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「お待たせ、待たせたかしら?」

「あぁ、待ったな」

「...そんなの顔だと、彼女できないわよ」

「今顔の話関係ねぇだろ!」


8月5日土曜日。

職場体験(・・・・)をするため、俺と赤神は近くの駅で待ち合わせをしていた。



この1週間、長かった...


休み時間の間、常に絡んでくる赤神。

それを濁りきった目で睨む一樹。

腹立つサムズアップ折本。


周囲を敵に囲まれるのは日常茶飯事だったが、日本の教室でまで囲まれるとは思っていなかった。


敵地に乗り込む今日をどれ程待ち望んだか。

赤神が転校してきた理由が俺を職場とやらに連れてくることなら、目的を達したらすぐにでも立ち去るだろう。

その後も暫く教室はうるさいだろうが(特に男子)、それも時間が解決してくれるはずだ。



「それじゃあ、行きましょうか」

そう言って歩き出す赤神に後ろからついていく。


「ここらか電車を乗り継いで2、3時間ってとこかしら。そこからは迎えが来ているはずだから、それに乗って1時間くらいで着くわ」

「へぇ、結構近いんだな。飛行機とかで海外に行くことも考えてたんだが」

「海外にも職場はあるわよ?ただ、縄張り争いが激しくて。正当な理由がなければ入ることはできないのよ」

「...なんか、大変そうだな」


そう、この1週間赤神と会話を続け分かったこともある。

1つは赤神の言う職場が世界規模だということ。

「...ねぇ」

そして、コイツ自体はその組織の日本支部ってところに所属していること。

日本支部って名前から、世界中に支部があると考えた方がいだろう。これで力業が封じられた訳だが...


――ま、後のことは優人達と合流してから考えるか――


何も悪い話ばかりではない。

「...もしもし?」

謎の視線があるせいで連絡を取れなかった俺達だが、相手側が合わせてくれるらしい。これなら自然な流れで優人達と合流でき



「...死になさい」



何かが結界に当たる。ソレは目の前の女が作り出した目に見えない超高温の気体。たった2回無視しただけで、優に数百度はあるだろうソレを何の躊躇もなく人にぶつけてきたコイツに良心と言うものがあるのだろうか?」


「全部、聞こえてるわよ?やっぱり、分かって無視してたのね」


あ、3回ぶつかった。




「まったく、何よその魔術。反則もいいところじゃない」

「ま、それだけが取り柄だしな」


赤神には紋章の力について全ては語っていない。


『俺のこの力は魔法無効果空間アンチマジックフィールド。ジジィが開発した魔法らしくて、相手が発動した魔法に干渉して無効果する空間を作り出すんだ。詳しい原理は分からねぇけど、相手の魔力に自分の魔力を割り込ませるらしい。身体能力の強化はこれとは別の魔法だよ』


『へぇ、つまり魔術師相手には無敵ってこと?』


『いや、この空間はそんなに広げられなくてな。効果範囲外で作られた魔法まで妨害することはできねぇんだ。それでもこの空間に入ってきた瞬間に妨害は始まるから、ある程度なら防げるんだけど』


『...ふぅーん』



赤神はおそらく俺の言った魔法の弱点にも気づいているだろう。

というより、俺が気づくように仕向けたんだが。さっきの説明だと、防げるのは魔法だけだ。近距離の相手には身体強化で対応できるとはいえ...



――1、2、3、4...8人か――


遠距離からの射撃は防げない。

俺と赤神を囲うようにして感じる殺気は、おそらく狙撃主だろう。魔術が防がれるとは言え、純粋な物理攻撃である現代兵器は防げるずがないって考えに至るのはおかしくない。なんらかしら赤神に危害を加えようとすれば、蜂の巣みたいになるだろう。


まぁ、現代兵器で俺を傷つけたければ核ミサイルを星の数用意しても足りないが


「それでも、その能力は破格よ。雄護君さえよければすぐにでも就職できるほどに」

「...随分と買ってくれるんだな?赤神はもっとプライド高くて、『ハッ、魔術の無効果?その汚い顔面のわりに、能力は女々しいのね』くらい言われると思ったんだが」

「あなたねぇ...私をどれだけ野蛮だと思ってるのよ」

「お前、初対面で俺に何したか覚えてる?」

あと、現在進行形で狙撃しようとしてるし。




ガタンゴトンと三時間半。

途中乗り換えにてこずったが、それ以外に特に問題は起こらず目的地に無事ついた。

そこからは迎えが来ているとのことだったが...


「おい、一応聞くけど迎えって言うのはコレか?」

「?...何か問題あるかしら?」


目の前にあるのは、周囲の田園風景をぶち壊す黒塗りの高級車。

その前で、くそ暑い中直立不動で立っているこれまた黒スーツの男。

どっからどう見ても表で言えない仕事をしてそうなんだが。


「あ、赤神さん?もっかい聞かせてもらいますけど、本当に国家公務員なんですよ...ね?ヤのつく自由業とかじゃなくて」

「何言ってるの?暑さで頭がまともになった?」

「せめて、おかしくなろうぜ」


変な顔...と呟きながら車に近づく赤神。それに反応してドアを開ける黒スーツ。


「お前、どれだけ人の顔貶すんだよ...」

ここまで来て帰る訳も行かず、赤神に続いて車に乗り込む。

最近、コイツのせいで自分の顔に自信がなくなってきたんだが、


――カッコいい...よ?――

その台詞を想いだし、何とか立ち直る。


けど、マリーの美的センスもなかなか他の人に理解されなかったような...

オーク見たいなネコ、アンデットのようなイヌ、それらを見て可愛いって笑う彼女に、見惚れてた時は気づかなかったけど


あれ、俺って、もしかして...


そんな思いを呑み込んで、俺達は職場へと走り出した。




車が走り出して30分ほどしたとき。


今の感じ...


おそらく空間を歪める魔法だろうか。外の景色は変わっていないが、間違いなく転移している。紋章の力を極限まで抑えているとはいえ、魔力を吸収しきれずに発動する辺り大規模な魔術なのだろう。車で1時間との話だったが、この様子だと普通に車で移動しても2、3日では駅に戻れないはずだ。


コイツ、さらっと嘘つくからなぁ。


横目で赤神を伺ってみるが、澄ました顔で前を見ている。

もし、俺が逃げ出したとしても情報と違う距離で捕まえられるという算段なのだろう。

赤神本人としてはなかなか俺好みな性格なのだが、仕事熱心なのか、単に俺が嫌いなのか。


――イマイチ敵認定するのに躊躇するんだよなぁ――


仲良くなるのはまだまだかかりそうだ...


そんなことを考えているうちに目的地に着いたらしい。

「見えてきたわ。あれが、私達が働いている街よ(・・)

「...おいおい、マジか」


見えてきたのは、15メートル程ある西洋風の門。それが何かを囲うようにして建っている。

巧みな模様一つ一つに魔力が籠められており、魔術を発動しているのだろか、かなりの防御力があるはずだ。

門の前で車を降りた俺はその門を見上げる。


「街のなかは車が禁止でね。ここからは歩いて行くわ」

そう言う赤神になにも言えず、ただうなずく。

赤神が警備員のような人と話、門に組み込まれた扉が開いた。


「ようこそ。対魔物(ビジター)迎撃機関カルディア日本支部へ」


赤神が聞き覚えのない単語を言ってくるが、


石畳の道、レンガ造りの建物、目に見える景色すべてが、もう二度と見ることができないと思っていたから


「...」


俺はその街を眺めることしかできなかった。










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