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『はずれさんは語りたい』

「はずれさんなあ、はずれってあんまいい意味とちゃうやろ?わいやって外れより当たりのほうが好きやし」

「当たり外れじゃなくて、はずれにあるって意味だよ」

「わいからすればそれが大外れなんやけどな」

「まあ人来ないだろうしな」

「せやねん、ここに自販機があるっちゅうことすら知らん人も多いんとちゃうか?」

「まあその可能性は割とあるな」


全体マップにすら最初は名前が載っておらず、訪れることで初めて名前が記される場所。

それがこの廃墟と森でできた町はずれという場所である。


錆びれているというか荒んでいるというか、なんとも不気味な雰囲気漂うマップだ。

正直言うと死体遺棄に使われたり、スリが出たり、幽霊が出たりとガチで恐ろしいところである。


「なんでわいこないな場所に設置されたんや……」

「普通の場所だと設置許可が下りなかったとか」

「こないな素敵な自販機やっちゅうのにえげつない扱いやで全く」

「自画自賛もここまで行くとすがすがしいな」


素敵な自動販売機はこんなところに置かれないはずなんだよ。


「そんで自分は何しにここにきよったん?」

「飲み物を買いに来たんだよ」

「マジで?」

「いやまあマジだけど」

「……正気か?」

「はずれさんそんなこと言ってるから、ただでさえ少ない客を減らしてるんじゃねえの?」


卑屈がぶん回ってめんどくさくなっているタイプである。

友達に本当に俺のこと友達だと思ってる?って聞いちゃうタイプである。


ゲームでは結構いけしゃあしゃあとしていたはずのはずれさんも微妙に性格が変わっているらしい。

機械の性格っていうのはよくわからないけど。


「そうゆうてもな、わいが設置されてから今まで飲み物を買うてくれはったのは3人だけやねん。疑心暗鬼になるんもしゃあないと思わへんか?」

「いやまあわかるけどさ」


ゲームではこんな話はしていなかったから裏設定だろうか?

