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『サブイベントは飲み干せない』

ラーメンを食べ終わった後ラーメン屋の前で世界と別れた。

ちょうどフード付きのパーカーを着ていたからフードに一万円入れておいたけど気付いてもらえるだろうか。


気付いてるか、世界だし。

むしろその金を使って『お弁当作ってきたよ』くらいはやりそうな人だ。


いや冗談だよ、ゲーム時代にはそんなイベントなかったし。

冗談、冗談……


さて、現在時刻は19時半。

強制帰宅まで1時間半だ。

思ったより晩飯に時間をかけてしまい、時間があまりなくなってしまった。


実は強制帰宅をスルーするバグ技があることにはあるのだが、22時を超えても家の外にいるとフリーズするのでやらないほうがいい。

というか今やったらどうなるんだろう、時間の止まった世界で一人死ぬまで生きることになるんだろうか。


あいにくジャンルをサイコホラーに変えるつもりはないので実践はしない。


今日は駅によって帰るとしよう。

本当はスーパーにも行っておきたかったのだが時間がないのだから仕方がない。


何か忘れているような気もするが思い出せないということは忘れてもいいことなのだろう。


駅に行くと言っても別に電車に乗りたいわけではない。

強制この時間から電車に乗ることは金を捨てることと同じだ。


そもそも電車で移動した先にあるのは一部の例外を除いてほとんどがデートスポットだ。

イベントを除けば一人で行く価値のまったくない場所である。


正直現実になった今なら一人遊園地とかも可能な気はするがそんな悲しいことをする気はない。


用があるのは駅前にある自動販売機である。


朱い春で買い物ができる自動販売機は学校、駅前、路地裏の三種類がある。

それぞれの場所で売っているものが別々であり、前にも言った『世界の毎日ドリンク』達成のためにはすべての場所で買い物する必要がある。


学校では他の説明がいろいろあったのでほとんど触れなかったが、今回は『世界の毎日ドリンク』の説明をしよう。

どうせ駅に着くまでに時間はある。


これも前に言ったことがあるが、朱い春には称号というものが設定されている。

その称号の中で最も取得が難しく、廃人要素とまで言われていたものが『朱い春と生きる』という称号だ。


その『赤い春と生きる』の取得方法の三つの内の一つに『世界の毎日ドリンクの達成』というものがあった。

初期の情報はこれだけである。


他にこの『世界の毎日ドリンク』について書かれている物はなく、ゲーム内で世界に聞いてみても

『ふふふ、楽しみにしてるよ』

としか言われないという謎に包まれたものだった。


あまりにも謎過ぎて一人の廃人がキレた。

一応言っておくが俺ではないぞ?

その廃人が朱い春を作ったゲーム企業に直接乗り込んで問いかけたところ、帰ってきた答えが

『世界には毎日決められたドリンクがあってそれを渡せばいいんだよ』

といういろいろと説明のたりないものだった。


結局謎に満ちたままの『世界の毎日ドリンク』だったが、ある日一つの書き込みによって事態が進展することになった。


【朱い春 バグ・謎仕様掲示板】

437 クローザー

世界に飲み物あげた時少しだけ表情違うことあるんだけど、あれなんなの?


後々の書き込みによるとこのクローザーとかいう男は、毎日世界に青汁を渡し続けたらさすがの世界でも怒るんじゃないだろうか、とかいう思いを胸に青汁を渡し続けていたらしい。

なんという高度なプレイをしているんだとか言ってはいけない。


結果は最終日に『何かの儀式だったの?』と言われるだけで終わったそうだが、それよりも気になったのは先述した表情差分だったらしい。

一応何度か繰り返したが、何度やっても7月19日だけ表情が少し違ったんだとか。


これに目を付けたのが我々アカハラー。

速攻で【朱い春 世界ドリンクローラー掲示板】が立ち上げられ、大規模なローラー作戦が幕を開けたのであった。

いや5人だけだったけどね、参加者。


少数精鋭で行われた調査によって『世界の毎日ドリンク表』が完成し、ついに称号全達成者及びこのゲーム唯一のハッピーエンドが姿を現したのであった。


そういう経緯のある『世界の毎日ドリンク』だが、簡単に言えば世界に飲み物を貢ぎ続けるお仕事である。

だがその飲み物がかなりの曲者であり、自動販売機で買えるものからイベントでしか手に入らないもの、手に入る日に指定があるものなど実にさまざまだ。


でも実のところを言うと世界の毎日ドリンクが鬼畜とされていたのはドリンク表が完成する前までであり、ドリンク表が完成した後はある程度の根気とゲーム内知識があれば達成できるものとされている。


