切なこと、思い出せないんだ。
視界が歪む。
顔を手で拭う。
濡れていた。
泣いているのか?
何で?
「父さん、何でか分からないけど、涙が止まらないんだ。」
「いいよ、嫌なことは忘れなさい。」
健の被っている増幅装置に手を伸ばす。
出力設定を最大に。
これで大丈夫。
お前は、何も感じなかった。
後にも先にも、家族3人だけだ。
「これからよろしく。」
これが、今その瞬間に存在している健が聞いた父の。
最後の言葉だった。
更新ペースかなり乱れましたが、読んでくださった方ありがとうございます。
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