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白い歯

フラッシュの嵐の的は、某A党政治家の後藤。



政治家としては若手の上、まるで俳優のようなその容姿に、世の女性――主に中高年からの支持はすこぶる高く、テレビに雑誌に引っ張りだこの存在だった。



選挙法とは何なのか、と思うほどメディアは清廉潔白なイメージの彼の姿を持て囃す。

政界でも国民の政治的関心を集めるため『白い歯大臣』という意味不明な大臣職に彼を指名した。




そんな彼が、現在壇上でフラッシュの嵐に見舞われているのは、その眩しく白い歯故ではない。



「議員!明確なご説明を!」

記者は語気を荒らげている。



緊急記者会見。

後藤の収賄罪スキャンダルが発覚したのだ。



急遽の記者会見に臨んだ彼は、額に油汗を滲ませる。




一週間ほど前の事を思い返す。


そう、元々付き合いがある建設業者から確かに受け取ってしまった。

賄賂である。



大した金額ではなかった。

しかし、自分には懇意にしている人物がおり、その人物の為に渋々という感じだった。



その人物とは“清水良三”。

後藤議員よりも一回り年上の小柄な男。

後藤のマネージメントを兼ねていわば右腕のような存在である。

今日の後藤が政治家として大成したのも、彼在ってのものだった。



後藤もそれは重々承知している。

清水に金策として賄賂を頼まれては断れなかったのだ。


彼に対する絶対的信頼はフラッシュを浴びたからとて変わらない。


勿論“誰が為に”と説明した所で咎める世論が変わる事もないだろう。



もはや是迄か、後藤は議員としての己の終期を感じ固く両目を閉じる。





とある三ツ星ホテルの一室。


室内には二人の男性が、テレビで中継される渦中の男を見ていた。



「遂に彼も終わりですね」

少し年の若い男が言う。


「彼がまさか汚職に手を染めるとはね、残念だ」

小柄な男が答えた。清水である。



世の中、政治について良く解らないという選挙権者は多い。

何故なら大抵の党は民意に沿った理想的公約を掲げるものであるし、それは殆ど区別のつかない物だからである。

支持する党も特にない、という人もいる訳で、やはり選挙結果が議員個人の魅力に左右されるのは仕方のないことかもしれない。



後藤のように秀でた容姿とクリーンさを持つ男や、タレント議員、二世議員が当選するのも当然である。



「清水さん」

ぼんやりと無表情にテレビを見ていた清水に、少し若い男が話しかける。

「先日お話頂いた件ですが…やはり僕も政治家を目指そうと思うんです。後藤さんの様に僕にもご指導ください」

清水は微笑んだ。

それでいいのだ。全ては自分の思い通り。



清水は微笑んで言った。

「そうだねぇ、君なら間違いなく政界で成功できるよ。取り急ぎは歯でも変えると良い」


「歯、ですか?」

清水の言葉に少し怪訝な表情だ。


「そうだよ。白く綺麗な歯並びにするんだ。政治家になるには“清廉潔白さ”が大事だからね」


「なるほど」

若い男は納得した様子を見せた。



彼もきっと後藤のように政界で伸し上がっていくことだろう。

そしていずれ清水の懐を豊かにしてくれることだろう。


これまで白い歯をした議員達が皆そうだったように。

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