エア山梨への旅
結局、小山初代さんと結婚できなかったが、太宰治がやった通りに、離婚した。
エアー離婚。なんじゃそれ。
本当なら太宰と初代さんは自殺未遂をするのだが、これもエア自殺未遂にするしかあるまい。
精神病院にも入院できなかったけれど、エア退院。
師匠もできず、エア師匠。ダッチワイフを師匠代わりにしている。
太宰はこの後、山梨県に逗留し、そこで教師をしていた石原美知子さんと再婚する。
年譜には〈昭和十三年 九月、山梨県御坂峠の天下茶屋に行き、(略)十一月、井伏鱒二が親代わりになって石原美知子と婚約。〉とある。
だけど、山梨ってどこにあるの? 日本地図のどこに位置するのかも知らない。新幹線で行けるの?
しょうがない。ここもエア山梨にして、行った気になろう。
いやー、山梨っていいなぁ。自然は綺麗だし、地元の人の性格も良くって、食べ物もおいしい。
商店街を歩いていると、コンビニがあり、マクドナルドがあり、吉野家、回転寿司、パチンコ屋、本屋、スターバックスなど、山梨ならではの情緒に富んでいる。
山梨は素敵な土地だなぁ。情味があって、ダダ漏れだ。太宰が長く逗留したのも分かるというものだ。
俺は本屋に入った。まず『週刊実話』を読み、勝手に袋とじを開ける。次に『アニメージュ』、『週刊プロレス』、『将棋世界』と、立ち読みを続けた。いつものルーティーンである。
山梨の本屋を満喫した後、山梨の100円マックを堪能した。さすが、山梨の100円バーガーは違う。
この後、ダッチワイフ師匠が、エア石原美知子さんを紹介してくれる段取りなのだ。
太宰は美知子さんとお見合結婚で、ほぼ即決だったらしい。
セッティングされた店で待っていると、美知子さんが来た。
「初めまして、太宰治です。エアですが。よろしくお願いします」
色白で眼鏡をかけた美知子さん。彼女は何も喋らない。緊張しているように見える。こっちがリードしなければ。
「ご趣味はなんですか?」
「・・・・・」
「僕は将棋が好きで、賭け将棋もよくやります。勝った方が100円とか、安くでね」
しまった、賭け将棋は犯罪だ。
「教師をされていると聞きましたが、教科は何を教えてられるんですか?」
「・・・・・」
「国語かな? 公務員だから給料はいいんでしょう?」
「・・・・・」
さすがにいきなり金の話はマナー違反だったか。
「昨今、不景気で、公務員が一番いいですね。時に、今の政権をどう思いますか? 安保がなんとか、さっぱり意味不明ですよね。」
「・・・・・」
政治の話はふさわしくなかったな。
しかし、困った。話題がない。彼女は大人し過ぎて、何も喋らないんだから。
「山梨はいいところですね。歴史もありそうだ。僕は歴史マニアでね、上杉謙信公を軍神と思って崇拝しているんです。美知子さんにも好きな戦国武将の一人や二人、いるでしょう?」
いないか、そんなもん。さすがに間が持たなくなった。
「もう、このアダルトグッズ店を出ましょう。太宰も即決で婚約した。僕はあなたを買いますよ。もう一体、師匠って呼んでるダッチワイフがいるんですが、構いません。3人で暮らしましょう」
ダッチワイフの値段は高い。しかし、ちょうど10%オフセールだった。
俺がエア太宰なら、彼女も空気人形。お似合いじゃないか。
どうせ俺は童貞なんだから、こういう方法を非難する権利は誰にもない。カンニング竹山なら、涙さえ浮べて、なんどもなんどもうなずいてくれるだろう。
エア山梨の旅は終わった。
ダッチワイフが2体に増えたことだけは事実として残ったが。




