『重力女子はにこやかに』
チャイムが鳴り終わったと思えば再びチャイムを聞いていた。
駄目だ記憶カット全然慣れねえ。
この学校は大体15時半に帰りのホームルームが終わり帰宅することになる。
なので15時半から家に強制的に戻される21時までが主人公が自由に動き回れる時間だということだ。
そういえば言い忘れていたが休み時間は12時から13時までの1時間である。
長くない?
それはさておきこのゲームにおけるデートというものに説明させてもらおう。
デートイベントが起こる条件は『自分がヒロインを誘う』か『ヒロインにデートに誘われる』かの二パターンである。
このゲームでは数日後のデートの約束のようなことは不可能であり、デートの約束をするとその日にデートが実行されることになる。
行先や何をするかなどは自由に決めることができる。
公園を散歩するとか、ゲームセンターで遊ぶとか、家でゆっくりするとか、遊園地に行くとか、ラーメンを食べるとかエトセトラエトセトラ。
どのヒロインともどこにでも行けるので結構自由度は高いのかもしれない。
もちろんそれぞれのヒロインには好みがあり、場所によって好感度が結構変わってくるのでデートをするときにはしっかりとヒロインの情報を世界に貰っておくことをお勧めする。
「尾崎君!ちょっといいかな?」
……まだ説明の途中だったんだが。
「なにかな?合想さん」
「あのね、もしよかったらなんだけど……これからデートしない?」
頬を赤らめて少しうつむき気味にデートの誘いを投げかけてくる佳那。
すっごい、恋愛ゲームしてる。
合想佳那。
ヒロインの一人。
茶髪でショートの女の子、いつも笑顔を欠かさないクラスのムードメーカー的存在。
運動は得意だが勉強は苦手で特に数学は赤点すれすれの学力らしい。
料理の腕は平凡でたまに塩と重曹を入れ間違えてしまうようなおっちょこちょいさも兼ねている。
周りの友達に将来の夢は大好きな人のお嫁さんになることとか言っちゃうタイプ。
多少愛が重い節があるものの、ある程度の理解はあり一番なんとかなりやすいヒロイン。
正直他二人のヒロインが印象強すぎてあまり話題にされにくい佳那だが、もちろんこのゲームはそんな甘いものではない。
佳那の特徴は通称『断罪カウンター』。
仏の顔も三度という言葉があるがまさにあれを表現したような女子である。
別名『強制終了と歩く女』とも言われる、このゲームで唯一最終日である7月31日を待たずしてこのゲームを強制的に終わらせることができる存在だ。
そもそもこの朱い春ではどこぞのときめき的な記念のように長い間ヒロインを放置しておくとろくでもないことが起きる。
某ゲームではヒロイン全員の好感度が落ちるだけだがこのゲームはそんなもんではない。
朱い春ではそれぞれのヒロインに『最低でも○日に一回はデートしなければならない』という日付が決められているのだが、佳那の場合はそれが存在しない。
ならば放置したって問題ないのではないかと思った朱い春初心者はまだ甘い。
佳那は他のヒロインに対してデートに誘ってくる回数が非常に多い。
しかし佳那は理解ある女の子である。
1度や2度デートを断ったからと言って佳那のメインウェポンである出刃包丁が振りかざされるわけではない。
ただし3度目はダメだ。
翌日に佳那の家に強制連行され、出所不明の証拠写真をたたきつけられ、佳那による包丁での断罪が決行される。
エンド名はそのまま『断罪エンド』、佳那を放置して他のヒロインにうつつを抜かしたものの末路である……
真倉氏ね。
なおヒロイン全員の誘いを無視し続け、誰ともデートを行わなくても佳那は証拠写真を持って来る模様。
それでもほかのヒロインと違い、自分から誘いに行く必要がないうえ2回はデートをキャンセルできる優しさを兼ねているので朱い春にしては温情のあるヒロインである。
「尾崎君?」
「ごめんごめん、誘ってもらえてうれしかったから放心してた。喜んでその誘いを受けるよ」
「本当!?嬉しい!」
満面の笑みを浮かべ喜びを表現する佳那。
本当に喜んでいるんだなと思うと、破局エンドを目指していることに少々罪悪感がわいてくる。
それでもヒロインの個別ルートに行こうという気は微塵も湧かないのだが。
「それじゃあ早速行こうよ!どこに行く?」
「そうだね……」
彼女は感情が表に出やすいタイプなので世界に聞かなくても好き嫌いが結構わかりやすい。
さらにあまりにも佳那が嫌いな場所に行こうとすると普通に断られたりする。
このため佳那の好感度は一気に下げることができないものになっている。
好感度を下げる前提のお話になっているのが悲しいが、破局エンドの条件に好感度が一定より低いというものがあるので仕方がない。
ちなみに破局エンドの他の条件をクリアしていても好感度の高いヒロインがいると断罪エンドになるので注意が必要だ。
話が少しそれたが佳那が好きな場所は体を動かせる場所である。
バッティングセンターやボウリング場といったスポーツができる場所、公園などが好きである。
というか正直な話一緒に散歩をしているだけで好感度が上がるので本当に好感度が下げづらい。
愛されてるー。
「じゃあ図書館なんかどうかな」
「図書館かあ……」
「あれ?駄目だった?」
「ううん、いいよね図書館!私も行きたかったんだ!」
一瞬いやそうな表情を浮かべるもすぐさま笑顔に戻り肯定の意を示す佳那。
あれ、心が痛い。
これがもしかして良心?
あいにく良心と共倒れになる気はさらさらないので行先を変えることはない。
断られない範疇で一番好感度が下がるのがこの図書館だ。
佳那曰く『本を読むのはそんなに好きじゃないし、走ったら怒られるから好きじゃない』だそうで。
小学生かな?
図書館までの距離は学校からもそこまで遠くなく散歩による好感度上昇も抑えられるので一石二鳥である。
学校から出て図書館を目指す。
このゲームでは移動中の会話のような凝ったことはないので適当に歩けば
「ねえねえ、尾崎君」
「え゛」
「どうしたの?」
……おいおい、いつの間にアプデ入ったんだ?なあ。