結
娘は嘆き悲しみました。大粒の涙を流しながら、魔法使いの姿を探しまわりました。
食べる事も寝る事も忘れて探しました。
悲しみのあまりどのぐらいの時間そうして探し回っていたのかわかりません。
気がつくと森の奥の湖まで来ていました。
湖の水面に娘の姿がうつりました。
やつれて憔悴仕切った顔をしています。
幾日も探し回ってモウロウとした視界で眺めた水面に魔法使いの姿がうつっているような気さえしてしてきました。
娘は水面にうつっている魔法使いの姿に語りかけました。
「魔法使いさん、ごめんなさい。私のせいで魔法を使い果たして寿命がなくなってしまって・・」
水面の魔法使いが娘を見つめています。
「私はズルイ人間でした。私は真実の愛を求めるあまり、相手を試すような事をばかりしていました」
娘は湖を覗き込んで続けます。
「私は自分ばかり愛される事を望んで、自分から愛を差しだろうとはしていませんでした」
そして娘はわっと泣き出しました。
「こんな筈はなかったのに・・」
すると水面の魔法使いが静かに微笑むと娘に向かって手を伸ばしてくるではありませんか。
娘は魔法使いの手を掴もうと湖に身を乗り出し、吸い込まれるように湖に身を沈めました。
その時、魔法使いの声が聞こえました。
「僕こそごめんなさい。娘さんを試すような事をして」
魔法使いが湖の中に沈みかけた娘を後ろから抱きしめました。
魔法使いは言いました。
「娘さんは僕自身ではなく僕の使う魔法が気に入っていて、だから僕と結婚しようと思っているのかと思ってしまったのです」
娘は振り返り目をしばたきながら魔法使いの姿を確認しました。
「魔法使いさんなの?」
「はい」
「死んでしまったのではなかったのですね」
「はい」
そして魔法使いは申し訳なさそうに続けました。
「ごめんなさい。僕が魔法使いだから好きなのかと思っていました。だから僕が死んでしまったと思ったら僕の事など忘れて、誰か他の人と結婚すると言い出すだろうと思ったのです」
娘は涙を流しながら魔法使いの腕の中に飛び込みました。
「魔法使いさんが生きていてくれて良かった・・」
そして魔法使いに自分の思いを伝えました。
「今ならよくわかります。魔法使いさんと過ごした時間がどれだけ楽しくて幸せだったのか。私は魔法使いさんが私の作ったパイやパンを美味しいと言って笑ってくれるのが好きなのです。なんでもない話で一緒に笑ってくれるのが好きなのです。ただ一緒にいてくれるだけでいいのです。愛しています。魔法使いさん。魔法使いさんが魔法を使えても使えなくてこの気持ちは変りません」
魔法使いも答えます。
「僕も娘さんが湖に沈んでいってしまう、娘さんがこの世の中から消えてしまうと思った時、貴方のいない世界ではもう生きている意味がないと思いました」
それから魔法使いは娘を見つめて言いました。
「愛しています。どうか僕と結婚して下さい」
娘は魔法使いを見つめて返して言いました。
「はい、私も愛しています。どうか私と結婚して下さい」
それから娘と魔法使いはどちらともなく抱きしめました。
そして二人は結婚して末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし♪