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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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番外編 八雲の思い出 その1

大阪医療創造大学に入学し、初めての講義で八雲やくも 数彦かずひこは講義室全体を見回していた。そして、目当ての人物を見つけると近づいていった。その女の子は他の女の子たちとは一緒に座らず、メガネをかけ、寝癖がついた冴えない男と談笑していた。

“優しい子だな。きっとあいつに友達がいないからかわいそうだと思って話しかけてあげてるんだな”

入学時のオリエンテーション時に始めてみたときから気になっていた。白い肌に肩までのびる栗色の髪、明らかに他とは違いオーラを持っていた。しかし、表情は緊張しているのか無表情に近く、その日は笑っている姿を見ることができなかった。

八雲自身は大学入学時、その容姿から既に人気があった。それは中学、高校時代からも同じで、女の子に話しかければ向こうも笑顔で返してくれていた。八雲はそんな自分に自信を持っていた。だから最初に美夜に会ったときも自分が話しかければ彼女は喜ぶと感じていた。


彼女の隣に座るが、彼女はこちらに気づいていないのか相変わらず冴えない男と話している。

「君、名前はなんていうの?」

八雲は笑顔で爽やかに話しかけた。だが、彼女は何の反応もない。どうやら向かいの冴えない男と話すのに夢中なようだ。

「ねえ、名前はなんていうの?」さっきより大きな声で言った。

男のほうが気づいたようで、彼女に何か話している。すると彼女は振り向いた。だがその表情は笑顔ではなく、なぜか不機嫌そうだ。

「我流 美夜」

それだけ言うと、また振り向いて話し始めた。その行為にショックを受けた八雲だが、彼女は恥ずかしがり屋なのかもしれないと思い、また話しかけた。

「ねえ、我流さんは何の話してるの!」

すると美夜は、はあとため息をついた。

「私は今、彼と話してるから後にして」

そう言うといすの下においていたバッグを自分と八雲の間に置いた。さすがに彼女の態度に我慢できなくなった。

「さすがに可愛そうだって。彼も入れてやったら?」

先ほどから美夜と話していた男が言った。

「ありがとう!君のこと誤解してたよ!君は分をわきまえてるね!」

八雲は悪気なく言っていた。昔からちやほやされてきた結果であった。

「絶対やだ。性格悪いし、息もくさいし。あなたが近くにきたおかげで頭痛と吐き気がするから、病院についてきて、雪。」

一気に言うと冴えない男と一緒に行ってしまった。これはたくさんの学生に見られており、次の日から口がくさいらしいという理由から「バクテリアン」というあだ名をつけられた。あだ名は新入生の医歯薬合同オリエンテーション時に必ずつけられるもので、このあだ名は一気に他学部にも広がった。


次の日、冴えない男が講義が始まる前に話しかけてきた。「八雲君だったよね?昨日は美夜がごめんね。これお詫びの印ってことでどうぞ」

そういってミントを差し出してきた。

「ねえ、僕ってそんなに口臭いの?」

「いや、そんなことはないと思うけど…これ美夜が買って来たんだけど…」

「それを早く言ってくれよ!ありがとう!」

彼から奪い取る。

“よかった。昨日は緊張していただけなんだ。人づてに渡すほどシャイだなんてかわいいなあ”

そう思いながら口にミントを入れるが、その瞬間に吐きそうになるほどの甘さが口全体に広がった。

“こ、これは!まさかあの男が僕をはめるために我流さんのプレゼントと偽って…絶対に許さん!”


一方そのころお詫びのミントを渡して安心した朝雪は美夜に渡したことを伝えていた。

「ありがとう、雪。」

「良いって。でも、かわいそうだから今度からあんな言い方しちゃだめだよ。」

「あいつ勘違いやろうだからいいと思うけどね。正直雪に言われなきゃ絶対に誤らなかったし。」

美夜は笑いながら答えた。

「雪も食べる?」

そう言いながらチョコレートを差し出した。

「いや、甘すぎるからいいや。美夜ってよくそんなもの食べれるよね?」

「雪は甘いもの苦手なの?おいしいけどな~。」

そう言いながら幸せそうにチョコレートを食べる美夜をやれやれといった表情で見る朝雪は心の中でそっと思った。

“だってそれ甘さがトップクラスで我慢大会に使われてるやつだよ。よく食べれるよね。ホント。”


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