自殺行
太宰の年譜によると〈昭和二十三年 六月十三日、(略)山崎富栄と共に玉川上水に入水。十九日、遺体が発見され(略)〉
俺も自殺することに決めた。
部屋の金属バッドで窓ガラスを割ってゆき、皿をフリスビーのように投げて割り、貯金箱も割って、中の金は捨て、家に放火してから外へ出た。
近所の婆さんがゆっくり歩いていたので、勢いよく小便をかけてやった。婆さんは乙女のように怯えていた。
俺は駅の方へ向かう。意味はない。
コンビニに入って、カウンターで売られているチキンを「100個くれ」と言い、「できない」と答えたので、その場でうんこしてやった。「これを唐揚げにしろ!」
俺は前々から眼鏡フェチなのだが、相手にしてくれる女はいないので、とりあえず眼鏡女は金属バッドで御自慢の眼鏡を割って歩いた。
以前、乱入したことのある交番、警官が不在中なので、ガラスを割り、侵入し、机も椅子も蹴倒してまわした。「あーほー、あほー」と落書きして。
スーパーへ来たが、レジの女がブス揃いなので、店長を呼び、顔で選ぶよう説諭した上で、店を放火した。
向かいにある本屋に入り、「俺の本はあるか?」と尋ねる。名前を聞かれたので、「本なんか出してるか!」と叫んで、本棚を次々と倒して廻った。しかも、太宰治の本を見つけ、ビリビリに破く。
俺はどこへ向かおうとしているのか? そうだ、駅だから飛び込み自殺しよう。
道で行き交う人、すべてに「本なんて読むな!」と説教した後、金属バットでぶん殴っていった。
駅前にはパチンコ屋があり、髪を染めた若い、腹筋の割れているのを見せびらかす服を着ている男が、パチンコ屋へ入ろうとしているので、背後から忍びより、後頭部を思いっきり金属バットでかち割った。
血がたらたら流れてくるので、さらに殴打し、ついでに金玉も潰してやった。
今は、夏休みなのか、高校生がうろうろいるが、子供を見るだけで虫酸が走るので、彼らの顔を金属バッドで、誰だか判別できないくらいに潰していった。
とりあえず、駅に着いたわけだが、金がないので、改札口の駅員をタコ殴りに殴り、無銭で入る。
駅には結構、人がいる。
飛び込む前に、タバコを吸いたくなった。
隣にいたおっさんにタバコを要求したが、「だめだめ」とエレキテル連合のようなことを言うので、こいつをホーム下に突き落とした。
周りの人間が騒ぎたてるので、金属バットを振り回し、とりあえず、俺は駅の喫煙コーナーへ向かった。
ちょうど知っている男がいた。こいつもへヴィースモーカーだ。
好きでも嫌いでもない、会ったら話すし、たまに遊ぶこともある。
しかし、本当は俺はこういう、好きでも嫌いでもない人間との付き合いが、一番嫌いなのだ。殺す!
「おい、タバコくれよ」と言って、差し出そうとした瞬間を狙って、ボコボコに殴ってやった。
もちろん、タバコは奪う。ああ、タバコっておいしいものだなあ。
しみじみ、そう思うと、偉くならなくてもよし、仕事の後の寝しなに1本、そんな甘い甘い小市民生活が自分にも出来るように思えて・・・・・
って、これは太宰の小説『狂言の神』に書かれてある一節、そのままじゃないか!
俺はやっぱり太宰だったのか? 俺の思考は太宰の思考? 太宰と同化、太宰そのもの?
しかし、電車の来るアナウンスがあった。飛び込む覚悟はできている。