『取り扱い注意報発令』
「君が歌方さんかな?俺に何のよう?」
今日こそテンプレどおりにイベントを終わらせたい。
ただでさえゆめは傷つけずに好感度を下げるという面倒なことをしなければいけないのだ。
変なイベント巻き起こして即死されても困る。
本当に下手すれば即死してもおかしくないから困る。
困る。
「あのですね、えーと」
盛大に目が泳ぐゆめ。
緊張してるんだろうなと思いつつも今ここで話しかけると思いっきりイベントが変わるので我慢。
ごめんがんばって、俺の出番が来たらちゃんと喋るから。
「そのですね、えーっと」
どうしよう、ゆめちゃんしどろでもどろで挙動不審。
ゲームでは告白イベント中に負傷ゲージがたまることは無かったのだが今は現実。
ストレスで吐血したってなんらおかしくはない。
「あの!ゆめのこと覚えてますか!?」
来た、俺のセリフ来た。
「えっと、ごめん。どこかであったっけ?」
思いっきりゆめを傷つけてしまいそうなセリフだが、尾崎はこのタイミングでゆめのことを本当に覚えていない。
ちなみに好感度を上げていく最中にこれがなんだったのかを聞くことができる。
ゆめ曰く
『小学校のころに命を救ってもらったことがあるんです』
とのこと。
そのときの場面がイラストで出るのだが、現在のゆめと見た目がさほど変わっていないロリゆめの手を尾崎が引っ張って走っているイラストとなっている。
実際これだけではどういう危機的状況なのかよくわからなかったのだが、設定資料集に詳しく記されていた。
『ゆめは小学生のころ誘拐されそうになっているのを尾崎に救われた過去があります。』
何でそんな結構な事件をこの男は覚えていないんだ。
ゆめの姿ほとんど変わってないんだぞ。
小学生で成長止まったんだろうなって言うくらい変わってねえんだぞ。
まあ覚えていないものは仕方ない。
そういうストーリーだ。
ツッコミを入れるのものも無粋だろう。
「そうですか……いえ!大丈夫です!」
「大丈夫なの?それで結局俺に何の用が?」
「……尾崎先輩!」
「はい?」
「高校が一緒だと知ったときには運命だと思いました!ずっと前から好きでした!どうか付き合ってください!」
案外男らしい告白である。
ずっと前から好きだったのに高校知らなかったのとか言ってはいけない。
「もちろん、だめなら断ってもらって大丈夫です。そのときはすっぱりと諦めますから」
ここでゆめと付き合いますかはいいいえの選択肢が、まあ現実だから今は出ないけど。
ひとまずゆめの攻略よりも他二人の攻略が格段に楽な理由をここで説明しよう。
このゆめの告白イベントは絃のときと同様、断ることが可能だ。
絃の場合は重度なストーカーと化すので悪手なのだが、ゆめの場合は違う。
ゆめは先ほどのセリフ通り告白を断られればきっちりかっちりすっぱり諦めてくれる。
そして来世にワンチャンかけるのだ。
……うん。
ゆめは告白を断られると自殺する。
ゆめを振って告白イベント終了後、再び1年Bクラスに入るとゆめは首を吊っている。
教室を出て瞬時に教室に戻っても首を吊っているので、ゆめは時空を歪められるのではなんてネタもあるがそれは置いておく。
どこから下がってるのかわからないロープ、蹴飛ばされた椅子、この世のすべてに絶望したかのような表情、そして背景の黒板に赤いチョークで書かれた『来世はきっと』という文字がよりいっそう恐怖を書き立てる。
初見はなかなかトラウマものなのだが、これは教室に入らなければカットされるシーンなので問題ない。
ゆめが死ねば他ヒロイン二人に集中できるので難易度が下がるというわけである。
逆にゆめエンドを見たい場合は少し手間だが佳那といるときに絃ロールに引っかかればいい。
同じ原理で佳那に対応する必要がなくなるので難易度が下がる。
まとめると佳那よりもゆめのほうが排除が楽である上に、ゆめの好感度操作が単純に難しいということが他二人のヒロインよりも難易度が高いとされている理由である。
