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太宰治と出逢う

 夜、立ち呑み屋から帰って、部屋の電気をつけると、和服の男が立っていた。


 「うわ! 誰だ、お前!」


 「見て分からないか。太宰だよ」


 確かに写真に似ている気がするが、違う気もする。


 「君が僕のようになりたいと真似しているっていうから、わざわざ、あの世から来てやったんだ」


 嘘くさい。そんな話があるわけがない。新手の詐欺か?


 「じゃあ、あの世ってどんなところか、教えてくださいよ」


 「おっと、それは聞いちゃいけねぇ。機密事項だ」


 ますます、あやしい。だったら、マニアックな太宰クイズを出してやろう。


 「じゃあ、これに答えられるか?『狂言の神』がどこの出版社でも買ってもらえず、佐藤春夫に泣きついて立て替えてもらった金額は?」


 「急に変なことを聞くねぇ。クックック。30円だよ」


 「それで実際に雑誌に買ってもらった時の金額は?」


 「金のことばかりだねぇ。クックック。60円だよ」


 全部、当たっている。書簡集にそう書いてあるのだ。こいつは相当なマニアだな。本物?


 太宰はゴールデンバットに火を点け、吸いだした。


 「太宰さん、あんたを信じるから、いろいろ教えてくれよ」


 「酒が飲みたいな」


 たかりだ。たちが悪い。


 太宰は日本酒を飲みながら、自分から話しだした。「俺の真似なんてやめとけ。できるわけがない」


 「いいや、僕は太宰さんみたいにどうしてもなりたいです!」


 「働きなさい。真面目に働きなさい」


 「それだけは嫌だ。だから、小説で一発当てるんでしょうが」


 「働くことは尊いことだ。働くんだ」


 「嫌だ」


 「働け!」「嫌だ!」「働け!」「嫌だ!」「働け!」「嫌だ!」「働け!」「嫌だ!」


 不毛な応酬になってしまった。お互い目が血走ってきた。


 「君は本当にダメな人間だな」「あんたに言われたくないよ! 人間失格のくせに」


 「あれは小説のタイトルだ。馬鹿。とにかく、君に言えることは、働きなさい」


 「あんたが仕事を紹介してくれるのか」「そんなわけないだろう」


 「働け働けって、うるせえんだよ。母親かよ。もう帰れ。さっさと、あの世に帰ってくれ。そんで、二度と出てくんな」


 太宰はまだ酒が残っているを惜しそうにしながら、「仕方ない、帰る」と消えて行った。


 まさか、幽霊の太宰から働けと説教されるとは。ガッカリだよ。悪夢か?


 あいつこそ、作家になってからも30代になっても家から仕送りしてもらってたくせに。


 ああ、モチベーションがなくなったな。やる気がなくなったな、小説を書く気もなくなった。


 全てが嫌になった。むしゃくしゃする。


 そうだ、自殺をしよう。自殺してやる。太宰も最後は玉川上水に飛び込んで、入水自殺を完遂させたのだ。


 これが最後の太宰の真似。完結だ。よし、やるぞ!


 自殺ができるぞ、嬉しいな。自殺ができるぞ、嬉しいな。

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