表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

『トラウマは役に立つ事もある』

公園デートとはなかなか幼稚だなと思ったやつは前に出て来い。

そのふざけた顔面を殴り飛ばしてやろう。


というのはさすがに冗談だが一応否定はさせてもらおう。

朱い春で言う公園というのは、かなりのデートスポットである。


設定資料集によれば春には桜が咲くらしいし、秋には紅葉が見られるらしい。

うん、時期が悪い。


まあ多少時期がずれている感は否めないが、それでも朱い春の公園はデートに使える。

なんてったって広いのだ、無駄に広い。

設定資料集いわく東京ドーム1.5個分。

何でこんなに無駄に広いのかは誰にもわからない。

開発者Aさんも『知らん』って言ってたし。


そんなこんなで結構しっかりめの遊具があったり、ピクニックに最適な草原があったり、アヒルさんボートが借りられる池があったりとデートにはぴったりなスポットなのである。


実際佳那と絃は普通に好感度が上がる場所だ。

ゆめはどちらかというと室内施設や体を動かさない場所が好きなので、どちらかといえば嫌いくらいなんだとか。


熱中症になるイベントもあったりするのでそもそも体が弱いのだろう。

だというのに相手が嫌がらないことをいいことに満点の青空の下公園デート、下種野郎では?


許してくれこれは君や俺が死なないために必要なことなんだ。

酷い話である。


たまには太陽の光を浴びるのも大切なんだよってことでどうだろう?

駄目?

そうですか。


「尾崎先輩」

「どしたの?」


そりゃあるよね、会話。

知ってた。


佳那だけとかならまだ嬉しかったのだが、どうやらこの世界は俺にデートを楽しんでもらいたいらしい。

あれか、お前今までリアルの女の子と付き合ったこと無いんだろうからデートさせてやるよっていう粋な計らいか。

ありがた迷惑で余計なお世話である。


基本的に物語において粋な計らいというものが主人公に本当に利益になった例を俺はほとんど見たことが無い。

お前の読んでる物語がそういうのばかりだからじゃねえのと言われればそこまでだが、案外共感する人は多いんじゃないだろうか?


女の子との会話は相変わらずまだ不慣れだ。

しかし俺は『女の子と話すために必要な7つのこと』を読んで少しだけ基礎を学んだんだ。

さあこいゆめ、お話をしようじゃないか。


「ゆめが死んだらどう思いますか?」


俺が思っていたお話と違う。

なんだカップルっていうのはまず最初にお互いの生死について語り合うものなのか?

暗くない?

そして重くない?


「あ!別に今すぐにゆめが死ぬっていうわけではないですよ?」


本当かな?

本当に死なないのかな?

今死んだら死因は好感度と時期的に焼身自殺だよ。


ちなみにこの焼身自殺が見られるのは7月3日までに好感度が中程度から低めの状態で負傷ゲージが溜まった場合なので、わりと出しにくい死亡シーンだったりする。


やらねえけどな!

誰が好き好んでヒロインが燃える姿を見ようと思うんだよ。


「この前孤独死して悪霊になりかけている方とお話したときにふと思ったのですよ」


いろいろと衝撃的なことをなんでもないかのように言っているが、今のセリフの通りゆめはかなり霊感強いという設定がある。

幽霊が見えるだけではなく幽霊と話すことができるといえば相当な事だとわかるだろう。

掲示板では『幽霊に仲間だと思われてそう』やら『実は最初からゆめは死んでるのでは?』など散々な言われようをしていたが、真相は不明だ。


「霊感があるの?」


俺は知っているのだが、尾崎が知っているとおかしいので質問する。

するとゆめははっとした表情になって言う。


「そういえば尾崎先輩には言ってませんでしたね……引きましたか?」

「いや、霊感って言うのは一種の体質みたいなものだし引きはしないよ」

「そうですか?尾崎先輩はそうかもしれませんけど、普通ちょっとは気味悪がったりするものですよ?実際そういう人が多いですしね」


普通気味悪がられるような事をぺらぺらと何の気なしに話したのは誰だよ。


「じゃあ俺が普通じゃないってことでいいだろ」

「おー!尾崎先輩はいい人ですね!」


逆説的に言えばいい人は普通じゃないということか。

普通っていうのもよくわからないものである。


「あ、噂をすれば」

「え?なに?悪霊間際の幽霊がその辺にいるの?」

「もう悪霊化しちゃってますね、もうあの方には言葉が届きません」

「悪霊化してるの?ここにいて大丈夫なの?」

「悪霊にもいろいろありますからね、あの方は霊力も強くないですから特に問題ないと思います。そもそもあの感じではもって後5分といったところだと思いますよ」

「へえ」


生憎俺には何も見えないからなんとも言えん。

むしろゲームのときよりもゆめが饒舌になっている事のほうが気になる。

別にそんな設定は無かった気がするから、幽霊と話しているうちに喋り慣れたとかだろうか?


「そういうわけで尾崎先輩はゆめが死んだらどう思いますか?」


おおう、話題が戻ってきちゃったな。

まあ適当に無難な回答を……


しまった!

好感度下げに勤しむのを普通に忘れてた!

なんか普通にゆめとの会話を楽しんでた!

恐るべし朱い春!

恐るべし歌方ゆめ!


はい、ただのうっかりです。

本当に申し訳ございませんでした。


改めて好感度をそれなりに下げる事ができそうな返答を考えよう。


……うん、無理では?


いや無理だよ。

だって質問が『ゆめが死んだらどう思う?』なんだもの。


模範的回答は悲しむだろう。

というかこれが当たり前で他の感情を抱くのがおかしい。


好感度を下げるとすれば?


何も思わない?

屑野郎か。

彼女が死んで何も思わない男がいるのならばそいつはとんだ屑だろう。


喜ぶ?

サイコパスか。

そもそも人が死んで喜ぶやつがいたらそいつを精神科に連れて行くことをお勧めする。


失望する?

アカハラーか。

ゆめ死んだ!またやり直しだ!ってなるのはゲームだけだ、残念だが今はセーブもロードも無い。


駄目だこの質問俺に人間としての良心と常識がある限り絶対好感度が上がるようにできてる。


仕方ない、ここは諦めるとしよう。


「当然だけど悲しむよ、というかむしろ悲しまないほうがおかしいと思うけどね」


するとゆめはなぜか一瞬無表情になったが、次の瞬間には見間違いだったかのように元の表情に戻っていた。


「それもそうですね。すいません馬鹿な質問しちゃって!」

「うん?いや別にかまわないけど」


んん?

なんだろう?

今回は普通にゆめの意図が読み取れない。


……まあいいか、そこまで好感度に変化があったわけでもなさそうだし。


こういうときはやっぱり世界の読心術がうらやましくなるものだ。

土下座して頼み込めば教えてもらえるだろうか?


「公園着きましたね」

「そうだね、じゃあかるーく散歩でもしようか」

「はい、そうしましょう!」


ゆめはにこやかに笑っている。

だが内側でどんな感情が渦巻いているのかわからない。


案外人のことをよく見ているゆめの事だ。

ゲームと違う俺に気付いているのかもしれない。

何らかの違和感を抱いているのかもしれない。


これが後々面倒な事にならなきゃいいがと、余計なフラグを建てていこうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