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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第5話 ニックネームはそこそこに

「なんでねこがいるかって?そりゃあねこが好きだからよ。それ以外に理由はないわね。」我流先生は当然でしょう?といった顔をしながら言った。

「ですが、そもそも薬局で動物飼っていいものなんですか? 見たことないですけど」

「じゃあ聞くけど、薬局で動物を飼ってはいけないっていう法律はあるのかしら?」

葵はすぐに返答することができず、口に手を当てて考え始めた。昔からの癖ですぐに発言できないときはそうやって考え込むことからはじめていた。だが、優等生の葵であっても薬剤師法や薬機法などの薬剤師関係の法律について全て網羅しているわけではない。つまり、ここで考え込んでいても答えなど出ないのだ。

「ごめんごめん。 法律は学生どころか薬剤師になった人でも完璧に覚えてる人なんかまずいないから大丈夫よ。 でも重要なことだから、桜庭さんがこの薬局実習終えるまでには答えられるように勉強しておくようにね。」

美夜は微笑みながら葵に言ったが、葵は少し納得できない気持ちになっていた。

“なんで薬局に猫飼うことが正しいのかどうかが薬剤師として重要なことなの?”


葵は調剤室に行くための準備を整えていた。最初はいろいろと変なこと(主に猫)が気になったが、今では意外とここはしっかりしていると美夜を見直していた。なぜなら、衛生管理を徹底していたからだ。まず、待合室から調剤室に入ってみると、そこは電話ボックスくあらいの広さの部屋で、目の前には粘着ローラー(取っては猫の前足の形)、そして手を洗う場所が設置されていた。しかも、水性石鹸やアルコールは手を触れずとも手を近づければ自動で放出されるようになっていた。ちなみにこの方法は医薬品の工場や無菌室(菌がいないほどきれいな部屋)に入る際と同じなのだ。普通の薬局ではこんなことはしない。

“猫がいるからそこは気をつけてるんだ… ちょっと変だけどきっちりしてる人なのかも…”

葵は目の前のかわいい猫のキャラクターが描かれたローラーの使い方や手洗いを見ながら丁寧にそれらを行った。そして扉を開けるとようやく今の更衣室にたどり着いた。我流には適当に使うように言われ、一番端のロッカーを使っている(ロッカーは3つしかないが)。

葵は白衣に着替え、メモ帳とペンを持って更衣室を後にした。


調剤室に入ると、我流はパソコンをいじっていた。準備は終わったようだ。

「お待たせしました!え~と、我流先生、改めて今日からよろしくお願いします!」

葵は昨日暗記したあいさつを言いながら頭を思いっきり下げた。

「ふふっ。そんなに硬くならなくて大丈夫よ。 こちらこそよろしくね、葵ちゃん。」

「え…」

急に下の名前で呼ばれてしまったため、また動揺して固まる葵。

「ああ、早く仲良くなりたいから下の名前で呼ぶことにしたの。私も下の名前で呼んでくれていいわよ~。 みやせんせ~いって感じでね。」

想像以上にラフな美夜に対する動揺は続いており、顔にも表れたようだ。葵を見た美夜は少しあわてはじめていた。

「ごめんなさいね! やっぱり下の名前じゃなくてあだ名のほうがいいわよね?」

「は?」

さらに予想外な発言に葵は声を上げていた。

「やっぱり親しくなるんならあだ名よね。葵ちゃんかわいいから…凛ママ、スイマー、女番長だったらどれがいい?」

「あ、あの、すみません…。やっぱり下の名前でお願いします!」

葵は深く考えずに即答した。しかし葵には気になることがあった。

“あだ名は一体どこから思いついたんだろう… 私には何の関係もないものばかりだったけど…”

「なんであのあだ名のかと言うとね、葵っていう名前のかわいいキャラクターから…」

葵の考えを読んだのか、美夜は解説をし始めた。

だが、葵はその内容のほとんどを理解できなかった。なぜなら幼少のころからマンガやアニメ、ゲームにほとんど触れ合ってこなかったからだ。彼女が分かるものはネコ型ロボットがめがねの少年を助けるものくらいである。

“やっぱり、私ここでやっていけないかも…”


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