婚活ニート
太宰治は2回、結婚した。一度目は小山初代さん。
年譜によると、
〈昭和二年 九月、青森の芸妓小山初代と知り会う〉
〈昭和六年 二月、再び上京した小山初代と同棲〉
〈昭和十ニ年 三月、小山初代と水上温泉でカルモチン自殺をはかったが未遂、帰京後初代と別れる〉
太宰はわがままな性格だったから、小山初代を散々困らせたらしい。
俺もそろそろ小山初代さんと結婚しなければ、太宰化計画が進まない。俺もヒーヒー泣かせてやりたいもんだ。
というわけで、ニートなのに婚活を始めた。
と言っても、普通に出会いなんて無いし、あっても無職だと目さえ会わせてくれず、性犯罪者同然に扱われるのがオチだ。
結局、結婚相談所へ行く。
若作りしてマイケルジャクソン状態の結婚アドバイザーの女が出来てた。
いろいろ、俺のことを聞いてきやがるわけだ。
「こんにちは、太宰治です」
「まず、ご年齢をお聞かせください」
「46歳です」
「え?!」。本当の年齢を言っては驚かれるのか? 再婚じゃないし。
「冗談です。34です」
「なるほど。ご職業は?」
「小説家です」
女は「ほおーっ」と感心している。食えない小説家がゴマンといるのを知らないのか。
「失礼ですが、年収は?」
「ありません。親の年金から小遣いもらってるのは収入に入るんですか?」
「え?!」
「というのは嘘で、年収1000万円ほどです」
「さすが作家さんだけある」。この女は馬鹿だろう。
他にも、俺が青森県出身であること、実家は大地主で金持ちであること、東京大学を中退したこと、芥川賞の候補になったが落選だったこと、処女創作集『晩年』を出版したことなど、太宰治の経歴を全部、自分のこととして話した。
結婚コンサルティングなんてやっている女は、文学の教養がないから、嘘でも気付かないだろう。
「新潮文庫から『晩年』が出てるから、買ってくださいよ。サインしてあげる」
調子に乗った俺は、芸能人にたくさん友人がいる、今度、バカリズムに会わせてやろうか、なんて嘘もついた。
一方、こちらの希望も聞いてくる。
「小山初代さんでお願いします」
「どなたですか?」
「いや、探すのがあんたの仕事だろうが。初代さんの仕事は芸者だからな」
女はパソコンを操作しだした。そして、「芸者をされている小山初代さんという方は登録なさっておりません」
「じゃあ、どんな芸者ならいるんだ? 大山初代、大山のぶ代、ならいるか?」
「それって、ドラえもんじゃあ・・・」
「じゃあ、ドラえもんでいい」
「ちょっと、ふざけないでください! 警察呼びますよ!」
女は受話器を取ったので、その腕を制止し、「まあまあ、今度、バカリズムに会わせてあげるから。な。警察はやめろ」と言い含めた。
「今日のところは帰る。2回目の結婚相手は山梨県の石原美知子さんだから、今から探しとけ」
俺は颯爽とマントを翻した。太宰のつもりだ。
「それと、俺の本を買えよ。10冊買ったら10冊ともサインしてやるから」
はて、俺は何の宣伝をしているのか? その時はやはり、デカデカと「太宰治」とサインしてやろう。




