終わった戦い、始まった戦い
皆さんはじめまして、青くんといいます。
趣味全開で書きました。
大学の合間にポチポチやるつもりなので、感想や文章のおかしな点、変なストーリー展開などなどがありましたらどんどん言ってください。
8月9日、登場人物の自己紹介の流れを変更しました。
この時点で15歳だと日本に戻ったら12歳になってしまうので...
夏休みに入って一週間が過ぎた。
期待に胸を踊らせた高校生活はしかし、期待を越えることはなく、かといってイジメのような期待を裏切る目にもあっていない。中学の時と変わらない日常に安心しながらもどこか落胆していた。
だからだろうか。
親と些細なことから喧嘩をし、親に勝てる訳もなく「家出してやるっ」と半泣きになりながら家を飛び出した8月1日。
「3日は帰らねぇ..いや、3時間はくらいは...よし、30分にしよう」
町外れの古びた公園で1人、意思の弱い誓いを立てているとき。自分の足元が光った瞬間、混乱しながらもどこか期待したのは。
異世界『ストウスウェイト』
世界を脅かす魔王を倒す勇者パーティーとして召喚された俺は、バカみたいに興奮した。
俺以外にも3人召喚されていることとか、その内2人がイケメンとそいつの妹っていうこととか、これじゃもう1人の女の子もイケメンのハーレム入りじゃねぇかとも、この時は一切頭になくて。
ただただ純粋に興奮して、期待した。
これからなにかが起こるって。
これからなにかを起こせるって。
そして、昔から約束事は守らなかった俺には珍しく30分という誓いを大きく上回る、3年の月日が流れた。
世界の敵を倒す役割を担う称号『勇者』はイケメンに授けられた。歴代最強の聖剣使いとまでいわれるこいつは性格までいいやつで。妬みや嫉妬で強くあたっていた俺を、親友だって言ってくれて。
世界の傷癒す役割を担う称号『聖女』は勇者の妹に授けられた。俺と同じくらいバカな事をする兄の手綱をしっかり握って。兄に強くあたっていた俺に、弟みたいに接してくれて。
世界の闇を焼き払う役割を担う称号『魔導師』は気の強い女の子に授けられた。バカな事ばかりする俺や勇者を目一杯叱りつけてくれて。下心満載だった俺を、ウザがりながらも見捨てることなく見守ってくれて。
世界の光を守る役割を担う称号『守護者』を授けられた俺はバカやりながらも全力で努力して、こんな3人やそのほか様々な人達と笑いながら、泣きながら、世界を救っていった。
守りたい人ができて、その人も俺を守ってくれて、だけどその人を守りきれなくて。
好きな人ができて、その人も俺を好きになってくれて、それに見会う男になりたくて。
いろんな出逢いがあって。いろんな別れがあって。
魔王との最終決戦
お前らは魔王を殴る事だけを考えろ。ヤツの攻撃は俺が防ぎきる
そうカッコをつけたからには、この3人には傷一つつけるわけにはいかなくて。この世界の太陽とリンクしてる魔王の無尽蔵の魔力は、それ一つで大陸を消し飛ばせる光球を空を覆うほど作り出したけれど。
「...やっぱりカッコつけるんじゃなかった」
なんて言いながらも、後悔はしていなかった。
それはこんな絶望しか感じない光景を目にしながらも、誰一人防ぐ素振りを見せなかった仲間を見たからで。
何より、カッコつけてる男の子が、私は好きだけどって、好きな子が言ってたからだ。
絶望の雨が放り注ぐなか、誰よりも前へ出る。
100発までは耐えきった。
1000発耐えた時には両腕がなくなってた。
1500発くらいから見かねた聖女が回復魔法をかけてくれて。
カッコつけきれてねぇじゃんかって自分に気合い入れ直して、無機物有機物に拘わらず、自身が怪我だと認識したものを問答無用で完治させる美しい聖女。そんな彼女に感謝を伝え、万を越える絶望を防ぎきった。
まだ原型があることに驚いたのか一瞬硬直する魔王に、導師の魔法が炸裂する。想像した魔法を創り、発動できるという万能の力を持つ導師はしかし、炎という力にこだわり続けた。仲間を優しく暖め、敵を灰塵と帰すその力は太陽とリンクし、熱や炎に耐性があるはずの魔王すら顔を歪める威力を持つ。その炎の魔法は彼女が初めて覚えたもので、そんな所期魔法が最終決戦にも通用する導師の力に若干あきれながらも、そんな彼女が頼もしかった。
