第一話 旅立ち-2-
「で? それがどうしたんだよ」
教科書の入ったカバンを肩にかけながら問えば、シランは軽くルドベキアを肘で突く。
「どうした、とはさすがですな、首席様」
その言葉に、「ああ」と小さく返し、ルドベキアは廊下に向かう。シランから話は聞いたが、実際に自分の目でもテスト結果を確認したかった。
「で? お前はどうだったんだよ、シラン」
同じくカバンをかけながら追ってくるシランに問えば、笑いながら肩を竦められた。
「いつも通り、三位だよ」
「お前もさすがじゃないか」
「どこがさ」
笑い合いながら教室を出ると、ちょうど帰る途中だったらしいアオモジ、サンゴミズキ、ハリエニシダの三人が通りかかるところだった。
ルドベキアの姿を見、三人はいやらしい笑みを浮かべる。
「おや、首席様がお帰りになるぞ」
「部活動もせずにお勉強ばかりの首席様がご帰宅だ」
「実は透視で回答を見てるんじゃないのか?」
「ちがいない、ただの田舎生まれが毎回首席なんてありえないからな」
口々に皮肉を言ってくるクラスメイトに辟易する。クラスの中で自分が浮いた存在なのは理解しているが、こうハッキリと言ってくるのはこの三人しかいない。怒りを抱くのもバカらしく、黙って三人の前を通り過ぎようとした。
しかし
「自分たちがルディより下だからって、そんな言い方ないだろ!」
まるでルドベキアの代わりのように、シランが激高する。それにギョッとし、慌ててシランの口を塞ぐ。
「何言ってんだよシラン!」
口を塞ぐが時すでに遅し。アオモジの頬が怒りで引きつった。
「どちらにせよ、こんなラッキーがいつまでも続くと思わないことだな。いずれボロが出るさ」
そう捨て台詞を吐いて去っていく三人の背が廊下の向こうに完全に消えたことを確認し、ルドベキアはようやくシランの口から手を放した。
「何でお前が怒るんだよ……」
「ルディが怒らないからだろ?!」
まだ怒りが収まらないのか、地団駄を踏みながらシランはそう怒鳴る。普段は温和な友が自分のために怒ってくれるのは嬉しいが、ああして本人の前で図星をついてしまうため、あの三人からシラン自身も目の敵にされている。
それが少し、申し訳なかった。
「大体、あいつらは自分たちが貴族の出だってだけでルディを見下してるんだ! アカデミーのモットーは『すべての勇敢なる生徒に門戸を開け』じゃないか! おかしいのはアイツらの方だよ!」
悔しそうに拳を振りながら怒るシランを、ルドベキアは静かに見つめた。
確かに自分は王都から遠く離れた村の出だ。アオモジに限らず、この学園には貴族の出が多い。裕福でなければ入学金は払えないからだ。ルドベキアだって、本当はアカデミーに入るための入学金が足りなかった。それでも入学テストを受けさせてくれた上に、奨学金さえもらっている。やっかみ、僻みは日常的で、入学当初は傷つきもしたけれど今ではもう慣れっこだ。むしろ、親しくしてくれるシランが特殊なのだと思っている。
「そう言うお前だって貴族の出じゃないか。悔しいとかないのか?」
長い間疑問だったことを問えば、シランはキョトンとした顔で首を傾げる。
「別に?」




