プロローグ
人のいなくなった夕日の差す教室。
俺はとある女子と向き合っていた。
「……君みたいなかわいい子が俺みたいな平凡な男を呼び出すとはどういう了見かな?」
俺は決められたセリフを緊張しながら話す。
「というか俺は君のことを知らないし、もしかして手紙を入れる下駄箱を間違えたんじゃないか?」
棒読みになってはいないか。
変に躓いてはいないか。
そもそもこのセリフは間違っていないか。
正直このイベントは久しく見ていなかったため、少しうろ覚えだったりする。
「気にすることはないさ、失敗は誰にだって」
「尾崎君!」
「はい?」
しまった、確かこのセリフには感嘆符が付いていたはずだ。
もう少し驚きの感情を声に表すべきだった。
しかし感嘆符のあるなしでストーリーが変わるほど世界がシビアではなかったらしく彼女は言葉を続ける。
「わたしは間違えてなんかないよ、尾崎君」
尾崎君。
そう、俺の名前は尾崎真倉だ。
このゲームは主人公の名前が変えられないから。
「こんなことを言って信じて貰えるかはわからないけど、わたしは君に一目惚れしたんだ」
一目惚れ、なんとまあ安直な理由だろうか。
他人を一目見ただけで惚れるなんてその人の中身を全く見ていないようなものだ。
そういえばこの主人公の容姿ってCGですらほとんど出てこなかったけどやっぱりイケメンなんだろうか。
「いきなり呼び出したりなんかして変な女だって思われてるかもしれないね」
普通そう思う、誰だってそう思う。
先ほど俺のセリフにあったがこの時点で俺は彼女の名前すら知らないんだ。
「でも好きなんだ、君が大好き。ううん、君のことを愛してる」
出たな通称『重力女子』の真骨頂。
愛の重さは作中一。
一目惚れしただけのよく知りもしない相手に迷いなく愛してると言い切れる女子。
「ごめんね、名前も言わずに話を進めちゃって」
目を光らせ100点の笑みを浮かべる彼女。
そして一時期脈絡のなさすぎる告白文として地味にコピペが流行ったあのセリフが来る。
「わたしの名前は合想佳那、お付き合いしてくれるね?」
俺は原作通りにゆっくりと首を縦に振る。
これから始まる地獄の一カ月を思いながら。
ここまで書いておいてなんですが作者自身この小説のジャンルがいまいちよくわかっていません。