硬直から抜け出した魔王が取り出した漆黒に輝く大剣を手に導師に斬りかかるのを、それより速く白銀の勇者が魔王に挑む。白銀の鎧に黄金の剣。希望を力に変換する勇者だけの力。その鎧は短時間であれど防御特化の俺と同等の能力を持ち、その剣は魔王の障壁すら太刀打ちできない。勇者の力の影響なのか、髪は銀に染まり瞳は金に染まっている。初めてその姿を見たとき思わずバカにしたけれど、その姿は誰よりもかっこよかった。
そんな彼らの姿に、倒れたままでいられるかと守護者の力を振り絞る。身体中に刻まれた守護者の紋章。それは周囲の大気や魔法に込められた魔力を吸収、変換、増幅し、あらゆる災厄を防ぎ、結界内の対象の身体能力を強化させる結界を創る力。パーティーを守るため広域展開していた結界を自分に張り付くように凝縮し、防御力を増幅させる。
勇者の背後から迫る影の刃を拳で砕き、聖女を狙う地割れを震脚で押し返し、導師を襲う闇のブレスを身体を使って防ぎきる。
縦横無尽に仲間のもとに駆け寄っては魔王の攻撃を防ぎ、隙を見ては魔王を殴り飛ばす。紋章の力はその性質上、周囲に魔力が満ちるほどに上昇する。魔王と導師の魔法合戦で高濃度の魔力が満ちるこの場なら、先ほどの光球を那由多の数食らっても生き残り、地殻すら砕く力を持つ今なら魔王相手でも牽制くらいにはなる。
そうして、全員が死に物狂いで戦った。
そうして、それは魔王の真実を知っても変わらなかった。
「たとえ、貴方の言っていることが事実だとしてもっ」
優しい聖女は、魔王の真実に今も心痛めているだろう。それが世界の敵だとしても、自分の事のように涙を流せるからこそ彼女は聖女なのだから。
だけど、
「私達があんたを許す理由にはならない!」
自分にも他人にも厳しい導師は、魔王の告げた真実を弱音と断ず。自分が辛いからって関係のない人に迷惑をかけるのは違うだろう。あんたが数多くの命を奪ったことに変わりはない。弱さに甘えることも、強さに驕ることも許さないからこそ、彼女は導師なのだから。
それに、
「テメェが居るってだけで、夜震えて眠れない子供達がたくさんいるんだよ!」
好きな子に会うために通い詰めた孤児院だったけど、時が経つにつれてそれ以外にも理由が増えた。
魔王とその配下達に滅ぼされた村や町は数えきれない。当然、親や保護者に先立たれた子供も出てくる。そんな子供の中でも年長だった彼女にはたくさんの弟や妹がいた。昼間は生意気だったり、おませだったりする彼ら彼女らは夜になると皆で身体を寄せ会い、大丈夫だよって呟きながら夜を過ごす。疲れて、落ちるようにしか眠れない子供達を最後まで見守る彼女。
子供達にぐっすり眠ってほしい。何より、彼女の笑顔が見たいから。
だから、
「貴方の物語は此処で終わりだ。これから先は僕達が紡いでいく、誰もが笑って過ごせる物語を」
ついに、黄金の剣が魔王を貫く。
誰よりも期待を受ける彼は、誰よりも多くの命を背負っている。敵も味方も背負い続け、最後の最後まで走り抜けた勇者。因縁の相手を倒した割りに、その顔は穏やかで。
「...そうか....なら、見せてみろ。俺の表情筋は固いぞ..後輩」
因縁の相手に倒された割りに、穏やかな顔で魔王は言う。
「ハッ、だったら腹筋捩れるくれぇ盛大に笑かしてやる。テメェの死因は爆笑による窒息死だ」
「なんて間抜けな魔王なのよそれ...」
「怪我じゃないから私でも治せるかどうか」
「僕はてっきりムッツリなのだとばかり...」
「何でだっ!!」
勇者パーティーと魔王がシンクロした瞬間だった。
「...おかしな...やつらだ..ともあれ、お前の言うとおり俺は退場するよ....あぁ、それと...」
俺がムッツリなのは...あながち、間違いじゃない...
そう呟いたあいつの顔は、何故か、満足そうで。
「なんだよ、笑えるじゃんか」
あと、ムッツリなのか...
