キャバ嬢と心中
太宰治のように、一緒に心中自殺してくれる女を探しに、俺は梅田の堂山町へ来た。
この街に来るのは久しぶりだ。40分で八千円のキャバクラに入る。
3人の女が廻って来て、いい子を指名するシステムだ。
1人目。痩せすぎているが、口元にほくろがあって愛嬌のある顔だ。
俺は言った。「なあ、一緒に死んでくれ」。
頭がおかしいと思われたらしい。無言。キャバクラで無言って!
「鎌倉へ行こう」
「なんで?」
「太宰治は鎌倉の海で自殺未遂したんだよ」
「なにそれ」。失笑された。どの部分を笑われたのだろうか?
「お前も一緒に海へ飛び込むんだよ。そんで、お前だけ死んで、俺は助かるんだ」
女はボーイを呼んだ。何か耳元で話している。
「ねえ、私を指名してよ。話を聞いてあげるから」
「指名料はない」
「はあ?」
「『人間失格』を読め! 主人公は金を持たずにキャバクラ行って、「金はない」って無銭飲食してんだよ。分かったか」
「おい!おい!」女はそう言って、怒って出て行った。
2番目に来た女は太っていた。樽のような体型のギャルだ。
「何か飲む?」
「金はない」
「シャンパン入れてよ」
「その前に、話がある。君の出身はどこだ?」
「広島」
「合格だ。『人間失格』を読んでみろ。一緒に死ぬ女も広島出身なんだ。それで君には罪人の夫がいるな?」
「そんなわけないやん」
「鎌倉に行きたいか?」
「湘南に行ったことあるよ。気持ちよかったな」
「じゃあ、決定だ。お前が鎌倉まで案内してくれ。金はない」
「あんた、ここは金のある人が遊びに来るところなの。何のつもり?」
「太宰と同じように、一緒に自殺するんだよ」
女はまたボーイを呼びやがった。
ボーイが言う。「もうお時間です」。
「うそつけ! 俺は店に入る時、時間を確認したけどな、あと15分もあるぞ。詐欺か。お前が詐欺で捕まったさっきの女の夫か?」
「延長料は一万円です」
「金はない!」




