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『生きるために薬に頼ろうと思う』

7月1日の午前5時

俺は自室のベッドで目を覚ます。


家ですることもないので早速学校へ……

ここの描写もういらなくない?


というわけで休み時間、ではない。


今日は登校時の下駄箱にゆめからのラブレターが入っているのだ。

そのせいか登校中すらカットが入らない現象に見舞われた。


ゲームでは家と休み時間の間にラブレター発見のイベントを挟むだけだったのだが、よくわからない変化がおきている。

まあ学校までの道のりは知っているから問題ないが。


せっかく時間があるので周りの景色を見ながらゆっくりと学校に向かうことにした。

今まではなんだかんだデートだったり荷物を持っていたり走り回ったりと慌しかったので、改めてこの町をしっかりと見たくなった。


いくらやばいゲームだとは言え、なんだかんだ俺はこのゲームが好きなのだ。

ゲームを完全に再現された町並み。

それを俺は主人公となって歩いている。


素敵な話だろ?


「確かに素敵だね」

「ん?ああ、世界か。お前は本当に神出鬼没だな、転移でも使えるのか?」

「さすがにそれは無理だよ、今日は勘が当たっただけさ」


勘が当たっただけというが、世界の勘が当たらないことは滅多にない。

というか世界の勘は勘というには正確すぎるのだ。


朱い春のことを大体知っている世界はさまざまな要因や自分の知っている情報を組み合わせて答えを導き出す。

だから勘というよりは推理に近いものだったりする。


「そうか、さすがだな世界は」

「1を聞いて10とか100とか知っちゃう真倉君もすごいんだよ?」

「それは俺を買いかぶりすぎだ」

「確かに100は言い過ぎかもしれないけど、真倉君の理解力は間違いないからね」


理解、理解?

違う、これはただ知っているだけだ。


「それなら僕も同じだよ」


違うんだよ世界。

お前がヒントを元に答えを導いてるんだとすれば、俺は答えをカンニングしているだけなんだよ。


だからゲームになかったことはわからない。

答えしか知らないから、答えが載っていない問題には答えられない。


「アドリブ力が欲しい……」

「真倉君は頑張ってるほうだと思うけどね」

「すでに結構失敗してるからなんとも言えないな」


正直佳那の走り出しはまあまあ失敗した感がある。

あれは初めてのデートイベントだったこともありいろいろと対応を失敗した。

もっと冷静に動くことができれば佳那の好感度の上昇を抑えることができたはずだったのだ。


「真面目に彼女の好感度を下げようと奮闘している姿って言うのは結構面白いものだね」

「地獄直通のハッピーエンドを知った主人公が、救いを求めてバッドエンド目指して奮闘するお話だぞ。そりゃあとんだ喜劇だろうよ」

「その説明だと喜劇って言うよりコメディって言った方が合ってる気がするかな」


四苦八苦しながら奮闘する男のなんと滑稽なことか。

できれば最後まで笑える展開で終わって欲しい。


「真倉君と話してると退屈しなくて良いね、もう学校に着いたよ」

「マジだ、いつの間に」


初期の目的だった町の景色の観光はあまりできなかったが、これはこれで楽しかったのでよしとしよう。


「そういえば真倉君が妙に卑屈なのには何か理由があるのかい?僕の知ってる真倉君はもう少しプラス思考なんだけど」

「ああ、これは元からの俺の性格だから特に理由はないな。あと朝弱いもんだから、妙に気分が乗りきらないんだわ」

「へー、それは知らなかったね」


世界は笑う。

知らない情報の存在が嬉しいのだろう。

こんな薄っぺらな情報でも喜ぶほど彼女は未知に飢えている。


俺が言うのもなんだが、相当哀れなやつだと思う。


「僕が哀れね、そんなことを考えたのは君くらいだよ」

「悪い、気に障ったか?」

「ううん?むしろありがたいよ。君は僕の内面を知ってそう思ってくれてるんだから」

「……そうか、お、あったあった」


下駄箱には昨日の茶封筒とは打って変わって女の子らしい色合いとファンシーな模様でいっぱいな封筒が入っていた。


「モテモテだね、真倉君」

「モテ期到来のようだからな」

「でも真倉君結婚線1本もないよね」

「マジで?」


……マジだ。

何でここだけつるっつるなの?

こんなのありえるのか?