光の粒となり、消えていったあいつを最後まで見送って、俺達の旅は終わりを迎えた。
そう、終わらなければならない。
物語は、終わりがあるからこそ、ハッピーエンドなのだから。
「いいのかい?君なら、紋章の力を使えば魔力探知にも引っ掛からずに姿を隠せる。あの子や子供達と穏やかに、この世界で暮らすこともできるはずだ」
あいつが光となって消えた場所で、俺達は大の字に寝転がって話し合っていた。
「...いいんだよ、彼女にはそうなるかも知れないって、前もって伝えたかったことは言ってある。それに、あいつと約束したしな」
誰がなんと言おうと、あいつの死因は爆笑による窒息死だ。
「あんたがいいなら、いいわ。時間もあまり残ってないし、これを逃すとチャンスはないから」
「けど、本当に日本に帰れるの?確かにこの場には私達やあの人の魔力が溢れているけど..」
異世界転移。異なる世界から基準を満たす人物を粒子レベルに分解し、こちらの世界で再構築することで呼び出す魔法。対象自体を探すのは人の魔力を使用するが、再構築の際は星の持つ莫大な魔力を利用することで行うため、余った魔力により様々な能力を手にすることが出来る。彼らは称号を与えられ、何らかしらの危機から世界を救う手伝いをしてもらう。その危機は時に疫病だったり。時に、自然災害だったり。時に、魔物を支配し世界に敵対した魔王だったり。
そんな異世界転移は通常、魔法使い達が何千人と集まり数千年もの間魔力を注ぎ込んだ空間で細心の注意を払い、当代の魔法使いの中で最も優れた者が行う。が、
「私の力を使えば異世界転移の魔法は創ることが出来る。技術的にも全く問題はないし、唯一の懸念である魔力も今は解決している。これ程の量なら向こうで再構築するのにも困らないでしょう。後は気持ち次第ね」
「...なんでそこで俺を見るんだよ」
「べっつにーなんにも意味なんてないけれど、あっちに着いてから目の前でメソメソされてもうっとーしいから」
「意味あるじゃねぇか。それに日本に戻るときは向こうで補足された場所に着くから、もう会わねぇだろ」
俺だと古びた公園だ。
「!?っっ~~」
「熱っ、テメェ無駄な魔力使ってんじゃねぇよ!」
「はいはい、二人ともそこまで。デリカシーのない発言もそうだけど、自分から身を引いたくせに今だ引きずってる方も悪い。つまり、喧嘩両成敗ってことで」
「そうだよ。それに、日本に戻っても一生会えないって訳でもないし。なんだったら、改めて自己紹介でもしとくかい?」
こいつらが俺に気を使っているのは分かってる。だからその優しさが嬉しくて、ついつい乗ってしまうのだ。
「青崎雄護。7月8日生まれの18歳、日本では高校1年で帰宅部だった。頑丈さなら誰にも負けないぜ!魔王にもなっ」
一般的な顔立ち。だと思っていたが、あの子が言うには「充分カッコいい...よ?」とのことなのでカッコいいのだろう。この3年であまり身長はあまり伸びず175くらいだが、魔物相手に殴り合いを繰り広げた結果、身体はかなりしまっていてけっこういい男である(孤児院調べ)
まぁ、どんだけ言い繕ったところでコイツに見た目では勝てないんだけど。
「じゃあ、次は僕かな。皇優人。4月25日生まれの20歳、高校2年生で生徒会に入ってた。得意な事は、そうだな...ツッコミ?」
整った顔立ち。サラッサラの茶髪は地毛らしく、黒髪で癖毛の俺とは大違い。着痩せするマッチョという俺には全く特のない体型をしているコイツは、けっこういい男である(王国調べ)
そんな男を冷静にあしらう子が、
「いつでも妹がツッコんでくれると思ったら大間違いですよ、兄さん。皇優花です。4月25日生まれの20歳、まぁ双子ですね。高校2年生で美術部に所属していました。特技は家事全般と兄の世話です」
兄と同じくサラッサラの茶髪は肩ほどで、身長は160に満たない程度だろう。着痩せする美少女というどこぞの紋章使いが歓喜する体型をしている。家事が得意で、旅をしている時はいつも助けられた。
そんな完璧美少女の親友がなぜだか
「私はそんなことしないわよ?今更自己紹介なんて無駄なこと」
そんな、空気が読めないのか読まないのか、流れをぶったぎる発言をするのは俺より1つ年上の九条舞その人である。
