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俺だけの、時止め機  作者: 永峪侑
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第一章 時を時として(1)

 俺の名前は時定秤ときさだめはかり

 何処にでもいないような、馬鹿げた高校三年生だ!

 とか、世の漫画よろしく、小鳥の囀りと共に起床して、それからもたもたと自己紹介をしている隙は俺にはない。大体、自己紹介というのが、俺にとっての嫌悪事項でさえあるし、時間の無駄だとさえ感じてしまう。

 俺はいつものように剛速球で、自転車を飛ばして高校に向かう。

 どうしてそんなに即急に登校するのかというと、勿論勉強をする為――とかではなく、普通に女の子と楽しく談笑する為である。

 あ、一応宣言しておくけど、俺の性別は男だ! 近年ではよく女であっても『僕』『俺』という一人称を使ったりする奴がいて、それは多分色んなアニメの影響を受けているからとか、普通という概念を嫌う者が増えてきたとか、そんな様々な要因があろう。

 でも、俺はそういう女子とは一度もあったことは今までなかったし、これからもいないだろう――もしもそんな女がいれば、俺は真っ直ぐに嫌うしな。

 おっと、色々と話が逸れてしまったので、そろそろ本題に移ろう――どうして俺がそんなに急いで学校に出向いて、女の子とお喋りをしているのかについてだ。

 先に言うけど、俺は男の友達がいない――一人も、存在しない。

 男とおいう生物と一緒に仲良くなりたくないとか、そんな思考があるからではなく、ただ単純に……

 そうしなければならない事情があるから、ただそれだけだ。

「お前何言ってるの?」とか、そんな感想を抱いている読者も多いだろうが、しかしそれでもそれだけは追々説明しよと思う。今話すべきことじゃない。それこそ時間の無駄。

 しかし、一つだけは言っておいていいような事も、勿論ある――俺は時間という観念に寛容なのかどうか、それに対する返答はノーだ。

 時間は人間界において最も得やすく、最も失いやすい、そんな自然的所産物なのだから、甘く見てはいけない――時間を甘く考えてはいけない。

 それは『時の支配人』としての――

 それは『時の従属者』としての――

 性なのだ。


 そうこう聊かくだらない持論をしていると、もう俺は学校に到着していた。

 いつもの黒野巣高等学校である。非常に真新しく設備も立派で最新、そんな何処にでもないような新築高校だ。

 そんな俺が毎日通っているこの高校では、しかしその綺麗さ故に一つだけ怪談がある。

 ここ周辺に住んでいる女子から聞いた話によると、

 ――この後者には夜な夜な、新しい美男子が訪れる――

 それが果たして怪談だの怪異譚だのかどうか、判別つくはずもないけれど、俺はあんまり信じてはいなかったけれど、でもいるものはいるらしい。

 目撃情報も多数あるらしいし、ひょっとしたら、俺の視点が、頭がおかしく狂っているだけかもしれないんだし……

 大体、その『新しい美男子』という表現(直喩なのか隠喩なのかも知らん)が先ず持って変な気がするし。

「あのさ。いきなり冒頭から気持ち悪いこと言わないでよ。この小説のクオリティーだ落ちたら、私にどう責任とってくれるの、秤くん?」

 と、まるで俺の心を読んで解いたかのように、いきなり隣に近寄って来たのは、同じクラスの白野癒さん。

 前に言ったけど、俺は女としか話さない主義――義務があるので、彼女はその内の一人に所属している。

 白野の今日の制服姿、それにリボンの結び目、顔立ち、容姿は平生通りではあるけれど、しかしよく見てみると、長く伸びた髪の毛を後ろで二つにして束ねていた。

 彼女は名前の通りに(いや、名前とか関係なしにだけど)白髪金眼で、滅茶苦茶可愛い、程好い香りのする香水を身に纏った奴だ。

 ちなみに白野は有名ラノベ作家でもある。

「おい、何でお前に影響があるんだよ? 大体、お前は人気ラノベ作家だからって、何でもかんでも物語を書こうとするなよ? ちゃんとSFを書けよ」

「はあ? あんた馬鹿じゃないの?」

 彼女はまるで俺を侮辱するかのような表情で言う。

「まあ俺が馬鹿だって言うのは否定しない。でも、お前も馬鹿だ。もっと面白いラノベを書けないものか? どうしたって、お前の作品を読んでも、これって確か一ヶ月前に学校であった出来事を題材にしてるなあとか、思っちゃったし」

「別にいいじゃない! ここは小説の舞台なのよ! ここが神聖なる舞台なのよ! 主人公だって別にあんたじゃないんだし、構わないでしょっ!」

 白野は無自覚な風で、言い張るばかり。

 全く、困った奴だな、おい……

「はあ……別にもういいよ。もっと楽しい、現実離れしたもん書け」

「嫌よ」

「即答するな! なんかこう、『人間が欲しているけど手に入れられない産物』を物語に入れるとか」

「人間が欲しているけど手に入れられないもの? たとえばタイムワープとか?」

「ぶっちゃけつまらんよ、そんなありふれた話」

「ありふれてはいないでしょ!」

 白野はまたしても俺という存在を反論する。

「でもね実際、私だって時間がある訳じゃあないんだよ……締切りに迫られる――時間という不可逆空間に支配され、ただ服従する、そんな日々なんだよ……」

「あらそ、それは頑張ってくださいませ、有名ラノベ作家――白野先生」

 つーかさ、これもまた愚痴なんだけどさ、最近ってラノベ作家がストーリーラインに組み込まれてることが多々ある気がするんだけど、それって気のせいなのか?

 色んな小説がアニメ化されているこのご時世ではあるけれどさ、なんだか主人公がラノベ作家だったり、そういうの多くない? 俺の考えすぎかもだけどよ。

「でも確かに、私の前作でもヒロインがラノベ作家だったんだよ? てか、私の作品読んだ?」

「ああ一応読んだ。最後泣いた」

「え、嘘っ! そんなに泣けた?」

「うん」

 そこも自覚なしかよ。どう考えても、お前が書いた著作物なんだから、そういう設定というか、そういう感情的感動シーンじゃなかったのか?

 まあいいや――人の考えてる事なんか、碌に分かる物ではないしな。

 それは時を止めても同じこと――って。

 時を、止める?

「どうしたの、急に真面目な顔になって」

  と、俺の心情を見兼ねて白野は問う。

「いいや、何でもねーよ」

 そうしている内に、教室に辿り着く――何の変哲もないはずの、この3年3組に――


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