「まあいいか」

「あ、いいんだ。あれ?ラブレター読まないの?」


丁寧に鞄の中にラブレターをしまいこむ俺を見て世界が言う。


「正直内容知ってるしな」

「一応読んどいたらいいじゃん。何か変わってるかもよ?」

「それは怖いな」


だが正直ありえないことでもないので封を開け手紙を取り出す。


『尾崎先輩へ

もしよろしければ放課後、1年生Bクラスの教室に来てください。

歌方ゆめ』


「オーケー、変化なし」

「そっか、ちょっと残念だな」

「俺としてはほっとしてるけどな」


というか変わっていれば変わっているほど俺の計算が狂う。


問題が変わっていることにも気付かずに間違った答えを提示する哀れな男。

コメディとしてはいいかもしれないが、生憎俺は笑いよりも安定を手に入れたい。


「ラブレターも読んだし、多分そろそろ俺は飛ぶぞ」

「うん、じゃあまた昼休みね」


昼休みである。


狙ってるんじゃないかって言うほどのタイミングで記憶カットが入ったがどうだろう。

神的な存在が存在しているのだろうか。


「あ、入ってるね」

「おう、そういえば渡すの忘れてたわ」

「わーいお汁粉だ、ありがとう。あれ?どこ行くの?」

「そろそろ薬を買っとこうと思ってな」

「ああ、屋久君か。やっぱり知ってるんだね」

「そりゃ必須級の情報だからな」


教室の廊下側で一番後ろの席に座る男子。

弁当を食べながら携帯を弄りつつ本を読むとかまあまあ高度なことをしてるなこいつ。


「何?」


話しかけていいものか迷っていたら向こうから話しかけられてしまった。


「んー、まあとりあえずお近づきのしるしにこんなのどうだい?」


俺は鞄から『2124649』を取り出し木浦の机に置く。


それを見て目を丸くする木浦。

やっぱりなって感じの表情を浮かべる世界。


「真倉君流石だね、先に手に入れてたのかい?」

「昨日買いに行ったんだよ。世界なら知ってると思うが、謎の液体水曜にしか売ってないだろ?そのついでにな」

「ああ、なるほどね」

「……いいのか?」


相変わらず何でも知ってる世界と話していたら、軽く放心状態になっていた木浦が復活したらしい。


「いいよ、他に使い道ねえし」

「ありがたい」


ゲームのときと変わらずあまり感情の変化が見て取れない男だが、まあ喜んでいるのだろう。


……そういえばゲーム時代はできなかったが、これもっとあげたらどうなるんだろう?


「ていうかあと7本あるんだけどいらねえ?どうせなら欲しい人に」

「真倉君真倉君」

「どうした世界?」

「屋久君死んでるよ」

「え?」


鞄から着々と残りの『2124649』を取り出していたら、木浦が白目をむいていた。


あれこれもしかしてバグった?


「いやたぶん普通に失神してるだけだと思うよ?」

「ええ?この飲み物は木浦にとってなんなんだよ……」


ちなみにゲームで世界に飲み物をあげると、その飲み物についてちょっとした感想を言ってくれる。

それによれば『2124649』は『強炭酸の入ったコーヒー的な物』だとか。

結局なぜ木浦が欲しているのかはよくわからない物である。


「……どうしようこれ」

「注文を紙にでも書いて置いといたらいいんじゃない?」


木浦から買えるのは惚れ薬、睡眠薬、毒薬といった三種類の薬だ。

さらにそれぞれに錠剤、粉末、液体の形状が存在する。


この薬だが基本的にはヒロインに飲ませるものである。

一応自分でも飲むことが可能だがほとんど意味が無いのでお勧めしない。


もちろんそのままヒロインに突き出しても当然飲むわけがないので、飲み物に混ぜて使用しなければいけない。


形状の違いにも当然意味があり錠剤、粉末、液体の順に薬の効き目が弱いものになっていく。

しかし佳那は錠剤に気が付き、絃にいたっては粉末まで気が付くため飲ませることができない。

なお、ゆめは普通に全部飲む。


つまり効果のいい錠剤はゆめくらいにしか飲ませられないのだ。


……と言いたいところなのだが、実は『絃的な失敗』と名づけられているバク技がある。

錠剤と液体の薬を両方飲み物に入れた場合、なぜか絃が普通に気が付かずに飲んでしまうというものだ。


開発陣曰くバグではないそうで、まったく修正されないバグ技である。

どう考えてもおかしいからバグだと思うんだが。


さて、気を取り直してお待ちかねの薬の効果の発表だ。

待ってないとかいわれても説明する。


惚れ薬はそのまんま好感度の上昇である。

個別ルートに進みたいのであればまあまあ使える。

特に絃に対して先述したバク技を使うと結構役に立ったりする。


睡眠薬は一定時間相手を眠らせることができるというものである。

デート中でイベントを起こさないようにできるが、きちんとタイミングを見計らわないと妙にイベントが重なってバグることがあるので注意だ。

他に佳那に使って一時的に好感度の上昇を止めるという使い方もあるが、正直あまり意味がない。

ちなみにこれが前に言った強制帰宅を阻止できるアイテムだ。

フリーズする上に特にうまみが無いからやらないけどな。


毒薬は相手の体調を崩させるものだ。

基本的な使い方はデートの中断である。

一部のデートでは使うことができないのだが、割と使い勝手のいい薬だ。

その代わり毒薬でデートが中断された場合は強制的に送迎することになるので、その分の好感度の上昇があることを計算に入れておこう。


睡眠薬と毒薬はあまり多用するとヒロインが飲み物を受け取ってくれなくなるのでほどほどにしよう。


といったものだ、ちなみにお値段一律25000円。

ぼったくり値なのか、必要経費なのか。


「仕方ねえからそれでいいか」


鞄からノートとペンを取り出し注文を書いて机に置いておく。

これでたぶん明日渡してもらえると思うのだがどうだろうか。


ゲームと違う展開なので正直どうなるかわからない。


「ずいぶん買うんだね、おっかねっもちー」

「まあそう褒めるなよ」


ていうかこれだけお金があれば自力で『2124649』当てにいけるんじゃないだろうか。

物欲センサーさんに仕事されなければだけどな。

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