長い黒髪は腰までまで届き、身長は165に届くくらい。見ただけで気が強いと分かる顔はしかし、十二分整っており一部の野郎どもは大歓喜。着痩せするタイプなのって言い張るが、普通に痩せているだけだろオマエ(笑)」
「燃え尽きろ」
燃え尽きた。
「本当にいいんだね」
ニヤけていた顔を真剣な表情に変え、再度俺に確認してくる。
「...俺は何よりもあの子の幸せを願っている。俺が残ることで彼女が不幸になる可能性が少しでもあるのなら、俺はこの世界を去る事に異論はない」
過ぎた力は災いを呼ぶ。
かつて世界が人間達に牙を剥いたとき、人々を守るために世界を敵に回した男が。あらゆる自然災害を乗り越えて世界の怒りを静めた勇者と呼ばれる男が。その力故恐れられ、愛する人を人質にされ、あげく殺されたように。その復讐のため、人間達に敵対した魔王のように。
「勇者は魔王と相討ちなった。これがこの物語のハッピーエンドだ。」
「...分かった。それが君の選択なら僕はそれを指示するよ。何せお兄ちゃんだからねっ」
「キメェ」
「それはちょっと...」
「....」
舞のゴミを見るような目は魔王にすら向けたことはない。
「じゃ、そろそろ行くか」
周囲に満ちる魔力はいずれ、世界に還っていくだろう。それまでに転移しなければならない事を考えると、後10分もない。
「全員身体を寄せあって、なるべく面積を小さくして。少しでも魔力の消費を減らすわ」
そうやって顔を付き合わせるように立つ俺達。
数えきれないほどケンカもしたし、その数だけ仲直りもした。金がなく、小さな宿屋でぎゅうぎゅうになりながら4人で寝たこともある。お互いがお互いに相手の良いとこ悪いとこを知っている
家族みたいな存在だ。
だから
「なぁ、今度一緒に飯でも食いにいこうぜ」
「いいねぇ。どこにする?マクド?モス?バーガー王?」
「そこまでファーストフードが食べたいんですか?」
「嫌よ。ゴブリンの肉とか使ってたらどうするのよ」
「お前はすべてのファーストフード店に謝れ」
そんなバカを言い合いながら、俺達は光に包まれていく。
もう、二度とこの大地を踏むことはないだろう。
サヨナラだ、マリー
そう最後に呟いて。俺達の物語はハッピーエンドで幕を下ろした
けれど、物語は終わりがあるからこそのハッピーエンドなのだとしたら、これからを生きていく俺達は必ずしもハッピーエンドとは限らない。
見覚えのある公園で目覚めた俺は、ダメもとで家に向かった。
何せ、3年だ。流れた時間は戻らない。この3年間に後悔はないけれど、親と喧嘩をしたまま失踪した事は悪いと思っている。こちらに居た時は親をうるさく感じていたけど、親がいる幸せを子供たちに教えてもらったから。何年かかっても見つけ出して、あの時の事とこれまでの事を謝ろう。
そう思いながら家についた俺は表札が特に変わっていない事に素直に喜んでいた。インターホンを押し、懐かしい母の声を聞く。
俺だよって伝えて、何から話そうかって考えていた俺を迎えたのは再開の涙ではなく、あちらで見慣れた拳の形だった。
「4週間も、なんの連絡もなしに家を出ていたことは、これで許す」
その声が震えていたから、自分の記憶より明らかに痩せている母の後ろ姿に思わず「ごめん、そんで、今までありがとう。俺は、母さんの子供で幸せだよ」そう、投げ掛けていた。
体感時間で約3年ぶりの部屋は思っていたより散らかっていなかった。おそらく母が定期的に掃除をしてくれていたのだろう。
母が父に連絡し、すぐに帰ってきた父は真っ先に殴り付けてきた。「テメェはダメだ」って避け続け、運動不足の父はすぐバテた。
夜、久しぶりの家族3人で食べる晩飯は涙が出るほど旨かった。
そうして、明日詳しい説明をするからって部屋に戻り考えを巡らせる。
「4週間...か」
おそらく地球とストウスウェイトでは時間の流れが違うのだろう。流れた時間は戻らないが、そもそも流れていなかったのだ。
これを、喜べばいいのか、悲しめばいいのかは分からない。
けど、そんな俺にも分かることがひとつある。
それは別に明日に回した親への説明の事とか、
なぜか、大気に満ちている魔力の存在の事とか、
こちらに戻って来た時から感じている視線の事とかではなく、
「夏休みの宿題、どうするかな...」
8月30日午後23時40分。
俺達の戦いはまだまだこれからだ!!
魔王「(俺がムッツリだってばれてるっ)何でだっ!!」