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『チュートリアルに近いもの』

6月29日の午前5時

俺は自室のベッドで目を覚ます。


つい先ほどまで唐突な告白シーンを体験していたはずだが、頷いてから今目を覚ますまでの記憶はない。

理由としては佳那の告白がプロローグのようなものであり、本来のゲーム開始である今日6月29日までの描写がゲーム内でされていないからだろう。

ちなみにあの告白シーンは6月24日の放課後という設定らしいので4日ほど記憶が消し飛んでいることになる。

非常に不安になる状況だがゲーム内で描写がない以上、特に何もなかった日々を過ごしたと思うしかない。


朱い春の主人公は平日だろうと休日だろうと必ず午前5時に目を覚まし、午後10時に眠るという微妙に規則正しい生活をしている。

注意点としては午後9時には不思議な力で強制的に家に帰ることになり家から出られなくなることだろうか。

ちなみにだがこの不思議な力というのは『なんで9時に強制的に家に戻されるんですか?』という質問に対し、ゲームの開発者が『不思議な力でです』と返したという話が元だ。


などと非常にどうでもいい話を考えながら制服に着替える。

2,3年ぶりに着ることになった制服は少し窮屈だった。

体が痛くなりそうだと気を落としたが、学生時代を思い返せば案外制服の着心地なんてこんなものだったのかもしれないと思い始める。


制服に着替え終えた後、ゲーム内で主人公が食事をしている描写がほとんどなかったことを思い出す。

試しに冷蔵庫を開けてみるときれいさっぱりすっからかんであった。


ここで主人公が何も食べなくても大丈夫な体の持ち主なのか、それとも単純に描写がされてないだけで食べないと餓死するのかという疑問がわいてきた。

正直な話このゲームには死という概念が普通に存在しているので後者の可能性が高い。

というかそもそもデートシーンでは女の子と一緒に食事している描写がちらほらとあるのだ。


ならなぜこの冷蔵庫はすっからかんなのか。

大方一人での食事の描写がない影響が悪い方向に出たとみて間違いはないだろう。


せっかく死人を出さないルートを進もうと躍起になっているというのに、関係ないところで一人俺が餓死してしまっては元も子もない。

何かしら食材を入手したいところだが現在の俺の所持金はせいぜい3000円ほどだ。


なのでここは救済処置を使わせてもらうとしよう。


朱い春というゲームをするにあたっての基本中の基本、『内職』のお時間だ。


『内職』だなんて名前をしているが別に造花を作ったり封筒を作ったりするわけではない。

主人公の家でできる簡単にお金を増やすための裏技、通称『内職』だ


攻略Wikiの『朱い春の基本』のページにこのような文章がある。


『朱春初心者でもできる!簡単内職法!』

①家にあるダイヤル式の金庫を開ける。

②金庫に所持金をすべて入れ扉を閉める。

③一度家を出てすぐに戻る。

④家に戻るとなぜか金庫に再びカギがかかっているのでもう一度金庫を開ける。

⑤中に入れたお金が2倍になっているのでそれを回収し金庫を閉める。

⑥もう一度家を出てすぐに戻る。

以下①~⑥を繰り返すだけ!

これであなたもお手軽石油王!


いろいろと胡散臭い文章ではあるがちゃんとお金はガンガン増える。

目指すエンドによってはこれを使わないとまず無理なものもあるという超重要テクニックである。


注意点としては②の時に所持金をすべて入れないと、増えるどころか入れたお金が消滅すること。

あとは②の時に5,000,000円以上のお金を入れると逆にお金が減ることだろうか。


前者の理由は不明だが、後者はこのゲームの最大所持金の9,999,999円を超えた影響でオーバーフローしているのではないかと言われている。


「みさひさみごひよみにっと、オーケー変わってないな」


ちなみにこの金庫の開け方は世界という名前の友人とある程度仲が良くなると、先ほどの平仮名の羅列で教えて貰える。

朱い春初心者はなぜ友人がそんなことを知っているのか間げる羽目になるが、それなりにやっている俺のような人間からすれば『さすが世界』という適当な理由で説明が付く。

そういうキャラである、さすせか。


世界についてはどうせ今後お世話になるのでその時にもう一度説明する。


そして俺は7時まで内職を繰り返し所持金を6,144,000円まで増やすことに成功した。

一応やる気になれば9,999,998までは増やせるがとりあえずこんなもんでいいだろう。


俺は急に重くなった財布を鞄に放り込み、学校へと向かった。


はずだったが気付けばすでに休み時間である。

度重なる記憶カットに頭痛を覚えるが仕方ない。

理由としてはこのゲームに登校中、授業中のイベントはほぼ存在しないせいだろう。

どのような授業風景なのだろうかといろいろ想像していたのだが、まさかここでも記憶のオールカットが入るとは衝撃だ。

いろいろと精神が不安定になりそうな状態だが、気にしたところでどうしようもないので慣れるしかない。


学校の休み時間にできることは大まかに分けて三つある。

一つ目は学校内の散策だ。

休み時間中は学校から外に出られない代わりに学校内であればどこにでも行くことができる。

屋上でも校長室でも生徒指導室でもどこでも入ることが可能だ。

しかしこれほど多くの場所が作られているというのに、その中でイベントまたはできることがある場所はせいぜい7か所ほどだ。

労力を割く場所を明らかに間違えている気がしないでもない。


二つ目はちょっとした買い物だ。

購買部で文房具類、食堂で食事、自動販売機で飲み物を購入できる。

ちなみにゲーム内では食事は何も意味のない行動だった。

一応ヒロインに対して好感度上げとして使えるが、学校内でヒロインと会うなど自殺行為なのでやめたほうがいい。


そして三つ目はヒロイン、または知人との会話だ。

友人や別にそこまで仲がよさそうではない連中をひっくるめて『知人』と言われているが、簡単に言えばこのゲームにおけるお助けキャラである。

どうせ破局エンドを目指すにあたって全員と接触することになると思われるのでここでの説明は割愛する。


そしてヒロインとの会話だが、先ほども言った通り基本は自殺行為なのでやめたほうがいい。

細心の注意を払えばデートの約束ぐらいはできるので、それくらいだろうか。

なぜヒロインと喋ることにすら注意が必要なのかツッコむような人はさっさとこのゲームを質屋に売り飛ばしたほうがいい。

多分ストレスで死ぬ。


とまあいろいろ言わせてもらったが結局今俺は学校内の自動販売機の前にいる。

というのも朱い春における三大廃人要素の一つ『世界の毎日ドリンク』をやろうとしているからだ。

廃人要素と言われるだけもあり難易度は相当高めだが、せっかく破局エンドを目指すのだからこれはやっておきたい。

自動販売機でいちごミルク二本、スポーツドリンク、おいしい水、サイダー、缶コーヒーを購入し教室に戻る。


教室に入った途端中性的な顔をした白髪の……男子がこちらを見てほほ笑んだ。

俺はそいつにいちごミルクを一本投げ渡し、話しかける。


「よう世界、俺からのプレゼントだ」

「ありがとう真倉君、これは惚れちゃかもね」


よく言う、世界を惚れさせるのにどれだけ労力がかかると思ってるんだ。


「なんとなくこれが飲みたいんじゃないかと思ってな」

「ふふ、さすが真倉君。いや、君は本当は真倉君じゃないのかな?」


おっと、さすせか案件か?


彼が、いや、言ってしまってもいいか。

一応ネタバレになるので注意。

彼女・・こそが正ヒロインと名高く、中に人が入っているとまで噂されたNPC。

糸守世界である。

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