第一話 旅立ち-1-
「今日の授業は以上で終了です。魔王についての話はまた次回します。各自、課題を忘れないように」
ベルテッセンの言葉に一斉に礼をして、生徒たちはそれぞれ帰り支度を始めた。それに交じりながら、ルドベキアは小さくため息をつく。この世界の創世記は毎回ベルテッセンが授業の終わりに話すため、正直聞き飽きた。魔王の話とやらは聞いたことがないが、村にいた時にうわさ話を耳にしたので少しは知っている。なんでも、異形の共を連れた極悪人だそうだ。彼女もその話をするのだろうかと考え、またため息をつく。創世記書はテストに出る時に一通り読んだが、あまりに長すぎて覚えきれていない。それに、神様が凄いことは誰もが知っている。時折教会からお出になると、民の前で奇跡を起こしてくださるからだ。先日は、ある少女の不治の病を掌をかざすだけで治された。少女はいたく感謝し、今は教会で神様のお付きをしているそうだ。
それを今更言われても、とげんなりしていると、後ろから誰かが肩を叩いた。
ルドベキアが知る限り、そんなことをする生徒は一人しかいない。
「何すんだよ、シラン」
呆れ顔で振り返ると、頬に人差し指が刺さった。どうやらそれを狙っていたらしく、シランはいたずらっ子のように笑う。
「隙あり!」
茶水晶の瞳を細めるシランの頭に、軽く拳骨を入れる。「いたっ」とさも痛がっているように肩を竦めるも、その顔には笑みが浮かんだままだ。
「しょうもないイタズラすんなよな」
「ため息ばかりのルディにおっこらっれた~」
からかうシランにもう一度拳を振り上げると、彼は笑いながら半歩身を引く。本気で打つ気が無かったため、軽く苦笑した後ルドベキアは手を下げる。殴られる心配がなくなったからか、シランは身体をずいっとルドベキアの方に伸ばした。
「そういえばルディ、中間発表見た?」
唐突な問いに、首を傾げる。確かに半月ほど前に中間テストがあったが、その結果がこんなに早く出ていたのか。
「その顔、さては見てないな?」
ニシシと声を出して笑うシランに苦笑する。彼は誰よりも情報が早い。一体いつの間にそんな情報を手に入れたのか。さすがにテストの順位はいつも確認しているが、今日はまだ貼り出されていなかったはずだ。
「どこで見たんだよ、お前」
「さっき、アキメネス先生が貼りだしてるのチラ見した」
さっき、とは、おそらく六時限目と五時限目の間にある休み時間のことだろう。シランが休み時間にいなくなるのは割と日常茶飯事なので気にもしていなかったが、まさかそんなものをチェックしていたなんて。呆れを通り越して尊敬さえする。