正直な話、設定資料集にすら載ってないはずれさんの裏設定なんて知る由もない。


「金取ろ思てバカバカ蹴ってきよるもんも結構おるしなあ」

「スリが出るような場所だしな……」

「あいつも客を減らしとる要因やろうな」


町はずれで歩いているとまあまあ高い確率で現れるスリの銅次というキャラのことだ。

被害にあうと所持金が半減するという結構鬼な仕様をしている。


とはいえ対処法は案外簡単である。

すれ違う前に一言声をかければいいだけだ。

それだけで怖気づくのか、それともやり辛いと思うのか。

とにかくスリの被害に遭うことはなくなる。


さらに身もふたもない話をしてしまえば、たとえ被害に遭っても家に帰って内職をすれば所持金は元通りだ。

なんか微妙に哀れな奴である。


いや容赦なく割合で所持金を持っていく犯罪者に哀れも何もないだろうとは思うが。


「ていうかそろそろ買い物していいか?」

「ええで、てかわい自販機やねんから話しながらでも買い物はできるやろ」

「いやなんか話の最中にいきなり買ったら失礼かなと」

「変なところ律儀やな」


本当のことを言うとゲームでは会話が終わらないと買い物の選択肢が出なかったからなんだけどな。

まあ正直に話す必要もないだろう。


「何買うん?」

「おでん缶とラーメン缶と謎の液体」

「割と買うてくれるやん」

「友達にこういうのが好きな奴がいるんでな」

「その友達ってゆうんはカラフルな髪したガラの悪い不良女か?」

「心当たりはあるがそいつじゃねえな」

「そんなら見た目真面目そうな眼鏡男か?」

「そいつも違うな」

「じゃあ全体的に白っぽい男女か?」

「あー、多分そいつだな。なんで知ってんだ?」

「さっき三人だけ買うてくれた人がおった言うたやろ?その三人やねん」

「そういうことか」


俺の予想が正しければはずれさんが挙げた三人は全員名前のあるキャラだ。


一人目は浦目椎奈。

主人公がゲームセンターに入るのを阻止してくるキャラクターである。

圧倒的なディフェンス力を誇り、彼女が滞在している間は絶対にゲームセンターに入ることができないといった謎の嫌がらせキャラである。

多分今回は会いに行くことはない。


二人目は木浦屋久。

同じクラスの男子生徒でありお助けキャラである。

金を払えばお薬を売ってくれる不思議な男である。

強制ダブルデートではこいつの薬を使わないと相当鬼畜な難易度になる。

というか薬を使わないでダブルデート突破というのが『朱い春と生きる』の条件の一つなので、薬前提の難易度なのだろうと思われる。

実際にそれを達成することができれば、かなり便利なアイテムが手に入るのだが今回はリスクが高すぎるのでお預け。

後々厄介になると思うのであいつの紹介はこんなもんで。


そして三人目はみなさんご存知糸守世界だろう。


今更考えてみれば確かに三人ともここに来ていてもおかしくない理由がゲーム内で出ていた。

木浦と世界はこの自動販売機に欲している飲み物があり、椎奈に至っては低確率で街はずれで遭遇できるというものがある。


ゲームでは特に説明されていなかったがそんな設定があったのか。

それともゲームで断片的にあった情報がつながった結果が今この状況を生んでいるのか。


卵が先か鶏が先かのような不毛な論争に発展しそうなので俺は考えることをやめる。


「ていうか男女ってなんだよ」

「男っぽい女やから男女や、そのままやろ」

「いやそうだろうなとは思ったが……ん?はずれさんなんであいつの性別知ってるんだ?」

「これでもわい一応機械やからな、そういうんはわかるようにできとるねん」

「ご都合主義もいいところだなおい」

「わいを作ったやつによれば購入層を調べるための機能らしいで?性別とざっくりとした年齢が分かるんや」

「なんでそんな最新鋭みたいな機能積んであるのに設置場所がこんなところなんだよ……」

「そんなんわいも聞きたいわ」


残念だがそれは朱い春製作者のみぞ知ることだ。


「まあええわ、用が終わったんならさっさと帰りや。いつまでもこんな場所うろついとったら変な奴に会うで」

「そうしたいところではあるんだがむしろこれからが本番なんだよ」


ゲーム唯一のガチャ要素だとか、下手したらデートよりも金使うとか、バランス崩壊と必須アイテムの宝庫だとか言われる謎の商品。

実際ぽつんと置かれた個人が管理してる自動販売機にたまにあるよねっていう商品。


「なんや、『ランダムドリンク』か?」

「ご名答、わかってるじゃないか」

「そらわいの人気商品やからな」

「人気なのかよこれ」


一本200円という案外いいお値段する『ランダムドリンク』。

全50種類の飲み物が出てくるとてもギャンブル性にとんだ商品である。

はずれさんが名前を付けられたのにはもちろん喋るからという理由もあるが、この商品を売っているからという理由も大きかったりする。


全50種類といったがそのうちの40種類は使い道が特にないただの飲み物だ。

世界にプレゼントして反応を楽しむくらいしかやることがない。

だが逆に残りの10種類がイベントの必須アイテムだったり救済処置アイテムだったりするのだ。


なお公式で提示されている確率によればその10種類の排出率はそろって0.1%。

こういうところもガチャとか言われる所以である。


「狙いは何や?」

「『キングスウォーター』と『sacrifice』だな。他は出たら一応喜ぶ」

「なるほどな、まあわいが聞いたところでわいにはどうしようもないんやけどな」

「確率弄んなよ?」

「弄らへんわ、というか弄れへんわ」


生憎俺の運は良いとも悪いともいえないレベルなので実際どうなるかはわからない。

物欲センサーという素敵な言葉もあるくらいだ、早々と終わるだろうと考えるほうが恐れ多い。


「うまいこと手に入るとええな」

「はずれさんこんな言葉を知ってるか?」

「なんやねん」

「出るまで引けば必ず手に入る」

「なんか無茶苦茶な事言い出しよったでこいつ!?」

はずれさん

似非関西弁を振りかざす正体不明の自動販売機。

機械音声と成人男性の声を足して二で割ったような声で喋る。

治安の悪い町はずれでも壊されないよう丈夫にできているらしい。

7月14日に売り上げが芳しくなかったためか撤去される。

それまでに1万円以上はずれさんにお金を使っているうえで撤去作業に立ち会うと

翌日から主人公の自宅前に再設置される。

妙に関西弁に違和感があるのは関東生まれ関東育ちの開発者Aが関西弁変換で出てきた文章をそのまま使ったかららしい。

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