決して簡単なわけではないのだが、『朱い春と生きる』取得の他二つの条件が相当厳しいものであることも一つの要因だと思われる。

片方は運も絡む秒スケジュール鬼畜ゲーで、もう片方は完全運ゲーの永遠に続くリセマラだからな。


飲み物のうち一つだけガチャみたいな要素があるが、それ以外は知っていればなんとかなる『世界の毎日ドリンク』が軽視されやすいのも無理はない。


だが頑張ってドリンク表作った俺ら五人としてはいろんな意味でこれが悪夢だ。

何よりもあの費やした時間と労力が無駄だったことを知ったときは発狂した。

そして壁ドンくらった。


やめよう、今思い出しても死にたくなる。


あの時は攻略サイトが消滅しかけたり自殺者が出そうになったりとてんやわんやだったのだ。


まあ後者はネタだったと思うが前者はガチで一瞬消えた。

みんなは攻略サイトのコメント欄に煽り文入れるのやめようね!


ちなみに内職をせずに『世界の毎日ドリンク』を達成しようとするとかなり難易度が上がる。

そもそもこのゲームのバイトは時間がかかる割に給料が妙に低いので、内職縛りプレイをするだけで結構な難易度になるというとち狂ったゲームバランスをしている。


必須並みの情報を隠してしまう朱い春のユーザーに媚びない姿勢はどこから来るというのか。


とかなんとか言っている間に気づけば場所は駅前である。

安っぽい腕時計が8時40分を指しているのを確認し少し急ぐ。


自動販売機からおしるこ、オレンジジュース、コーラ、水素水、リンゴジュース、ジンジャーエール、エナジードリンクを購入。

学校指定の鞄の中にすべてをぶち込み一息つく。


朱い春の世界に入ってから1日を無事終了することができた。

まあ1日目で誰かが死んだりすることはゲームではなかったから大丈夫だとは思っていたが。

しかしゲーム時代と違ってデートがよりデートになってしまっていた。

いやかわいい女の子と一緒にいられることは心の保養になるのだが、好感度の操作やイベントが複雑になるという事実が俺の胃をキリキリと痛めつけている。


下手なことをすればマルチバッドエンド方式と言われた朱い春のバッドエンドが牙をむくだろう。

いくらやりこんだゲームとはいえ俺はこんなところで人生を終えたくない。

そして重度なアカハラーとしてヒロインたちを不幸せな目にあわせたくはない。


無駄なプライドかもしれないが、誰にだって捨てられないものは存在する。

俺の場合はそれだということだ。


多分他のアカハラーも……

少なくとも一人はそうするに違いない。

今更考えたら一人絶対全滅目指す奴いるけどな……


いろいろと考えていると意識が一瞬飛んだ。

次の瞬間気が付けば自分の家の中である。

腕時計が21時ちょうどを指していた。


21時になれば強制的に家に帰るというのはこういうことだ。

主人公がどこにいようと21時になった瞬間ノータイムで自宅にワープする。


公式が不思議な力とかわけのわからないこと言っているだけあって実際体験してもわけがわからないものだ。

とはいえ用事さえ済めば帰りの交通費を払わなくて良かったりするので重宝させてもらうとしよう。


俺は空っぽの冷蔵庫に大量の飲み物を詰め込む。

そこまで大きくない冷蔵庫なのでほとんどが埋まってしまった。

これからスーパーのものと路地裏自販機のものも入れなきゃいけないのだが……


ていうか俺食材買い忘れてるじゃん。

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