最期は、ここで迎えたい
目の前の男が明確な殺気を放ってきた。
近づいてくる。
ゆったりとした足取りで。
ノイズに呑み込まれ、ありとあらゆるものが消失してしまった。
出会った人たち。
大切なもの。
全て。
母さんも。
ここで、俺が殺されたら、皆が無駄になる。
逃げて、逃げて。
逃げ続けないと。
そこからの判断と行動は早かった。
狭くなった視界の中で、京子の手を手探りで探し出す。
すぐに見つかる。
「逃げよう、二人で永遠に。」
健はその言葉と笑顔を京子に向ける。
彼女に伝わっただろうか?
こちらの手を握り返す感触。
体温が直に伝わってくる。
「うん、うん!」
弾んだ声音の返答。
京子と俺の気持ちがつながった。
後ろを振り返らないように、一直線。
走る。
走る。
全力で。
景色が変わっていく。
そこにあったはずのユーランド城は既に見えない。
覆い隠されていた。
それをノイズに包まれた顔で見る。
それに、その場から離れていく。
城の大門だった場所を抜けて、アスタ市場方面に。
そこも穴が開いたかのようなありさまだった。
かつての賑わいはなく、人々から集めていた善望の眼差しも感じられない。
ここで京子、、
ミシェラと会ったんだったな。
初めは、驚いたものだった。
一つだけ、違っていたから。
それが俺の興味を引いた。
だから、今も一緒に逃げているんだ。
「懐かしいね、、、ここ。」
ミシェラもそう零す。
気持ちは同じだ。
アスタ市場を通過し、貧民街の方面に。
ミシェラの住んでいた場所。
ミシェラの手が強く握り返してくる。
それに手が震えて、こちらにまで伝わってくる。
この状況でここを通るのはまずかったか、、、?
「、、、大丈夫、、、大丈夫、、」
ミシェラが自分を鼓舞する声。
彼女が一番つらいはずなのに、、、
ミシェラと仲良くしていた子供たち。
こちらに反発してきた子供たち。
もうみんないない。
遊んでいた広場でミシェラが立ち止まる。
顔は見えないが、ミシェラがこちらを見ている気がした。
そして。
「最期は、ここで迎えたい。いい?」
声が震えていた。
怖いんだろうか?
今から、それが来るから。
でも、一人じゃない。
俺がいるから、大丈夫。
心配しないで、、、
ミシェラの手の感触がなくなった。
手を見る。
ノイズに包まれていた。
目の前にノイズの塊。
これがミシェラか?
もう少し近くにいたい。
ノイズの塊が動く。
二つの塊がくっついて、一つになった。
もうなにもない。
感覚がない。
でも、二人で狭間を彷徨うなら悲しくはないだろう。




