女なんて嫌いだ
女なんて嫌いだ。いつも笑ってごまかすから。ほら、今日もまた、性懲りもなく俺の前に現れる。
「今日も修行?相変わらず頑張っているじゃない。」
「まーな。」
俺は彼女の言葉に曖昧に返事をし、木刀の素振りを続けた。強くなるためだったら何でもするさ。この地道な一歩が俺の力になると信じて、毎日剣の修行をしている。親父の厳しい試練に挑戦したりして。…幼なじみであるこいつはそのことを分かっているから、それ以上何も聞こうとはしないのだ。やがて振り下ろす手を止めると、俺は額の汗を拭った。俺の顔に、突如冷水がかかる。
「ぶわっ、冷てえ!何すんだよ!」
「武道家なら、今の行動を読めたんじゃない?」
彼女は手にコップを握っていた。それを以て俺の顔に水を掛けたのは言うまでもない。彼女はいたずらっぽく笑っている。その態度に、俺はむかっとした。
「何だと?お前、俺をおちょくってんのか?」
拳を握りしめ、木刀を突き出す。怒りで体が震えているのが自分でも分かるほどだ。だがこいつはさらに冗談めかすだけ。
「も~、冗談だって。悪かったから、許してよ~」
彼女は顔の前で手を合わせた。そのまま俺に微笑みかける。そのふわりとした笑い方が、俺の心をつついて掻き乱す。…分かっているんだろ?そんな笑い方されたら俺はそれ以上怒れなくなるってことくらい。そうやっていつも俺をごまかして。
もっとも俺は、そのやりとりは嫌いじゃないけどな。
荒い息のまま、真正面の男を見据える。こちらを見下ろす顔に浮かんでいるのは、余裕。そして、手には黒光りする拳銃が…。俺は好きを探しながら、いつでも動けるように刀を握り直した。距離が近いのならともかく、刀の間合いの外では明らかに銃の方が有利。チャンスの一瞬を逃してはいけない。呼吸を整え、その時を待つ。
「へっへっへ、何もしなけりゃ痛いようにはしねえよ。さあ、そいつを渡しな。」
俺はポケットに入った石に触れた。これは村を代々守る大切な守り石。よそ者に渡す訳にはいかない。
「…断る!」
俺は叫んだ。男の口が歪む。
「そうか、残念だな。じゃあてめえの屍から取らせてもらうよ!」
言うが早いか、男は俺に銃口を向けた。白い煙と共に、銃声が響く。
目の前に鮮血が飛び散った。だが、それは俺の血ではなかった。その一瞬、俺の体には傷一つつかず、痛みも感じなかった。男と俺の間に、割って入った影があったからだ。どさり、と鈍い音を立てて女が倒れ込む。俺は急いで幼なじみの元へ駆け寄った。
「お前、どうして俺を…?」
仰向けになった彼女の胸から、止めようもないほどの血があふれる。俺はどうしていいのか分からなくなった。男はなおも俺に銃を向ける。
「このアマ、勝手な事しやがって…!」
しかし男が引き金を引く前に、銃は男の手元を離れて宙を舞った。村の男達が集まり、男を拘束したのだ。
俺は静かになった幼なじみを見る。眠っているかのように、ピクリとも動かない。
「おい、しっかりしろ!…う、嘘だよな?冗談で俺をからかってるだけなんだろ?」
必死で体を揺さぶるが、反応が返ってこない。信じられなくて、目からは涙がこぼれた。ふと、頬に優しい温もりを感じた。彼女の手が、涙を伝う俺の頬に触れていたのだ。
「良かった、あなたが無事で…」
ふわり、とあの笑顔。俺が見ている目の前で、手は滑り落ち、目は閉じた。安らかな、幸せな笑顔のまま、俺の膝の上で静かに冷たくなっていく。
またそうやって俺をごまかして。分かっているんだろ?そんな笑い方をされたら、怒るに怒れなくなる事くらい。
だから、女なんて嫌いだ。
何となく悲恋が書きたかったんだよ
私の脳内では、
悲恋=報われない恋→どちらかの死
という事になってるんだよね(苦笑)
長編だと基本甘くなるんだよね、途中までは
最終的に悲恋にしたいものもいくつかあったり…