結局何が言いたいかといえば誰一人死者を出さずに三人のヒロインを相手しなくてはいけない破局エンドの難易度が異常だということだ。
ファッk、いやこれはやめとこうさすがに怒られる。
ちなみにゆめが死んだ後では、未だにバグなのか仕様なのかよくわかっていない『幽霊ゆめ』といわれる現象が起きる。
まあ攻略には直接関係ないので説明は省かせてもらう。
「もちろんいいよ、付き合おう」
ここで尾崎スマイルが炸裂、うまく笑えていると嬉しい。
信じられるかこの男3股しようとしてるんだぜ。
理由は死人が出ないため、ここまで命の懸かったの浮気も珍しい。
一瞬の驚愕の表情から瞬時に涙を流すゆめ。
普通だったら余裕で負傷ゲージが2か3くらい溜まるレベルの幸福なのだが、ゲームで告白イベント中は負傷ゲージがたまらない仕様だったので多分大丈夫だろう。
「本当ですか?本当にいいんですか!?」
「断る理由もないからね、むしろ俺もうれしいよ」
尾崎、お前はもう少し悪びれろ。
ここに佳那が現れようものなら即効で出刃包丁の錆と化すぞ。
「ゆめも嬉しいです……本当に、本当に夢みたいです!」
ゆめが夢とか言わないでくれ、頭が混乱する。
原作通りのセリフなんだが、やはりどうもこんがらがるセリフだ。
正直同じことが世界にも言える。
この世界の説明をしようとすると世界の説明をしているように思えてもはやどっちの世界だか、いかん意味わからん。
おのれ朱い春開発陣。
「……あの、尾崎先輩」
「なんだい?」
「この後予定ありますか?」
「特に無いけど」
「それならこれから一緒に出かけませんか!?」
「うん、構わないよ」
「よかった!それじゃあどこに行きますか?」
ここもゲーム通り。
ゆめの告白を受けると、そのままゆめとのデートイベントに繋がる。
選択肢も無く断ることができないので変に他ヒロインとデートの約束を入れておかない事。
さて、これからゆめとのデートなわけだが前も言った通り、ゆめはデート先が好みじゃない場所だと負傷ゲージが溜まる。
バッティングセンターとかスポーツジム、テニスコートなどは目に見えて負傷ゲージが溜まるのでわかりやすい。
序盤からそんなに負傷ゲージをためるのは得策ではないので、とりあえずは負傷ゲージも好感度も上がりにくい場所から攻めるのだ。
「公園に行かないか?」
「公園ですねわかりました!じゃあ早速行きましょう!」
ゆめそこまで公園好きじゃないはずなんだけど、本当に表面に自分の意見を出さないな。
尾崎の前では絶対にマイナス方面に態度を変えないという強い意志を感じる。
佳那でさえ一瞬ためらったりしているというのにな。
感情も表情も全部表面に出る佳那。
表情は変わらないがわりと感情が見える絃。
表情豊かだが感情を表に出さないゆめ。
三者三様のヒロインだ。
個人的には絃よりもゆめのほうがロボットっぽいと思っているタイプなのだがどうだろう。
異論は認める。
「尾崎先輩?」
「ああ、ごめん。それじゃあ行こうか」
「はい!」
さあ夢のゆめとのデートだ。
ここからはゲームの情報だけには頼れない。
俺のアドリブ力とコミュニケーション力、後はなんだろう。
気合とかそういう系統のものが試されるデートのお時間だ。
作者の完全な裏話(物語には関係ありません)
『糸守世界』という名前はいろんな意味で失敗した名前。
そもそもの名前の由来はタロットカードの運命の輪と世界から
運命の輪は糸車だとどこかで聞いた気がしたから『糸』の文字をつけたが
いまさら調べてもそんな情報は出てこなかった。
『守』は糸と並べて適当に苗字っぽいからつけたのだが
後々調べたら某有名アニメに町の名前として出ている始末。
そして何よりも作中で主人公が軽くメタめな発言をしている
世界(名前)と世界(ゲームの世界)のややこしさ
『糸守世界という人』などで結構わかりづらい発言をしている他
結構表現に困った場所が何回かあった。
正直主人公やヒロインズのようにわかりやすいストレートな名前にしとけばよかったと思っている。
ごめんね世界、作中では結構優遇されてるキャラだから許して。