case3 牢屋と後輩
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「ハロー!先輩。お迎えに来ましたよー」
静かな牢屋の中に、明朗な声を降らせたのは、莉子だった
かれこれ牢屋の中で過ごす夜はこれで三回目である
既に盗品回収を開始していたのだが、いかんせん失敗が重なり、今のところ成功を収めたことは一度もなかった
これで3タコである。そろそろ給料を貰えなくなってもおかしくない
鍵を身につけた警官を隣に、牢屋の外から莉子は、蜂屋を愉快そうに見ている
「もう、何回捕まったら気が済むんですか、先輩は」
腰に手をあてて、急に怒ったふうを装ってはいるが、口元が緩んでいるのはバレバレだ
「お前の見事なアドバイスに従ったばっかりにな」
発した声に警官が鍵を開ける音が重なって聞こえた
どうぞ、と警官が蜂屋に牢屋を出ろと示唆する
どうも、と礼を返し、牢屋の入り口をくぐった
「先輩は私に頼り過ぎなんですよ。もう少し自立して下さい」
「悪かったな。じゃあ自立するから、家の鍵を返せ」
蜂屋の言葉に莉子は、慌てて血相を変えた
「すみませんでした。それだけは勘弁して下さい」
無言になる蜂屋に、
「冗談ですよね?」と莉子は涙目でこちらを覗き込んでいる
不覚にも可愛いらしいと思ってしまうが、いい大人が高校生に抱く感情としては犯罪であると戒めた
蜂屋は職務についた四月から黒木の指示により、莉子とマンションで二人暮らしをしていた
理由は謎だ
黒木も莉子も理由についての言及は避けているようだったので、特に触れずに従っている
ただいい大人が高校生に向ける反撃文句として、”二人暮らし解消”というワードは、どうやら効果を発揮するらしいことは分かっていた
莉子を置いて歩き出した蜂屋だったが、肩越しに後ろに視線を向ければ、莉子が付いてきていない
立ち止まり振り返ってから、やれやれと蜂屋は溜息交じりに「冗談だ」と言ってやる
「ですよね!こんなに可愛い花のJKを放り出せる訳ないんですよ、先輩は」
もう何も言うまい
無言で再び、出口へと足を勧める
莉子は、走って蜂屋の横に追いついて、並んで歩いた
「そういえば、黒木さんがブチギレでしたよ」
「やっぱりそうか。今回は上手くいきそうだったんだけどな」
投げやりに応じれば、晴れやかな笑顔が返ってきた
「くよくよなんてしてられません。次こそ成功させましょう」
そうだな、と言おうとした際に、出口からの眩い光が射し込んできた
時刻はもうお昼を過ぎていた
「そう言えば莉子、お前学校は?」
思い出したように尋ねれば、莉子の弾んだ声が答えた
「先輩、今日は日曜日ですよ」