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井伏鱒二はどこですかー?❤

 小説執筆は、順調に捗っている。もう400枚を越えた。


 只今、こんなストーリー展開になっている。


 キャバクラで知り会った女と痴話喧嘩するところ。


 鎌倉の海で一緒に入水自殺してくれる女と出逢うことができた。


 メールアドレスを交換するが、しかし、これがいけなかった。


 「早く店に遊びに来い」の営業メールばかりである。


 断っても許してくれない。真夜中にメールしてきて、返答するまで寝かせてくれない。


 メールを無視するとすぐ怒る。「私の返事が遅いと怒るくせに、私には返事してくれないのね!」と。


 なぜキャバ嬢に怒られないといけないのか? お前は俺の彼女か?


 眠たいし押し問答に疲れ切った俺は、つい、「行くよ」と言ってしまうのだった。


 これって、詐欺の手口と同じです。気を付けましょう。


 以上のような、痴話話を書いているのだ。面白い? 実話じゃないからな!


 最後は「生れて、すんまそん」と土下座して店に入らない。土下座する漫画『どげせん』ってあったが、決しパクリではないぞ。



 ところで、太宰治には2人の師匠がいた。佐藤春夫と井伏鱒二。


 佐藤春夫については何も知らないが、井伏鱒二なら小説も彼の風貌もなんとなく知っている。


 師匠の存在は重要だ。なぜって、文学賞って師匠の口利きがないと取れないからだ。


 太宰なんて、佐藤春夫に芥川賞を取らせてほしいって懇願する手紙が残っている。権力こそ全て、恥も外聞もなく素晴しい。


 知らないのか? 村上春樹だって、ピースの又吉だって、みんな偉大な師匠の力で、賞を取らせてもらったんだぞ。


 俺も師匠がほしい。とりあえず、井伏鱒二が。


 隣町に老人が一人で住んでいて、その男の風貌が井伏に似ている。文学をやっているという噂も聞いた。この耄碌した老人をそそのかして、師匠になってもらおう。



 「ごめんくさい」


 丸眼鏡をかけた、恰幅のいい、いかにも井伏鱒二風な爺さんが出て来た。


 「おやおや、どこかで見かけたような顔じゃが、まあ、お上がりください」


 「初めまして! 太宰治と申します。文学を志していまして、先生に弟子入りしたいと思い、参りました」


 「太宰とな? あの太宰かい? 『人間失格』の。戦後すぐ亡くなられたが、どうしたことか」


  ちぇ! この糞ジジイ。記憶はまだはっきりしていやがる。


 「ああ、あれは1代目ですよ、お爺さん。僕で3代目なの。〈3代目 J 太宰治〉って呼んでください」


 「それでその・・・3代目さん。ワシの弟子になりたいと?」


 「はい、あなたの巨大な闇の権力によって、私に賞を取らせてください」。土下座した。


 「ははは、権力なぞありゃせんよ。たまに朝日新聞に載るぐらいで」


 「朝日って、すごいじゃないですか!」


 朝日新聞の小説の連載といえば、夏目漱石以来の伝統。太宰の『グッド・バイ』も朝日だ。


 「さすが、井伏先生。つまらない物ですが、お土産です」


 「井伏ではない。ワシは田中だ。だが、土産はもらっておこう。そういえば、国民学校の時代、同級生に井伏という学友がいたっけな」


 「それが井伏鱒二だと」


 「いいや。それにワシはたまに俳句を作って、朝日新聞に投稿しとるだけじゃ。三度も選ばれたのは自慢じゃがな」


 「こら、ジジイ。土産返せ。俳句なんぞ眠たいこと言ってんじゃねえよ。権力はないのかよ?」


 「老人クラブの副会長をやっとるぞ」


 「土産を返せって言ってるだろう、強欲ジジイ」。


 「や、やめい。3代目さんよ」


 俺は爺さんを大外刈りで投げた。勝負あり。ただの爺さんから土産を取り返した。


 勝った。ついに勝った。俺は師匠を越えたのだ。念願の師匠越え。


 しかし、敵は巨大な悪の組織。俺の修業はまだまだ続くのだ。

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