alone
「だから、それとこれとは関係ないって言ってんだろう!!」
ガシャン。
床に叩きつけられたグラスから嫌な音がして無数のヒビが入り、割れた。これで今月何個目だろう。そんな半ば現実逃避気味な思考を巡らす。
「じゃあなんだって言うのよ。連絡しても、電話は繋がらない。帰ってくるのは日付を跨いでから。それでよくそんなことが言えるわね!!」
女の方も、男に負けじと噛み付くように反論する。
ああ……聞こえない聞こえない。私には聞こえない。
私は首までかかっていた布団を引き上げ、頭まですっぽりとその中に潜った。まるで外の危険から身を守る亀のように。そこまでかぶっても、忍び寄る影は着実に私の体温を奪い、小刻みな震えは止まらない。
いつから、こうなっちゃったの?
答えーお父さんが死んでからずっとー。
女は夜の仕事を初めた。最初はどんなに疲れていても、朝になると笑顔でカーテンを開け、私を起こしてくれた。無理して鼻歌なんか歌いながら、ご飯を作って。
私が寝ると、露出の高い服を着て、いつもより派手に化粧をして、夜の街にスイスイ泳ぎだしていく。
扉を閉める時はいつもそっと。
それがいつからか家に帰ってくる時間もまばらになり、男を連れ込むようになった。タチの悪い寄生虫みたいなあいつらは、女の心にあちこち穴を開け、虫食いみたいにしていった。
その夜の仕事は一人になって、私を養うために仕方なかったのかもしれない。でも、そんなの望んじゃいなかった。
その仕事のせいで、こんなふうに一ヶ月に何度も物が壊れたり、朝まで続く口論を聞くはめになったり、一人で怯えるようになるくらいなら。
どうやら今回の男ともこれまでのようだ。
あーあ、なんかもう疲れちゃったな。
誰か私を救ってくれないかな。この地獄まで手を伸ばしてよ……。
神様でも、大仏様でも、保健所の職員さんでも良いからさ。
なんで、見つけられないのかなあ。これだから税金の泥棒とか言われるんじゃない? こっちを向いてよS・O・S!!
まあ、生きられているだけまだマシか。大人になれば一人で生きられるもんね。
それまでの、ほんのちょっと。さなぎが蝶へと変わるまで。
そうだ。楽しい想像をしよう。もっと暖かくて、柔らかくて、幸せな想像を。
夢の中は本当に素晴らしい世界だ。なんでも自分の思いどおりになる。だって私が神様。私が唯一の主人公。
そう、私はただ一人。
些細なことでも、感想を下さると嬉しいです。
現実逃避の末に一人夢の中に逃げていく、寂しい女の子が書きたくて、やりました。